2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、警察官ですか? 2」

次回は、10月2日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十 次の日、定時に出署すると、安全防犯対策課に入った。すでに皆、来ていた。 「おはようございます」と言う声があちらこちらからした。 緑川が来て「今度の日曜日に行う防犯キャンペーンについて向こうと打ち合わせに行こうと思っていますが、いかがでしょ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

九 西沢奈津子は、激しく抵抗した。顔を左右に振って、声を出そうとした。しかし、その口は黒い革手袋で塞がれていた。 そのうち、首にロープが巻かれた。男は手慣れていた。 西沢はハンドバッグを投げ捨て、そのロープをはずそうと両手でロープを掴もうとし…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

八 定時に退署して、午後五時半には家に帰った。 「お帰りなさい」ときくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。 二人に手を引かれて、玄関から廊下に上がった。 ききょうと京一郎はそのままダイニングルームに入って行き、きくは僕と一緒に寝室に来た。背広…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

七 安全防犯対策課に入ると、皆、すでに来ていた。 もうすぐ六月になる。そうすれば防犯キャンペーンを黒金幼稚園と保育所でしなければならなくなる。すでに、花村幼稚園でやっているから、それと同じようにやればいいだけのことだった。 今、安全防犯対策課…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

六 家に帰り着いたのは、午後八時頃だった。 僕は射撃訓練や剣道をしてきたので、風呂に入りたかったが、僕が帰ってくるまで、夕食をとるのを待っていてくれた子どもたちのために食事を先にすることにした。 夕食の後、風呂に入った。子どもたちはきくが入れ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

五 月曜日になった。 安全防犯対策課に入って行くと、緑川がやってきた。 「これが日程です」と言って、一枚の紙を差し出した。 黒金幼稚園と保育所の防犯キャンペーンのスケジュール表だった。 黒金幼稚園の方は来月の第一日曜日で、黒金保育所の方は第二日…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

四 水曜日に、安全防犯対策課に行くと、署長からお呼びがかかった。 昨日の防犯キャンペーンに何か問題でもあったんだろうかと思いながら、署長室に向かった。 入って行くと、ソファに座るように言われた。 女性巡査がお茶を運んできた。 僕の前のソファに、…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三 パンフレットは、緑川が昨年の物も参考に原案を作り、滝岡順平がレイアウトを作成した。それを署のプリンターで二百部印刷した。 幼稚園児が三十五名。保母さんが十五名。お母さん方が皆来るとして、三十五名。老人会の人も来ると言う。その他の人に配る…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二 「今日は近藤さんは使わないんですか」 きくがそう言った。 「ああ」 「どうしてですか」 「きく、もう一人子どもが欲しくはないか」と僕は訊いた。 きくは、「わぁ」と言って、僕に抱きついてきた。 「欲しいです。何人でも」と言った。 「そうか。じゃ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

僕が警察官ですか? 2 麻土 翔 一 僕は公務員試験総合職に合格した。 そして、警察庁に入った。キャリア組は警察大学校で研修を受け、その後、一年間の交番勤務を経て、再び警察大学校の研修を受けた。その後、各地に配属された。 配属される時に、希望を書…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

十五 午後五時のニュースで、新宿区西新宿の路上で午前一時半頃、警察官が発砲されるという事件が起きたことがトップニュースで流れた。 警察官は無事で、発砲した高島研三容疑者がその場で逮捕されたことが伝えられた。 ニュースを聞いていたきくが、「その…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

十四 明日は、午前一時から午前九時までの勤務だった。 午前七時に起きて、子どもたちと一緒に朝食をとった。その後で「お昼はいらない」と言って眠った。 午後三時頃、子どもたちは帰ってきた。僕も起きた。 子どもたちと一緒におやつを食べた。蒸かし芋だ…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

十三 午後九時から二時間パトロールをした。 午後五時から飲んでいるという男性の高齢者が酔い潰れて道路に寝ていたので、介抱して自宅まで送り届けた。そのことを日誌に書いた。 午前一時半に北村巡査が来たので引継ぎをして、西新宿署に向かった。 西新宿…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

十二 次の日、午前八時に剣道の道具を持って、家を出ると、西新宿署に着いた午前八時半に携帯に電話がかかってきた。 「山岡です。おはようございます」 「おはようございます」 「滝沢工業の一室から石井和義さんの指紋と毛髪が出ました。飯島明人、中本伸…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

