2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十三 ひょうたんが震えた。あやめが戻ってきたのだ。 「映像を送ってくれ」と言った。 興奮していたためか、目眩はしなかった。中上は「そうか」と言って、警視庁のサイトにアクセスした。当然、IDとパスワードが求められる。中上は考えた。すると、初代…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十二 署に戻って、安全防犯対策課に行った。デスクの椅子に座ると、先程の映像を再生した。 中上は、幾つも新聞を買っていた。そこにトップ記事で載っていたのは、放火事件のことだった。 書いている記者も、事情が分からずに書いているものだから、連続放…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十一 一週間は何事もなく過ぎた。きくも保護者参観を無事に終えることができた。ききょうの授業は国語で、ききょうが指名されて家族という作文を読んだそうだ。警察官である父は具体的に何をしているのか分からないが、母はいつも気配りができていて、大変…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十 僕は中上のアパートの近くの通りで、ズボンのポケットのひょうたんを叩いた。 「中上の様子を見てきてくれ」と言った。 「はーい」とあやめは言った。 中上が何をしているかは分かっていた。山田の釈放はどうでも良かったのだろう。問題はそれに対する…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十九 家に着き、出迎えてくれたきくに鞄を渡すと、「今日、山田さんが釈放されましたね」と言った。 「テレビを見ていたのか」 「ええ。それに新しい声明文も出されましたね」 「そうだな」 「警察の方は大変じゃありませんか」 「大変だと思うよ」 「まるで…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十八 家に着いた。きくが出迎えてくれた。ひょうたんはズボンのポケットから鞄の中に移しておいた。 風呂に入った。 浴槽で考えた。 滝岡が、上手く偽サイトを作れたら、そこに中上を引き寄せて、彼を捕まえる。中上の犯罪は、一見すると放火事件だけのよう…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十七 僕は愛妻弁当を食べ終わると、水筒のお茶を飲んだ。 この後、どうなるのかは予想がついた。山田の弁護士が釈放要求書を持ってくる。それに反対する理由がなければ、山田は釈放される。無罪放免というわけではない。罪については保留という形が取られる…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十六 夕食をとった後も、僕は寝付けなかった。 ウイスキーを飲みながら、午後十一時からのニュースを見ていた。すると、犯人と名乗る男から「第二信が届きました」と言うキャスターの上ずった声が聞こえてきた。 「しばらく、お待ちください」と言って、別の…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十五 午後一時になると、ズボンのポケットにひょうたんを入れて、緑川に「ちょっと出てくる」と言って安全防犯対策課を出た。 四階の待合席に行った。午前中に僕に声をかけてくれた女性に目礼して、席に座った。 ズボンのポケットのひょうたんを叩いて、「さ…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十四 自宅に戻ったのは、午後十一時半を過ぎていた。 きくは起きて待っていた。 「寝ていればいいのに。躰にさわるよ」と言うと、きくは「病気じゃないんだから、大丈夫です」と応えた。 椅子から立ち上がろうとすると、きくが「ウィスキーを飲みたいんでし…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十三 五月中旬を過ぎようとしていた。山田の自供を取れずに、捜査一課二係は焦っていた。山田の勾留期限はあと僅かだった。こうなれば、山田は頑張り通すだろう。自供が取れなければ、釈放するしかなくなる。しかし、僕は毎日のように山田を陰から応援してい…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十二 夕食は赤ちゃんの話題で盛り上がった。 ききょうが一番興味を示した。 「早く、赤ちゃんに会いたいな。男の子かしら、女の子かしら」 京一郎は「ぼくは弟が欲しいな。妹でもいいけれど」と言った。 きくは「どちらにしても、仲良くしてあげてね」と言っ…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

次回は、10月26日木曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十一 滝岡は、「何ですか」と言いながらやって来た。 僕はディスプレイの静止画を見せて、「この男の横顔と戸田喜八さんの横顔を照合してみてくれないか」と言った。 「この男、帽子を被り眼鏡をしていますよね。素顔ならかなりの確率で照合できますが、どう…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十 次の日、ひょうたんを鞄に入れて、黒金署に向かった。今日は鑑識課に行くつもりだった。どうせ鑑識が調べた調査書は、読むことができないことは分かっていた。それならば、調査書を作った本人の意識から、直に読み取るだけだった。そのためには、あやめが…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

