2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 4」

次回は、7月3日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十六 朝餉が済むと、肌着を着て、昨夜、干した着物を着た。床の間から刀を取ると、帯に差した。その格好で玄関に向かうと、「袴を穿かれた方が良さそうですな」と木村彪吾に言われた。 「私には、これしか着る物がなくて」と言うと「今、持ってこさせます」…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十五 朝餉も終わろうとしていた頃だった。 僕は木村彪吾に、思いきって「この際ですから、私を城中に入れさせては貰えませんか」と言った。 木村彪吾は「いかなる名目で入城されるおつもりですか」と訊いた。僕は、「私には、見せ技の一つに真剣白刃取りとい…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十四 朝餉の時に、木村彪吾は「実は、わたしは鏡殿のことを詮索していました。もしや、幕府の間者ではないかと疑いを持ったのです。当藩のことを調べて、幕府に報告するのではないかと、おそれたのです」と言った。 僕は「それでどうでした」と訊いた。 「記…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十三 しばらくすると、木村彪吾が城から馬で屋敷に帰ってきた。 戌の刻までには、二時間ほどあった。稲荷神社がどこにあるかは知らないが、さほどの猶予はなかった。 木村彪吾が客室にやってきた。 「息子がさらわれ申した。鏡殿なら、どうなされるか」と訊…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十二 朝餉の時に、僕は木村彪吾に「鷹岡藩は初めて来た所なので、何か珍しい所とか物があれば、行って見たいものですが」と訊いた。 「当藩で有名なのは、こけしです。こけしの店は随分あるから見られるといいでしょう」と答えた。 「お寺はどうでしょう」 …

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十一 昼餉の後、もう一度風呂敷を包み直して針を刺しておいた。 そして、きくとききょうを連れて、町に出かけた。 午前中は虎之助が一緒だったので、何となくリラックスして見ることができなかった。午後はゆったりと見て回ることができた。 甘味処で、汁粉…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十 目付の木村彪吾は、目付らしい鋭い眼光をしていた。 「今日は息子、虎之助の危ないところをお助け頂きありがとうございます」 「いえいえ、番所の役人も来ていましたから、私がいなくてもなんとかなったでしょう」 「その番所の役人たちも斬られたと息子…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

九 番所での書取りには、時間がかかった。 その間にお茶が出されただけだった。きくはききょうにミルクを飲ませた。 しばらくして、番所に先程姿を消した若侍が入ってきた。 彼は僕に「危ないところをお助け頂きありがとうございました」と言った。そして、…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

八 夕暮れまで大山道を歩き、高杉宿に着いた。道行く人に次の宿場まで三里ほどあると聞き、ここで宿をとることにした。 通りがかりの人にどこの宿屋がいいか訊くと、皆、若松屋だと答えたので、若松屋に泊まることにした。 赤ん坊がいるので、隅の個室がいい…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

次回は、6月26日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 4」

七 それから三日後、四月二十七日の昼頃だった。 高木屋に男が来て「鏡京介様はいらっしゃいませんか」と言うので、下りていくと、上がり口に行商人が座っていた。 「私が鏡京介だが、あなたはどなたですか」と訊いた。 「名乗るほどの者ではございませんが…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

六 次の日は、朝餉が運ばれてきたと言うので起きた。 布団をたたみ、食膳を部屋に入れたところで、僕は外に干してあった着物を着て、顔を洗いに行った。着物は乾いていた。 朝餉は、やはりいつもより多めに食べた。 食べ終わった後、眠くなったので、きくの…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

五 宿に戻ると、僕の帰りが遅いので、きくが心配していた。 僕は番所であったことを話した。 「まぁ、そんなことになったんですか」ときくは心配そうに言った。 「やるしかないだろう。相手は私を試しているのかも知れない」と僕は答えた。 「まぁ、そうです…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

四 次の日、起きると、きくはおっぱいを出してききょうに乳を飲ませていた。 顔を洗うと、朝餉になった。 乳を飲んだが、皿にご飯を載せて湯を少し掛けて潰すと、それをききょうはよく食べた。今日もおかわりをした。 僕も焼き魚をおかずにご飯を二杯食べた…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三 旅籠に風呂がなかったので、通りの向こうの銭湯に入りに行くしかなかった。銭湯は半身浴だった。荷物が取られるのが、心配だったので、交代で入りに行くことにした。 僕が先に入ることにした。銭湯代と着替えの肌着とトランクスとタオルを持って行った。…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二 宿場町への行き方は教わった。その方向に向かって、道を歩いた。 途中、腹が減ったので、もらったおにぎりを食べた。おにぎりを食べると、水が飲みたくなる。近くに人家は見えなかった。右手は山だった。山なら湧き水もあるかと思い、ショルダーバッグの…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