十一 それから十五分ほどして、山岡と他に二人の刑事が来た。 「失礼します」と言って、三人は須藤家のお茶の間に上がってきた。 山岡が座敷に座ると、警察手帳を見せて、「わたしが西新宿署捜査一課の山岡賢次です」と言った。続いて、次の刑事が「わたしは…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

十 家に戻ると、きくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。 すぐに風呂に入った。ききょうと京一郎も一緒に入った。 「プリントはもうやったのか」と訊いた。 京一郎は「うん、やった」と言った。 ききょうは「まだ、半分残っている」と言った。 「そうか、…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

九 家に着いた。 風呂に入って着替えると、ビールを飲みながら、録画してあったテレビのニュースを見た。きくとききょうと京一郎は先に夕食を済ませていた。今日は剣道の練習があるから、遅いと言ってあったからだ。 ニュースでは、前川の関連会社からも、一…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

八 月曜日は剣道の稽古日だった。 剣道の道具を持って、西新宿署に向かった。制服に着替えるためと、指示や報告をするためだった。 午前九時に西新宿署に着いた。係員からは特別な指示はなかった。そのまま、交番に向かおうとすると、係員が「剣道の道具は置…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

七 家に帰った。 きくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。子どもたちは土曜日で休みだったのだ。 僕はきくに手伝ってもらって着替えると、風呂に入った。ひょうたんはきくに気付かれないように机の引出しにしまった。 係員が今日家宅捜索があると言ってい…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

六 昼食の後、自室の机に座って、石井和義の映像をもう一度見ることにした。西新宿公園にいた時は早送りしていたのと、拉致されてからのしか見ていなかったからだ。 石井和義が使途不明金に関わっていたのかどうか確かめた。しかし、この半年分の映像を見た…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

五 僕は一旦、映像から離れた。時計を見ると、午後十一時半だった。すぐに交番に戻った。 交番には、中年の男性が来ていた。 「ちょうど、良かったぁ」とその男性は言った。 「あなたは」と僕は訊いた。 「中西徹です。千人町二丁目に住んでいます」 「どう…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

次回は、9月19日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 1」

四 次の日は、午後五時から午前一時のローテーションなので、午後五時に西新宿署に行った後、午後五時半に交番に行き、引継ぎをして勤務についた。もちろん、ひょうたんは持ってきていた。ズボンのポケットに入っている。 夜、十時頃に西新宿公園にパトロー…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

三 翌日は、優勝杯と楯と賞状を持って西新宿署に向かった。千人町交番所の管轄は西新宿署だった。西新宿署の署長に全国警察剣道選手権大会の報告をした。 署長へ報告すると、満足そうな顔をした。広報課の人たちも来ていて、署長との記念写真も何枚か撮った…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

二 行方不明者届が出ている石井和義は、四日経ってもまだ見つかってはいなかった。その間、妻の繁子が交番を毎日訪ねてきては、その後の様子を訊いていった。交番としては五十三歳の年齢の男性の事故・事件報告がなかったので、「きっと無事でいますよ」と言…

小説「僕が、警察官ですか? 1」

僕が、警察官ですか? 1 麻土 翔 一 僕は、西日比谷高校を卒業した後、国立東都大学に進学した。そして法学部に進級し、三年生の時に司法試験予備試験に合格し、司法試験も合格した。 一方、大学四年の時に受けた国家公務員採用総合職試験にも合格し、卒業…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

三十六 三学期になった。 僕は、今年で卒業していく剣道の先輩三年生、十三人に対して、一人一人対戦していった。彼らにとって、これが最後の部活だった。僕との対戦は彼らからの要望であり、僕からの餞別だった。 一対一で負けることはなかった。そして、気…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

三十五 部活には、週に一度顔を出し、五対一の対戦だけをすることにした。部員たちがそれを望んでいることが、富樫の話から分かったからだ。監督も了解してくれた。 部員たちは、五対一で戦うのだから、何としてでも僕から一本取りたいと思っていた。そこで…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

三十四 母は、その後も、僕やきくやききょう、京一郎の将来のことを話した。伝えたいことをこの際だから、一切伝えておこうとしたのだろう。 そして最後に「それは京介、あなたが決めることよ」と言い切った。それで話は終わった。 僕は母がこれだけ考えてい…