2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 1」

次回は、9月5日にブログアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 1」

三十一 六曜に一度の、相川と佐々木の稽古も、一と十五の日の堤道場を訪れるのも変わりなく、冬を迎え、中頃になってきた。十一月には、選抜試験があるというので、道場の門弟も気合いが入っていたし、一と十五の日に訪れる堤道場の稽古の気合いの声も荒々し…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

三十 僕は、慣れない筆と紙で、状況を整理してみた。 今の藩主は病弱だが、側女に二歳になったばかりの男子がいる。しかし、二歳の男子では藩政は司れないから、それをやるのは、後ろ盾になっている側用人と大目付に四人の目付だ。それに対して、藩主の次男…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十九 城から屋敷まで付けてくる者がいた。襲ってくる気配はなかったので、放っておいた。 風呂に入り、夕餉の時に島田源太郎や佐竹に今日の詮議について、話して聞かせた。「大目付がそんなことを言っておったか」「城内にいる御家老の身が心配です。島田…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十八 次の日の午前中、城より使いの者が来て、大目付より鏡京介に質疑があるとの伝言が伝えられた。 鏡京介は、城に上がる支度をきくにしてもらい、伝言を伝えに来た者と一緒に登城した。 殿中に入る前に、若侍に刀を渡し、控えの間に通された。 襖が開け…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十七 朝、道場に行けば、小手の次に胴、突きそして面の打ち方を教えた。そのうちに、連続技も教えるつもりだった。 一の日が来たので、僕は堤道場に行った。 たえが門の所で待っていて、「家に寄っていきますか」と言うので、「道場の稽古風景を見学させて…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十六-2 玄関を出た後も、角まで歩いた。 たえは、袖を口元に持って行き、少し笑った。 僕が怪訝な顔で見ると、「おきくさんはかわいらしい娘さんですね」と言った。「どこがですか」と訊き返すと、たえは「お気付きになりませんか」と言った。 僕が首を…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十六-1 朝餉の後、道場に行くと、前進しながらの素振りをしていた。数日の間に、皆の動作が素早くなっていた。 相川と佐々木を呼んだ。「お前たちは掛かり稽古をしろ」 二人は掛かり稽古の意味がわからないようだったので、説明をした。元立ちといわれる…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十五 相手の数は増えてきていた。「鏡殿」と佐竹が言った。「ご心配、無用。まだ、数が足りていません」「そんなことを言っても、もう十人はいますぞ」「十人は、一人と同じことです。全員を成敗しなければ、この先、やっかいごとは続くでしょう」「でも相…

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二十四 翌日、道場に行くと、どこで知り得たのか、龍音寺の噂で持ちきりだった。 噂話はだいぶ大袈裟になっていた。こういう話は大袈裟に伝わるものなのだろう。 僕がいくら修正しようとしても、余計に悪くなっていった。 午後になって、家老が横手門の前で…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十三-2 きくの袖を掴むと、きくは震えていた。 きくの腕をとって階段を上がっていった。 侍たちは二人を残して、残りは仲間を呼びに行った。 墓の前に来て、きくは「恐ろしゅうございました」と言った。 そして「あなた様は怖くはないのですか」と訊いた…

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二十三-1 朝餉の後は、家老はすぐに城に戻っていった。 僕は島田源太郎に、きくを連れて町に出てもいいか、尋ねた。「昨日の父の話を気にしているのか」と訊かれた。「そういう訳ではありません」と答えたが、家老の嫡男だけあって、なかなか鋭いなと思っ…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十二-2 庭に出て真剣で素振りをした。 切っ先が空間を切っていく感じが心地良かった。 正眼の構えから下段に切っ先を落とし、下から切り上げてみた。どの切り方をしても相手には僕の剣は見えないだろう。と言って、わざと剣をゆっくり動かしても、本気で…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十二-1 道場は活気づいていた。百人を二組に分けて、一日置きに五十人ずつが道場に稽古に来ていた。 選抜試験をしたためか、緊張感があった。 彼らは素振りの練習をしていた。場所がないため、同じ位置にいての打ち下ろしだった。 僕は、一度、練習を止…

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二十一ー3 子どもは六歳になる男の子だった。僕はたえが渡してくれた手ぬぐいで躰を拭き、着物を着た。そして、川の側の石の上に座った。さすがに疲れていた。 子どもの母親は意外に若かった。十六の時に子どもを産んだと言うから、まだ二十二歳だった。「…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十一-2 町中を歩いていると、僕とたえは目立った。 僕は百七十八センチでこの時代では背のかなり高い方で、たえも百六十センチを少し超えているぐらいで、モデルのような体形をしている上に、この時代の背の高い男性と変わらない高さだったからだ。そん…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十一ー1 二週間ほどが経った。十五の日が来た。道場が休みの日だった。 僕は一人で町に出た。 堤道場がどうなっているのか、見てみたいと思ったのだった。 道場の近くに来ると、中から稽古をしている音が聞こえてきた。門の所に立っていると、たえが来た…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

二十 次の日、道場に行くと、勝ち残った百十七人が揃って待っていた。 僕は神棚に一礼をして、その下に座った。「これから言うことをよく聞いてくれ。選抜試験は、今回一回きりではない。三ヶ月に一回行う。次からは今、道場にいる者も試験を受けてもらう。…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

十九-2 その時だった。「待ってください」と言うたえの声が玄関から聞こえて来た。しかし、その声は「ああ」と言う押し倒されたような声に変わった。 間もなく、玄関を上る音がして、襖が開かれた。「客人が来ている。控えてもらおう」 堤はそう言った。「…

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十九-1 次の日も選抜試験は、朝早くから始まっていた。今日で一通りの対戦は終わる。それでも百十七人が残る。 明日は道場は休みの日だから、明後日はその百十七人が戦う。それでもその日に入門者は決まらない。翌日、もう一度戦って、ようやく入門者が決…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

十八 朝餉の後に道場に行くと、もう人が集まっていた。 僕が道場に入ると「選抜試験はまだですか」と質問された。「今しばらく、待て」 一番年長の者を呼び、「何人ぐらい集まっている」と訊いた。「二百人ぐらい集まっています」「昨日の倍じゃないか」「選…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

十七 祝宴が始まる前に風呂に入った。そして、祝宴に着て行く着物をきくに着せてもらった。 まもなく祝宴が始まった。 僕が最後に入っていき、家老の嫡男、島田源太郎の隣に座らされた。その時には盛大な拍手とかけ声が沸き起こった。 きくはその声と拍手の…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

十六 早朝だった。 昨夜もきくとは交わらなかった。ただ、抱いて眠りはした。 きくはまだ眠っていた。起こさないように、きくから離れた。 立ち上がると躰が軽い。 毒の影響はすっかり無くなっていた。 障子を開けて廊下に出ると、まだ月は低く浮かんでいた…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

十五 前の晩はきくと口づけをしただけで眠った。 きくを抱けるほど躰は回復していたわけではなかった。 しかし、朝起きると、自分で半身を起こせるだけでなく、まだ少しふらついてはいたが、立ち上がることもできるようになっていた。 きくがそんな僕を見て…

小説「僕が、剣道ですか? 1」

十四 きくと二人だけになるとホッとした。 横になろうとした時に股間がもごもごするので、手を当ててみた。おむつをしていた。 三日三晩、意識を失っていたのだから、下の世話は大変だったろうと思った。「済まなかったね」と呟いていた。「何ですの」ときく…