2019-01-01から1年間の記事一覧
十六 ガラス屋が来て、玄関のガラスと、納戸と風呂場のガラスを入れ替えた。もともと割れにくいように中に針金が入っていたが、今度のはもっと強度が高い物だとガラス屋は説明した。代金を払って領収書をもらった。それを携帯で写して、保険会社に送信した。…
十五 寒くなってきたから、革ジャンパーの上にオーバーコートを着た。 オーバーコートには、武器はない。 ショルダーバッグを持つと結構重い。 きくとききょうを連れて、新宿御苑を散歩した。ここなら、黒金高校の連中に会う心配はなかった。ききょうは乳母…
十四 また、きくが玄関に待っていた。「沙由理さんとのデートはどうでしたか」「良かったよ。誤解も解けたし」 そう言うと、きくの機嫌は悪くなった。どうやら、僕は地雷原を踏んだようだ。「良かったですね。楽しそうで」「まあまあかな」「お気を遣ってい…
十三 午後一時半前に家を出た。少し早かったが、新宿南口まで歩いて行くつもりだった。 十分ほど前に着いたが、沙由理の方が早かった。あまり歩くことをせずに、駅ビルでおやつを食べることにした。僕も沙由理もお昼は食べていなかったので、少しボリューム…
十二「京介様、沙由理様とのデートは楽しかったですか」 家に入るなり、玄関の廊下の上がり口の所に敷いてある小さなカーペットの上にきくが正座して、そう訊いた。「楽しいも何も大変だったんだよ」と答えた。「大変だったとは、何かあったんですか」 いつ…
十一 問題の日曜日が来た。 僕は午前八時に起きた。朝シャワーして、朝食を軽く食べた。歯を磨き、長袖シャツとセーターを着て、ジーパンを穿いた。髪を整えたら、九時を少し過ぎていた。まだ、時間は早かった。 財布に現代美術展のチケットを入れて、オーバ…
十 この週末から冬休みに入る。 授業も身には入らなかった。 ほとんどの奴らが、スキー旅行に行くようだった。当然、富樫も行く。 僕だけが取り残されたような気分になった。 食堂でひとりまったりしていると、「今度の日曜日、空いてる」と絵理が訊いてきた…
九 月曜日が来た。 今日は月一回の朝礼がある日だった。 それに僕にとっては最悪の日でもあった。何と、赤ちゃんを助けたことで表彰される日だった。表彰みたいなことは、して欲しくはなかったが、断る勇気もなかった。 結局、ずるずると朝礼を迎えてしまっ…
八「止めろ」 僕はきくとききょうを路地の奥に押しやった。 周りから、何人かがきくとききょうを捕まえようとしていた。 その写真も携帯で撮った。写真を撮られたことは、奴らには分からなかったはずだ。 きくに最初に手を出そうとした奴の顔面を思い切りナ…
七 次の日は日曜日だった。母は用があるとかで、朝早くから出かけていた。 晴れたいい日だった。きくは昨日買ってもらった服を何度も着替えて鏡に映していた。「出かけたいなぁ」ときくは言った。 昨日の新宿での買物が楽しかったのだろう。「そうだな、こん…
六 僕は撮った写真をクラウドストレージ(インターネット上にある保存場所)にアップロードした。携帯を奪われたり、壊された時の保険だった。 こちらの顔を見られているから、彼らがこのまま黙っているはずはないと思った。ただ、すぐには見つけられないだ…
五 寝る場所については、きくと母が鋭く対立した。 母はリビングに布団を敷き、そこにきくとベビー籠に入ったききょうを寝かせると言ってきかなかった。きくは僕と同じ部屋に寝ると言い張った。「こればかりは、お母上のお言葉でも受けられません。わたしは…
四 月曜日は朝、採血があり、すぐにレントゲンが行われた。 午前中に女医の診断があり、健康そのものと太鼓判が押された。 看護師から退院の手続きの話があるので、母に来てもらうように言われた。 すぐに携帯から電話をした。向こうは結構大変なようだった…
三 二階のダイニングに上がると、母と父は怒っていた。「病院から電話がかかってきたわよ」 母が険しい声で言った。「すぐ戻るように、って」「分かっている。それより、ききょうはどうしている」「今は眠っているわ」「あの子はどうしたんだ」と父が訊いた…
二 家に着いた。 カードキーで中に入った。 僕の部屋から大きな声と赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。 僕は慌てて三階に上がった。 僕の部屋を開けると、母と父が僕を見た。 その後で、「京介」と言って、きくが立ち上がり、僕に抱きついてきた。 まだびしょ濡…
