2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 3」

六 僕は撮った写真をクラウドストレージ(インターネット上にある保存場所)にアップロードした。携帯を奪われたり、壊されたときの保険だった。 こちらの顔を見られているから、彼らがこのまま黙っているはずはないと思った。ただ、すぐには見つけられない…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

五 寝る場所については、きくと母が鋭く対立した。 母はリビングに布団を敷き、そこにきくとベビー籠に入ったききょうを寝かせると言ってきかなかった。きくは僕と同じ部屋に寝ると言い張った。 「こればかりは、お母上のお言葉でも受けられません。わたしは…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

四 月曜日は朝、採血があり、すぐにレントゲンが行われた。 午前中に女医の診断があり、健康そのものと太鼓判が押された。 看護師から退院の手続きの話があるので、母に来てもらうように言われた。 すぐに携帯から家に電話をした。向こうは結構大変なようだ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

三 二階のダイニングに上がると、母と父は怒っていた。 「病院から電話がかかってきたわよ」 母が険しい声で言った。 「すぐ戻るように、って」 「分かっている。それより、ききょうはどうしている」 「今は眠っているわ」 「あの子はどうしたんだ」と父が訊…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二 家に着いた。 カードキーで中に入った。 僕の部屋から大きな声と赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。 僕は慌てて三階に上がった。 僕の部屋を開けると、母と父が僕を見た後、「京介」と言った。 きくが立ち上がり、僕に抱きついてきた。 まだびしょ濡れの着物…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

僕が、剣道ですか? 3 麻土 翔 僕は西日比谷高校の一年生。ある日、雷にうたれて過去に飛ぶ。そこで白鶴藩の家老の奥方を救い、その家老の屋敷で生活するようになる。世話係としてきくが選ばれ、きくとの間にききょうという女の子を授かる。 いろいろなこと…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

四十 僕は大きくくしゃみをした。目を開ければ僕はベッドの上だった。 「京介、わかる」と言う母の声が聞こえた。そして、ナースコールのボタンを押した。 看護師が来て僕を診た。 「先生をお呼びしますからね」と看護師は言った。 ほどなく医師が来た。 僕…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十九 次の日、堤邸に行った。 たえが門の掃き掃除をしていた。 「今日、鏡様が来られるような気がしていました。お躰の疲れはとれましたか」 「ええ、このとおり」 そう言うと、僕の手を取って指を絡ませてきた。 玄関から座敷に上がると、堤竜之介がやっ…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十八 帰りも湯沢屋で一泊した。 「あーあ、いい湯だ」 中島と近藤は上機嫌だった。大任を果たした安堵感が滲み出ていた。 僕はひたすら疲れを癒やしていた。 風呂から上がり、夕餉を食べると、布団が敷かれる前に僕は眠ってしまった。それだけ疲れていたの…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十七 朝食後、藩主に朝のお目通りをした。 「昨日はゆっくりと眠れたかな」 滝川は僕に向かって言った。 「はい、ゆっくりと休ませてもらいました」 「そうか、それは何より。体調は万全かな」 「ええ、調子はいいです」 「それは良かった。時間まで、ゆる…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十六 その日の夕餉は、妙に滝川劍持の機嫌が良かった。 「いやー、あの二十人槍を氷室隆太郎以外の者が破るとは思ってもみなかった。珍しいものを見せてもらった」 滝川は酒を注いでもらっていた。 「こうなるとどうしても気になる」 氷室隆太郎の方を見て…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十五 次の日はよく晴れていた。 僕はぐっすり眠れた。中島と近藤は、よくは眠れなかったようだ。 寝間着から着物に着替えた僕が「おはようございます」と元気に挨拶しても「おはよう」と返すのがやっとのようだった。 僕は朝餉をすっかり平らげ、中島と近…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十四 黒亀城には夕刻着いた。 すぐに城主の滝川劍持に、お目通りをし挨拶をした。 「よく来てくれた。待っておったぞ」と滝川劍持は言った。 家老からは「さあさあ、旅の疲れも湯でも浴びて癒やしてくだされ」と言われ、湯屋に案内された。 湯で躰を洗った…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十三 僕は風呂敷に包まれた懸賞金を前に、家老に「こんな大金、どこにしまっておいたらいいのでしょう」と訊いた。 家老は「うちの蔵に入れておけばいい」と言った。 「金蔵という金庫番がいてな、彼に言えば蔵を開けてもらえる」 「はぁ。でも、金が入り…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十二 道場に出るのは、久しぶりだった。 だが、此所でも山賊成敗の話をねだられた。 話さなければ、稽古にならない雰囲気だった。仕方なく、僕は何度目かの山賊成敗の話をした。 半月が過ぎ、一月が経とうかという頃に、夕餉の席で家老から、明後日、僕に…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十一 座敷に戻り、きくに「七百五十二両貰えるそうだよ」と言うと、「へぇー、七百五十二両ですか」と驚いた風もなく聞いた。その後で、「七百五十二両って言いました」と訊き返してきた。 「そう言ったろ」 「七百五十二両で間違いないんですね」 「うん…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十 次の日、僕は佐野助に山奉行にこのことを伝えるように言った。 僕は念のために村に残った。 湯を沸かしてもらい、昼間、躰を洗った。ついでに洗濯もした。山賊の返り血を浴びて、オーバーやセーター、厚手のシャツやジーパンが血まみれだったからだ。 …

