2024-01-01から1年間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 7」

次回は、7月26日金曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 7」

二十三 夏休みに入った。 沙由理は、何かと誘ってくる。きくの存在には驚いただろうが、従妹がお従兄(にい)ちゃんを愛していると言っているのと変わらないのだと理解したのだろう。 以前と何ら変わらなかった。まさか、ききょうと京一郎が僕の子だとは思わ…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

二十二 一ヶ月が経ち、その間、小児科医院にも行った。 期末試験が迫っていた。 それが終われば、夏休みになる。夏休みには、インターハイがある。今度は全国の強豪が集まる。楽しみだった。 だが、僕は部活はやっていなかった。監督は何も言わなかった。 バ…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

二十一 夏季剣道大会兼関東大会の個人優勝も一段落ついたところで、僕ときくは小児科医院に一ヶ月経ったので行った。そこで、ききょうと京一郎に予防接種を受けてきた。そして、次の予約を取って医院を後にした。 父と母はショールームに行っていた。内装を…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

二十 優勝杯と楯は富樫が家まで持ってきた。 「お邪魔しまーす」と入ってきて、いきなり玄関できくが三つ指突いて、「いらっしゃいませ」と言ったのには驚いたようだ。 僕には「お帰りなさいませ」と言った。 「あれ、まだおきくちゃんいたの」と富樫が言う…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十九 次の日、富樫が迎えに来て、区立体育館に行った。 昨日とは雰囲気が違っていた。西日比谷高校の控え場所に行くと、みんなの顔が強ばっていた。今日はベスト八になったことで、女子応援団が急遽来ることになったということもあったのだろう。 監督は「リ…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十八 きくが握ってくれたおにぎりを食べていると、道着を着た知らない男が近付いて来た。 「強いね。無反動の鏡君」と言われた。 「誰」 「僕を知らないの」とそいつは言った。 「知らない」と答えた。 「去年のこの大会の優勝者なんだけれどな」と言った。 …

小説「僕が、剣道ですか? 7」

次回は、7月23日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十七 四月末から五月初めにかけての連休も終わった。 その間に、沙由理とは何度会ったことか。百点は確実に超えていた。沙由理は強引だったが、その強引さが、僕は嫌いではなかったのが、原因だった。 また土曜日にと誘われたが、次の土曜日は、ききょうと京…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十六 富樫に借りていた剣道の道具代を渡した。 「後でも良かったのに」と富樫は言ったが、「こっちは早い方がいいと思っているんだ」と僕は応えた。 「もう、連休だな」と富樫が言った。 「飛び飛びのな」と僕は応えた。 テレビで言っているような大型連休に…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十五 月曜日に注文していた物が届いたということで、休み時間に富樫から剣道具の一式が渡された。 「本当は練習に来て欲しいんだがな。一応、部員なんだからな」と言った。 「俺が行ったら、練習にならなくなる」と言い返した。 「部の方針も、無理に練習を…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十四 カラオケは午前十一時から始まった。 「メールしたのに返事は来ないし、携帯にも出ない。昨日は何してたの」と沙由理は言った。 「大事な用事があったんだ」と答えた。 黒金金融に行く時に、携帯の電源を切っておいたのを、今日起きるまで気付かなかっ…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十三 月曜日から木曜日まで、業者の学力試験があった。 僕は時間が止められるから、余裕で答えを盗み見た。学力試験などどうでも良かった。赤点を取らないことが大切だった。業者テストでも、多少とも成績表に響くからだった。 金曜日に家に帰ると、午後八時…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十二 退院後、学校に行くと、早速富樫が寄ってきた。幸い、今度は別のクラスだった。だから、休み時間しか会えない。 「お前、不死身だなぁ」と言うのが、挨拶のようなものだった。 その後で、「剣道部に入部の手続きはしておいたからな」と言った。 「おい…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十一 ベビーベッドにはききょうがいた。枠に掴まって立っていた。京一郎も起きていた。きくは京一郎に哺乳瓶からミルクを与えていた。 今は午後九時だった。 ネットで黒金金融の電話番号を調べた。電話したが、当然誰も出ない。 だったら、行くしかなかった…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十 一週間が過ぎるのは、長かった。その間に、富樫と沙由理が見舞いに来た。 富樫は相変わらずだった。 「この不死身野郎が」と言って、いきなりヘッドロックをしてきた。 「一応、入院中なんだけれどな」と僕が言うまで止めなかった。富樫のヘッドロックも…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