僕が、剣道ですか? 4 麻土翔 一 僕は校庭に倒れた。きくとききょうはいなかった。 それを見た母が携帯で一一九番をした。 意識を取り戻した時、僕ときくとききょうは、どこかの畑に倒れていた。 僕もきくもききょうもびしょ濡れだった。 僕は立ち上がると…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十九 家に戻ると、沙由理から携帯が掛かってきた。 「無事、PTA会も切り抜けたようじゃない」 「お母さんから聞いたのか」 「ううん、ママは何も話してはくれなかったけれど、様子でわかるわ」 「そうか。で、何の用だ」 「何の用じゃ、ないわよ。PT…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十八 一月十二日の放課後、担任の梶川祐子に呼ばれた。中年の女の教師だった。 「黒金高校と揉めているという話を聞いているんだけれど、本当」 僕は「揉めているというより、因縁を付けられていました」と言った。 「それでどうしたの」 「逃げました」 …

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十七 家に帰り着いた僕はリュックのようになったオーバーコートとショルダーバッグを持って自分の部屋に上っていった。部屋に入り、オーバーコートとショルダーバッグをそこらあたりに置くと、ベッドに倒れ込んだ。そして、そのまま眠った。 「ご飯ですよ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十六 工場を覗くと、屈強な男たちが少なくとも三十人以上いた。竜崎雄一は、工場の奥にいるか、事務所の中にいるのだろう。 とにかく姿は見えなかった。 僕は見える範囲の男たちの腕でも足でもいいから、クロスボウで矢を放った。十人は命中したが、こちら…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十五 一月六日、土曜日。 午前七時に目が覚めた。 明日は、いよいよ黒金高校と一戦を交えることになる。緊張感はなかった。 朝食をとった後、自分の部屋に籠って、明日のプランをいろいろと練った。しかし、いくら考えてみても、実際に戦ってみなければ分…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十四 浅草から、都営浅草線に乗って来た時と反対の順序で高田馬場駅まで帰った。 僕はつけてくる奴がいるので「俺んちに寄って行けよ」と富樫に言ったら「いいね」と言うので、一緒に帰ることになった。つけてくる奴がいるので、大きな通りを選んで帰るこ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十三 四日は午前七時に目が覚めた。 親父は「今日は、新年会があるから遅くなる」と言って出て行った。 僕はトーストパンにコーヒーとサラダで朝食を済ませた。 そういえば、昨日、きくが「お餅をオーブントースターで焼くのには驚きました」と言っていた…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十二 家に帰ると、自分の部屋に上がっていった。きくがベッドに座って、哺乳瓶からミルクを飲ませていた。 僕を見ると、「沙由理さんとデートですか」と訊いた。 「そうだよ」 「楽しそうでいいですね」と言った。 「これも必要だからやっているんだ」 「…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十一 今日は、戦闘モードの服を着て、正午に新宿南口の改札の前に行った。 沙由理はもう来ていた。 昼を駅ビルのイタリアンレストランで食べようとしたが人でいっぱいだったから、ハンバーガー店で軽く食事をして、すぐにカラオケ店に向かった。 午後一時…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十 元旦に家に着いたのは、午前三時過ぎだった。帰りも大混雑の中だった。 きくは初詣が珍しかったのか、大興奮していた。 風呂に入っても「楽しかったです」と言っていた。 僕はすっかり疲れてしまったので、風呂から上がると、自分の部屋に上がっていき…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十九 十二月三十日は大掃除と決まっていた。朝から僕は大掃除の手伝いをさせられていた。窓拭きから納戸の整理まで、一日中、こき使われた。 きくは掃き掃除と拭き掃除に活躍した。 午後四時頃には、一通りの掃除は終わった。 その時、携帯が鳴った。出る…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十八 母からの買物リストを持って、再び安売りのスーパーに戻ってきた。 客は少なくなっていた。特売品はすべて売り切れていた。 仕方ないので、特売品ではなくてもリストにある物を籠に入れていった。ほとんどの物は買えた。 安売りのスーパーで買えなか…