僕が、剣道ですか? 3 麻土 翔 僕は西日比谷高校の一年生。ある日、雷にうたれて過去に飛ぶ。そこで某藩の家老の奥方を救い、その家老の屋敷で生活するようになる。世話係としてきくが選ばれ、きくとの間にききょうという女の子を授かる。 いろいろなことが…
三十九 僕は大きくくしゃみをした。目を開ければ僕はベッドの上だった。「京介、わかる」と言う母の声が聞こえた。そして、ナースコールのボタンを押した。 看護師が来て僕を診た。「先生をお呼びしますからね」と看護師は言った。 ほどなく医師が来た。 僕…
三十八 次の日、堤邸に行った。 たえが門の掃き掃除をしていた。「今日、鏡様が来られるような気がしていました。お躰の疲れはとれましたか」「ええ、このとおり」 そう言うと、僕の手を取って指を絡ませてきた。 玄関から座敷に上がると、堤竜之介がやって…
三十七 帰りも湯沢屋で一泊した。「あーあ、いい湯だ」 中島と近藤は上機嫌だった。大任を果たした安堵感が滲み出ていた。 僕はひたすら疲れを癒やしていた。 風呂から上がり、夕餉を食べると、布団が敷かれる前に僕は眠ってしまった。それだけ疲れていたの…
三十六 朝食後、藩主に朝のお目通りをした。「昨日はゆっくりと眠れたかな」 滝川は僕に向かっていった。「はい、ゆっくりと休ませてもらいました」「そうか、それは何より。体調は万全かな」「ええ、調子はいいです」「それは良かった。時間まで、ゆるりと…
三十五 その日の夕餉は、妙に滝川劍持の機嫌が良かった。「いやー、あの二十人槍を氷室隆太郎以外の者が破るとは思ってもみなかった。珍しいものを見せてもらった」 滝川は酒を注いでもらっていた。「こうなるとどうしても気になる」 氷室隆太郎の方を見て、…
三十四 次の日はよく晴れていた。 僕はぐっすり眠れた。中島と近藤は、よくは眠れなかったようだ。 寝間着から着物に着替えた僕が「おはようございます」と元気に挨拶しても「おはよう」と返すのがやっとのようだった。 僕は朝餉をすっかり平らげ、中島と近…
三十三 僕は風呂敷に包まれた懸賞金を前に、家老に「こんな大金、どこにしまっておいたらいいのでしょう」と訊いた。 家老は「うちの蔵に入れておけばいい」と言った。「金蔵という金庫番がいてな、彼に言えば蔵を開けてもらえる」「はぁ。でも、金が入り用…
三十二 道場に出るのは、久しぶりだった。 だが、此所でも山賊成敗の話をねだられた。 話さなければ、稽古にならない雰囲気だった。仕方なく、僕は何度目かの山賊成敗の話をした。 半月が過ぎ、一月が経とうかという頃に、夕餉の席で家老から、明後日、僕に…
三十一 座敷に戻り、きくに「七百五十二両貰えるそうだよ」と言うと、「へぇー、七百五十二両ですか」と驚いた風もなく聞いた。その後で、「七百五十二両って言いました」と訊き返してきた。「そう言ったろ」「七百五十二両で間違いないんですね」「うん」「…
三十 次の日、僕は佐野助に山奉行にこのことを伝えるように言った。 僕は念のために村に残った。 湯を沸かしてもらい、昼間、躰を洗った。ついでに洗濯もした。山賊の返り血を浴びて、オーバーやセーター、厚手のシャツやジーパンが血まみれだったからだ。 …
二十九 一晩ぐっすり眠った。 洞窟は子どもたちでいっぱいだったから、女たちと外で寝た。女たちは寝られなかったようだ。 朝食を作る女たちと一緒に僕も村に降りていき、朝ご飯をたっぷり食べた。そしておにぎりも作ってもらった。女たちはおにぎりを沢山作…
二十八 僕は後悔の念と、憤怒の思いが湧き上がった。 相手は最初は五人だったが、続々集まってきた。 もはや、嬲り殺している余裕はなかった。刀が金色に輝き出した。 相手が刀を振り下ろしてきても、かすりもさせずに斬り倒していた。刀に当たっても僕の刀…
二十七 逃げ出していった男たちの報告で、事態は容易でないことが、山賊たちにもようやく分かったようだ。 僕はいったん林に逃げ込んだ。 竹水筒を取り出して、水を飲んだ。お腹も空いていた。 オーバーを隠してある所まで戻って、干し柿と干し葡萄を食べた…
二十六 朝、目覚めると佐野助はまだ眠っていた。朝は寒かった。 山陰には、まだ日は当たっていなかった。山の上の方が明るかった。「起きるぞ」と佐野助に声をかけた。 佐野助はブルブルと震えるように起き上がった。 僕は干し柿と干し葡萄を食べた。佐野助…