2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「真理の微笑 真理子編」

四十九 今日は、会社に出る日だった。介護タクシーを呼んで出社した。 慣れないので、印刷した地図を運転手に見せ、道順を辿りながら会社に行くと、移転した会社は見違えるようだった。 真理子は高瀬を見ていて、朝から落ち着かないようだった。これからこの…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十八 夜が明けていた。 昨夜は、何度、抱き合ったことだろう。真理子にも、過去に記憶がないほどだった。 真理子は化粧台に行き、髪をとかした。昨日、化粧台の鏡に映った自分と今の自分を比べてみた。何かが変わったような気がした。それが何かはわからな…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十七-2 高瀬が、病院では食べられなかったと言うので、夕食は寿司を注文した。 二人前が一つの桶に入って届けられた。夕食は今まで一人でとっていたのが、今は二人で食べるというのが、実感できる物だった。 大トロもウニもいくらも美味しかった。一人で…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十七-1 真理子は高瀬の車椅子を窓辺に押していき、書斎から外の風景を見させた。「ねぇ、思い出す」 そう真理子が訊いたが、高瀬は首を左右に振った。 真理子が「そう、駄目なのね」と言うと、高瀬は「そうがっかりするなよ、俺はこうして真理子と二人だ…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十六 十一月に入ると、真理子は毎朝、高瀬の朝食が終わる午前八時半頃に病室を訪ね、何か必要なものがあるかどうかを訊いた。しかし、本当は病室を出る時にする高瀬とのキスを求めていたのかも知れなかった。 新しい会社に移ってからは、時折、思い出した…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十五 真理子が家に着いたのは、午後五時前だった。 早速、洋服店に電話をした。「では、何時に伺えばいいでしょうか」と訊くので、真理子は「午前十一時にお願いできる」と訊いた。「ええ、大丈夫ですよ。では、午前十一時に****病院の****室です…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十四 木曜日、真理子は午前八時に起きた。今日は設計士の人が来る予定だった。 急いで、朝食を済ませると、家の掃除をした。 午前九時に設計士の人たちが来た。四人だった。彼らは二人ずつがペアを組んで、改修する箇所の細かな数字を計測しては、設計図に…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十三 水曜日、真理子は病院に寄った後、会社に行った。 真理子は社長室に寄らず、直接、開発部に顔を出した。昨日社内を見回った成果だった。部屋の奥のデスクにいた内山を呼んで、データベースソフトに詳しい者を選んでもらった。 真理子は二人に、病室へ…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十二 次の日、真理子は午前八時半に病院に行った。「今日はシャワーの日よね」「ああ」「肌着、持ってきたわ。忘れるといけないからもう一枚買ってきたわ。それにバスタオルとフェイスタオルも多めに持ってきた。クローゼットに入れておくから看護師さんに…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十一 月曜日になった。 真理子は病院に寄ると、すぐに会社に向かった。 午前九時には会社の社長室にいた。内線ですぐに高木を呼び出した。「あなたも大変よね、日曜日にまで富岡に呼び出されるなんて」 真理子は高木にかまをかけてみた。それを聞いた高木…