九 僕は気を落ち着けるために、違うことをしようとした。それは携帯でパソコンに取り込んだ録音データを聞くことだった。ヘッドホンをして聞いてみた。携帯での録音だったが、音声は鮮明に録音されていた。 それを聞いているうちに、僕はハッとした。 何て馬…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

八 田中虎三の自宅である黒金町**丁目**番地**号は、黒金署から歩いても二十分ぐらいの所にあった。 僕は緑川に「出かけてくる。後をよろしく」と言って、席を離れた。 黒金署を後にすると、田中の家に向かった。質問は大してなかった。あやめに記憶を…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

七 お昼になった。屋上で一人、隅のベンチに座って、愛妻弁当を食べながら考えた。何か突破口はないのかと。 一つだけ、薄いが可能性はあった。それは三月二十八日の放火事件についてだった。この時、喜八はミスを犯している。犯行後、一一九番に通報した人…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

六 どれだけ時間が経っただろう。何人かがトイレに出入りするのが分かった。僕は個室の中で、息をひそめていた。 やがて、ひょうたんが震えた。あやめが帰って来たのだ。 念のために時間を止めた。 「あやめ、どうだった」と訊いた。 「多分、山田宏の頭の中…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

五 月曜日だった。今日は、西新宿署に行って剣道をする曜日だったので、剣道の道具を持って、家を出た。 黒金署に着くと、山田の取調は今日も続いていた。 僕は安全防犯対策課に入ると、デスクに着いた。 緑川が自分の席から僕に向かって、「取調は難航して…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

四 捜査一課が、こちらが渡した情報から、重要参考人を割り出すことは時間の問題だった。 だが、割り出された重要参考人が、犯人でないことを僕は知っている。どうすればいいのだろう。そればかりを考えていた。 「課長」と緑川が呼んだ。顔を上げると、緑川…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

三 鑑識は家の内部の焼け具合が激しいことから、火元は最初は天麩羅鍋の油が燃え出したものと考えた。それと、もう一つは居間の新聞である。居間も激しく燃えていた。そこには新聞紙が積み上げられていた。煙草の吸い殻も見つかった。ここも火元と見られた。…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二 僕は次の日、机からひょうたんを出して鞄に入れた。今日、黒金署に行き、安全防犯対策課に顔を出したら、被害現場に行くつもりだった。その時、ひょうたんをズボンのポケットに入れて行こうと思っていた。 自宅を出て、黒金署の安全防犯対策課には、ちょ…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

僕が、警察官ですか? 3 麻土 翔 一 新年度になった。 ききょうは小学五年生で、京一郎は四年生だった。今日も元気よく、学校に行った。 僕は、その後で家を出た。家から歩いて三十分ほどにある黒金署に行くためだった。僕はその署の安全防犯対策課の課長で…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十五 西新宿署から自宅まで歩いて帰った。途中で、携帯で少し遅くなった旨を知らせた。午後六時半に自宅に着いた。 玄関には、きくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。心理的に疲れていた僕には、この瞬間がどれほど心安まることか。 寝室できくが着替え…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十四 僕は取調室に入ると、芦田の座っている机の前の椅子に座った。 僕は時計を見て、「二〇**年**月**日、午後三時四十二分、芦田勇に対する取調を再開します」と言った。 芦田は「あんただ。あんたでなければ、俺の気持ちはわかってもらえない」と…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十三 僕は「では、次の事件にいきましょう」と言った。 「あなたは、二〇**年十二月十八日月曜日、午後七時四十分に会社を出ると、駅前の定食屋****で焼き肉定食を食べました。これも、売上伝票を調べれば分かることでしょう。それから、新宿から来…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十二 記憶を鮮明に呼び起こす映像に、芦田勇は震えた。すでに冷静ではいられなくなっていた。机の上で頭を抱えていた。 「あなたは、二〇**年九月**日に、秋田で行われたビジネスショーで***開発株式会社の専務からスカウトされましたね。それで、…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十一 午後一時になった。取調室に芦田が刑事に付き添われて入ってきた。腰縄と手錠が外されて、机を挟んで僕の前に座った。 僕はマイクに向かって「二〇**年**月**日、午後一時二分。芦田勇に対する取調を再開します」と言った。 そして、僕は「最初…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四十 腕時計を見ると、正午を過ぎたところだった。 ズボンのひょうたんが震えた。 あやめが帰って来て「あの後の映像を送ります」と言った。 「少し待ってくれ。これからお弁当を食べるから。食べ終わったら、教えるから、そうしたら、送ってくれ」と言った…