2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧
次回は、10月4日月曜日にアップの予定です。
十-2 結局、堤道場に向かっていた。 門を掃くたえに会った。 目を合わせた。しばらく見つめ合っていた。 この間のことは口にしなかった。たえは「どうぞ」と言って、僕を門の中に入れた。 たえが先に立つと思ったら、いつまでも門の扉の所にいる。僕はその…
十-1 屋敷の通りには、屋台が何台か並んでいた。 そこで侍が蕎麦を食べたり、おでんをつまんで酒を飲んでいたりした。 そこを通り過ぎ、少し行くと、暗い通りが続いていた。「いませんね」と八兵衛が言った。 その時だった。遠くから「辻斬りだ」と言う声…
九 道場に出た。 相川たちが寄ってきた。「もう一度、お願いします」 そう言って頭を下げた。 僕は門弟を壁際に寄せて「見ておくように」と言うと、昨日して見せた素振りを相川たちにさせた。 今度は一歩、前に出るように言った。そして後ろから、手首のあた…
八 二日後に鍛冶屋、源蔵の所に刀を取りに行った。「これで妖刀は切れる。しかし、おぬしの持つこの刀もその妖気を吸うことになるぞ」「そうなるとどうなります」 源蔵は僕の顔をじっと見た。「普通は刀に囚われる。しかし、おぬしはそうはならぬようじゃな…
七-2 家老屋敷に戻った。道場の者は帰っていた。 相川、佐々木、落合、長崎、島村、沢田が残っていた。 それぞれ組になって打ち合っていた。 僕を見ると寄ってきた。「私たちに足りないものは何でしょうか」 皆が真剣な眼差しを向けている。「速さだな」「…
七-1 家老家の菩提寺の住職に妖刀の話をした。「それはやっかいな話ですな」「と言うと」「妖気がその刀を持っている者を守っているのでしょう。とすれば、その妖気を断ち切らなければならない」「そうですね」「鏡殿にそれができますか」 僕は首を左右に…
六-2 家老家の菩提寺に向かった時に、五人の忍びに付けられた。境内に上がる階段の前で、僕は叫んだ。「何故、付け狙う」「それが我らの使命だからじゃ」 年老いた声が聞こえた。「そうなのか。斉藤頼母とは、どんな関係があるんだ」「知っておるのか」「…
六-1 家老屋敷の道場は、朝から稽古の声が聞こえていた。 型練習を始めてから、その型を覚えようと皆、必死だった。役に立たない英語のアクセント問題をやっているようなものだが、何もしないより、やっている感じはあるので、それなりに充実しているのだ…
五 三晩連続で辻斬りが出た。複数の侍がいても平気なようで、むしろ多いほど辻斬りを楽しんでいるようだと言われているくらいだった。三晩に十人もの人が斬られているのだから、城中でも話題になっていて、家老は夕餉の席で、「町奉行の田島権左衛門に、鏡殿…
次回は、9月21日火曜日にアップの予定です。
四 屋敷の道場に戻り、皆を集めた。明日、道場内での稽古試合をする。それに勝った者、四名に特別な稽古を付けると言った。四名という数字は、堤道場で聞いた師範代の候補の数が影響していたのかも知れなかった。 道場内はざわついた。 皆を練習に戻し、相川…
三「頼もう」と言う大きな声が玄関の方からしてきた。 しばらくして、門弟の一人が桟敷にやってきて「道場破りがやってきています」と告げた。「またか」と言って、堤が立ち上がったので、僕も「私も行きましょう」と言って立ち上がった。 玄関には三人の大…
二-2 次の日、道場に行くと大騒ぎになった。 僕の周りを門弟が取り囲んだ。僕が動く度に驚くのは止めてもらいたいと思った、上野のパンダじゃあるまいし、と。 だが、それだけ僕の不在は大きかったのか、とも思った。 相川と佐々木が来たので、二月の選抜…
二-1 僕は空中に飛び出していた。 しかし、乳母車は抱えていなかった。 凄いスピードで落下していくのが分かった。 躰を反転させた。林が見えた。落下スピードを落とそうとした。しかし、上手くコントロールができなかった。しかし、林に近付くと最初の木…
僕が、剣道ですか? 2 一 休み時間だった。僕が窓の外を見ていたら、急に後ろから富樫がヘッドロック(腕の脇に相手の頭を抱えて締め上げるプロレスの技の一つ)をしてきて、「絵理ちゃんに告ったんだろう」と訊いた。「ああ」「返事はどうよ」「教えない、…
三十九 大きく咳をした。 目を開けると僕はベッドの上にいた。「意識が戻ったわ」と女の声が聞こえた。「先生を呼んで来なくちゃ」とその声は言った。 間もなく医師が来た。 目を開いて光を当てた。 僕は眩しくて目を閉じようとした。「じっとしていて」と言…
三十八 屋敷に戻ると僕はすっかり疲れていた。 風呂に入った時も眠りかけていた。 きくが抱きつき「よく、ご無事でお戻りなされました」と言った。 きくが出してくれた中年の女中に作らせた紺色のトランクスを穿き、着物を着た。 夕餉の席では、佐竹が威勢良…
三十七 次の朝、道場に行くと相川と佐々木を呼んだ。そして、これから城中に向かうことを伝えた。「無事、帰ってこられるかは、分からない」「そんな」と相川も佐々木も驚いた。「そこで、道場の後のことは二人に任せた」「急にそんなことを言われても」と相…
三十六 数日間は何事もなかったが、その日の夕餉に佐竹が「鏡殿、明後日、登城せよ、との命が大目付様よりありました」と言った。 島田源太郎が「何用であろう」と佐竹に訊いたが、佐竹も「さぁ」と言うばかりであった。 だが、僕だけは分かっていた。大目付…
三十五 たえと会った数日後のことだった。 午後三時に道場の者たちを帰らせた後、城から使いの者が来て、僕に登城せよ、と言ってきた。時刻が時刻なだけに不審に思ったが、その者に付いて城に向かった。 近道をしようということになって、林のある道を抜ける…
三十四 三日目が来た。 勝ち残った者たちが集まっていた。 対戦相手が、相川より読み上げられていった。 偵察隊の試合は、午前中に集中させた。 まず、昨日、木刀を下段に構え、さらに床に木刀が着くぐらいまで下ろした者と、つばぜり合いのすぐ後に下段に構…
三十三 二日目は、残りの百組の選抜試験が行われた。 四組目までは順調に選抜試験は進んでいた。五組目に現れた浪人風情の者がくせ者だった。相手はまだ十五歳ほどの少年と言っていい若さだった。その浪人者は、「始め」の後、正眼に構えるところを下段に構…
三十二 十五の日にもらった名簿には、二百五十人が記名されていた。 そして、選抜試験の当日に集まったのは、さらに五十二人で、道場の者の相川と佐々木を除く者も含めると四百人が戦うことになった。 二人一組なので、二百組の対戦となる。それを勝ち抜いた…