小説「真理の微笑 真理子編」

四十 真理子は家に戻ると、すぐシャワーを浴び、ベッドに横たわった。 明日、見積もりが来ることを話したら、富岡が「明日は来なくていい」と言った。真理子は「わかったわ」と答えた。富岡となっている高瀬隆一にどうこれから向き合っていったらいいのか、…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十九-2 必要なものを買うと、真理子は病院に向かった。 戻りながら、富岡が高瀬隆一であることを確かめたくなった。通りがけに書店が目に入ったので、車を止めた。 店内に入ると、週刊誌が置かれているコーナーに向かった。大抵の週刊誌は、トミーワープ…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十九-1 真理子は午前八時過ぎに病院に向かった。病室に入ると、富岡が朝食をとっているところだった。 真理子が椅子に座ると、「休めているのか」と富岡が言った。 真理子は首を左右に振った。高瀬隆一と思われる男とキスをしたことが、真理子の頭からは…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十八-2 出社した真理子は社長室に入ると、すぐに高木を呼んだ。 昨日、富岡が検討して欲しいと言っていた物件を高木に見せた。「社長がここがいいと言うんなら、いいんじゃないですか」「そう」「ええ、そう思います」「それでは、この物件にあたってみ…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十八-1 通りがかりの電気量販店で、富岡が注文した品を病室まで届けてくれるように頼むと、途中のピザ店で食事をとった。 明日、シャワーを浴びると言っていた富岡の言葉を思い出した真理子は、コンビニに入って、バスタオルとフェイスタオルに肌着をそ…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十七-2 「何て人たちなの」 真理子は肩で息をしていた。 二人の刑事が出ていくと、「何あれ」と真理子はまだ怒っていた。「その誰かの失踪とあなたの事故がどう関係があると言うのよ。邪推もほどほどにして欲しいわ。もう刑事たちが来ても病室には入れな…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十七-1 社長室を除いて、相変わらず会社は騒然とした中で仕事は続けられていた。 午後になって、高木が新社屋の資料をプリントアウトしたものを持ってきた。「一応、十二件ほどの物件をピックアップしてみました」「そう。じゃあ、早速、富岡に見せるわ…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十六 真理子が会社に行くと、高木と田中を社長室に呼んだ。 二人が入ってきて、椅子に座ると、早速、真理子が切り出した。「昨夜、富岡と話したんだけれど、会社移転しようっていうことになったの」「会社移転ですか」 二人同時に、椅子から飛び上がるよう…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十五 火曜日の午前八時半頃に、真理子は病室に入っていった。富岡は朝食を済ませていて、看護師がその御膳を片付けに来ているところだった。 ショルダーバッグに入れてきた手帳とインタビュー記事が載った雑誌を、真理子は「これでいい」と渡すと、富岡は…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十四 月曜日午前九時だった。病院に寄らずにそのまま会社に直行した。 真理子は、昨日の件がどうなったのか、気になっていたのだった。富岡もそれを知りたいだろうと、思ったのだった。 社長室に田中を呼んだ。 昨日の件を訊くと「方針が決まったので、今…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十三 日曜日だったが、真理子は午前九時過ぎに会社に行ってみた。会社は平日のように動いていた。TS-Wordが発売されたからだった。今は、会社にとっては土日もなかったのだ。 開発部に顔を出した。 寝袋から出てきたばかりの、真理子は名前の知らない人が…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十二 会社に寄ってから病院に行くことにした真理子は、午前九時には、会社にいた。昨日、富岡から託されたデバッグをやっている人を富岡の病室に連れていくためだった。 社長室に入ると内線で開発部長の内山を呼んだ。「今、TS-Wordのデバッグをやっている…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十一 帰りがけにナースステーションを通ると、看護師に呼び止められて、「富岡さんは、明日から流動食になりますので、ご承知ください」と言われた。「点滴はなくなるんですか」と訊くと、「いいえ、点滴はそのままです」と応えが返ってきた。「わたしが食…

小説「真理の微笑 真理子編」

三十 TS-Wordの販売は以前好調が続いていた。社内は活気に満ちていた。 木曜日になると、販売宣伝部の松嶋が社長室にやってきて、「このまま行くと、販売数が足りそうにないんですが……」と言ってきた。「一万ロットを超えるっていうこと」と真理子が訊くと、…

小説「真理の微笑 真理子編」

二十九 月曜日になった。午前十時少し前に真理子は病院に向かった。病室に入ると、真理子は横たわっている富岡を見た。包帯に巻かれた顔を見るのは、これが最後だった。手術が成功して元通りの顔になっていればいいと思う自分がいることに気付くと、真理子は…

小説「真理の微笑 真理子編」

二十八 八月六日の日曜までは、特に何も変わるところがなかった。富岡の手にされていた拘束は日曜の午前中には外されていた。 月曜日の午後六時頃、病院に行くと、ナースステーションの看護師から、今週の水曜日に、今いるHCUから一般病室に移るという話…

小説「真理の微笑 真理子編」

二十七 翌朝、真理子は病院に寄った。いつものように富岡を見舞うためだった。 ナースステーションに行き名前を言うと、「ちょっとお待ちください」と言われた。 内線でどこかに連絡しているようだった。 しばらくしたら、上森医師がやってきた。その顔には…

小説「真理の微笑 真理子編」

二十六 金曜日の夕方、病院に行くと午後六時頃、主治医である中川医師の回診があった。数人の医師が後ろについてきていた。「富岡さんの二度の手術は上手くいき、経過も順調です。腎臓が悪いのが気にかかりますが、治療を続けていけば良くなるでしょう。ただ…

小説「真理の微笑 真理子編」

二十五 翌日、保険会社への手紙をポストに投函すると、病院に富岡を見舞ってから、会社に行った。 社長室に入って、しばらくするとお茶を運んできた滝川が「社長の手術はどうでしたか」と訊くので、「無事終わったわ」と答えた。「それはよろしかったですね…

小説「真理の微笑 真理子編」

二十四 日曜日らしい日曜日を過ごした真理子は、月曜日に病院に寄った。午前八時を少し過ぎた頃だった。 秋月医師と湯川医師から話があるというのは、土曜日に聞いた留守電で知っていたので、二人が現れるのを待った。 ナースステーション前のソファに座って…