九 僕は病院のベッドの上にいた。 僕が呻くと「京介」と母が僕を呼んだ。僕は母の顔を見た。 母はナースコールを押した。すぐに看護師が来て、僕を見て「先生を呼んできます」と言った。 僕は母に「携帯を持っている」と訊いた。母は頷いた。 「僕の部屋にき…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

八 月を見る。まだ三日月だから、満月までに間があった。 家のことはすでに大家に話して、借主が風車大五郎に変えてあったが、大家には僕が今月中に田舎に戻ることになったが今まで通り頼みますよ、と念を押しておいた。 「叔父が亡くなったので、その後を継…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

七 夕餉の後、僕は風車、ききょうを抱いたきく、みねがいるところで、「今夜、決行します」と言った。 風車が「どうしてもしなければならないことなんですね」と言った。 僕は頷いた。 そして、風呂場に行ってちょっとした準備をした。それは、ビニール袋に…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

六 買物に浅草に来ていた。頼まれた物は、まだ買ってはいなかったが、取りに行けばいいだけだった。おやつの饅頭だったのだ。 時間があった。店々を見て歩いていた。そのうちに、染料屋に入り込んでいた。 朱色の染料に目が奪われた。それが溶かれた水は、ま…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

五 風車の筆学所はますます評判を上げていった。風車はその風貌とは異なり、人柄が良かったからだ。そして、先生向きだった。教えることが好きだったのだ。 教え子が増えるにつれ、離れにも長い座卓が置かれるようになったので、みねの身の回り品は、女中部…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

次回は、7月16日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 7」

四 次の日から、昼餉はいらないと言って、遠出をするようになった。飯田橋の辺りを歩き回っていたのだ。そして、ついに、二宮権左衛門の屋敷を見付けた。大きな屋敷だった。 寺も近くにあった。 この屋敷に、二宮権左衛門がいる時に襲えば、仕留められる。そ…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

三 風車の筆学所は、盛況だった。教え子がすでに三十人を超えていた。教える場所のキャパシティも超えていたので、昼餉までの部(午前の部)と昼餉からの部(午後の部)とに分けて教えていた。相手の理由で毎日来られない子もいた。それらの子は、授業料を按…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

二 修太郎と修二郎は、朝餉の済んだ巳の刻(午前九時から十一時頃)の少し前に来た。 風車は、二人を表座敷に上げ座布団に座らせ、座卓の前に着かせた。彼らの横に風車が座ることになった。 硯などは、今日二人が来ることを予想して用意して置いた。両国に買…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

僕が、剣道ですか? 7 麻土 翔 一 秋も過ぎ、寒さが増してきた頃だった。 みねは、年若いきくをたてて、二人は仲良く炊事をしていた。 もうすぐ朝餉だった。 みんなが、卓袱台の前に座った。僕が「頂きます」と言うと皆が「頂きます」と言って箸を取った。 …

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十六 料亭を出ると、夜風が気持ちよかった。 少量の酒だったが、何だか酔った気分になった。 風車はみねと手を繋いでいた。 僕はききょうを抱いていたので、それはできなかった。代わりに、きくが頭を預けてきた。それは少しの間だけだったが。 ききょうは…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十五 船着き場に着いた。 風車は、みねの手を取りながら、桟橋に降りた。 舟は空いていた。 二艘使うことにした。 一つの舟には、風車とみねを乗せた。そして、もう一艘の舟に僕と行李を担いでいる小僧が乗った。 向こう岸には、すぐに着いた。 舟から下り…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十四 その日が来た。 朝早くに目が覚めた。風車も同じだったろう。 昨日に増して、風車は落ち着きがなかった。それは当然だった。 僕も、朝餉を食べたが、何を食べたか覚えてはいなかった。 午前中に使いの者が来るはずだったが、それを待つのが長かった。…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十三 鈴蘭こと、みねの迎えに行く前日になった。もう準備はおおよそ整っていた。足りない部分は、おいおい揃えていけばいい。 朝から風車は落ち着かなった。 「明日ですよ、明日」と僕が言っても、耳に入らないようだった。 今日は夕方に着物を呉服店に取…