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十九 一晩ぐっすり眠った。 洞窟は子どもたちでいっぱいだったから、女たちと外で寝た。女たちは寝られなかったようだ。 朝食を作る女たちと一緒に僕も村に降りていき、朝ご飯をたっぷり食べた。そしておにぎりも作ってもらった。女たちはおにぎりを沢山作…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十八 僕は後悔の念と、憤怒の思いが湧き上がった。 相手は最初は五人だったが、続々集まってきた。 もはや、嬲り殺している余裕はなかった。刀が金色に輝き出した。 相手が刀を振り下ろしてきても、かすりもさせずに斬り倒していた。刀に当たっても僕の刀…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十七 逃げ出していった男たちの報告で、事態は容易でないことが、山賊たちにもようやく分かったようだ。 僕はいったん林に逃げ込んだ。 竹水筒を取り出して、水を飲んだ。お腹も空いていた。 オーバーを隠してある所まで戻って、干し柿と干し葡萄を食べた…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十六 朝、目覚めると佐野助はまだ眠っていた。朝は寒かった。 山陰には、まだ日は当たっていなかった。山の上の方が明るかった。 「起きるぞ」と佐野助に声をかけた。 佐野助はブルブルと震えるように起き上がった。 僕は干し柿と干し葡萄を食べた。佐野助…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十五 屋敷に戻ると、明日の準備をした。 革手袋は、昨夜渡されたが、綺麗に縫われていた。 九月の下旬ともなると夜の山は寒い。なるべく温かい格好をして行くことにした。 シューズは念のため、もう一足も持っていくことにした。 きくが、餅と乾燥させた柿…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十四 山賊たちが今月下旬に飛田村を襲うとしたら、時間がなかった。 山奉行佐伯主水之介に会いに行った。 今までのいきさつを忌憚なく話した。 「それはおぬしが気にすることではあるまい」 「そうですが」 「自ら蒔いた種だ。刈るのは自分たちでする他は…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十三 「堤邸に行くんですね」 僕が草履を履こうとしたら、きくが後ろからききょうを抱っこしながら、そう言った。 僕はぴくんとした。その通りだったからだ。 「待っててくださいね」 きくも草履を持ってきて、足袋を履き、「わたしも一緒に行きます」と言…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十二 堤竜之介の武家屋敷への引越しは翌月、早々に行われた。 堤道場には、師範代となった城崎信一郎が住み込むことになった。 「城崎信一郎殿が師範代に決まったことに、他の三人から文句が出ませんでしたか」と僕が堤に訊いたら、「いや、三人ともあの場…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十一 四日間はあっという間に過ぎた。 その間に、いい考えを思いついたわけではなかった。 しかし、今日、堤道場の師範代を決めると約束してしまっていた。出かけないわけにはいかなかった。 「浮かない顔をしていますね」ときくが言った。 「そうか」 堤…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十 三日間、堤道場には行かなかった。 祝宴や祝辞を述べる来客が多いと思ったからだった。城中にも登城したことだろう。 とにかく、遠慮していた。 しかし、四日目に堤道場から門弟の使いが来た。ぜひ、訪ねてきて欲しいという堤の要望だった。その門弟と…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十九 風呂場でも、きくの説教は延々と続いた。 「堤先生を勝たせたかったんでしょ」 「そういう訳じゃないが」 「他にどういう訳があるんですか」 「いろいろだ。いろいろあるんだ」 「どういろいろあるんですか」 「あるだろう」 「例えば、おたえさんとか…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十八 審判である番頭の中島伊右衛門が張り上げた「鏡京介殿の負け」の声はあたりに響いた。 そして、次に響めきが起こった。意外な形で決着が付いたからだった。 僕は木刀を拾い「静かに」と叫んだ。 響めきが収まった。何が起こるのか、みんなが注視してい…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十七 御前試合の日が来た。 僕は着慣れぬ袴を穿き、城に向かった。 外の城郭を回り込んで、内庭に出た。広かった。 その中央にお殿様が背もたれのない椅子のようなものに座っていた。両側に重臣たちも同じように座っていた。 周りには、家臣がずらりと取り囲…