2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「真理の微笑」

七十二 一月もトミーワープロの売れ行きは好調だった。社内も正月気分が抜け、春に発売予定されているトミーCDBの発売に向けて、着々と準備が進んでいた。 二月になった。 社長室に入ってすぐに長野から刑事が面会に来ていると秘書室の滝川が伝えてきた。…

小説「真理の微笑」

七十一 帰るために会社に迎えに来た真理子は車を出すと「書店に寄ってもいい」と尋ねた。「構わないよ」と私は答えた。 真理子が書店に私の車椅子を押しながら入っていくと、赤ちゃんの名前の付け方の本が並んでいるコーナーに連れて行かれた。 真理子は目の…

小説「真理の微笑」

七十 由香里は出産して一週間後に退院した。私はあいにく手が離せない用事があったので、病院には高木に行ってもらう事にした。会計は高木が済ませて、由香里を自宅までタクシーで送り届けてくれていた。 こちらの用事が済んだので、由香里に会いに自宅まで…

小説「真理の微笑」

六十九 十九日になって由香里が出産した。 陣痛がきたからこれから病院に行くという電話が、午前中の会社にいた私宛に由香里からあった。私は急ぎの仕事を片付け、高木に後の事を任せて病院に向かったが、電話から四時間ほどは経っていただろうか。病院に着…

小説「真理の微笑」

六十八 次の日は、昨日の新年会の興奮がまだ社内に残っていた。あの後、飲み会に行った者も多かったに違いない。カラオケをやり過ぎて私のようにガラガラの声で挨拶する者もいた。 社長室に入ると、真理子は「また迎えに来るからね」と言って帰っていった。 …

小説「真理の微笑」

六十七 新年会は午前十時に始まる。 私と真理子はその一時間前にホテルの控え室に入った。控え室の中はごった返したようだった。出し物をするグループが隅の方で、最後のチェックを行っていた。 広報の中山がやってきて、「今日は一生懸命、司会を務めさせて…

小説「真理の微笑」

六十六 真理子に送られて会社に入ると、新年会の準備で騒々しかった。何人かと挨拶を交わして社長室に入った。秘書室の滝川が「会社に届いている年賀状です」と言って持ってきた。ほとんどが出版社や会社関係からだった。 私は受話器を取ると由香里に電話し…

小説「真理の微笑」

六十五 除夜の鐘はテレビをつけたまま、ベッドの中で聞いた。 私も真理子も汗まみれだった。私は絹のように滑る真理子の肌を何度撫でただろうか。 そして、その度に真理子も何度声を上げた事だろう。 私たちは躰を重ねたまま朝を迎えた。 昼間、私たちはダイ…

小説「真理の微笑」

六十四 大晦日、起きたのは昼を過ぎていた。昨夜というより、朝まで私は真理子を抱いていた。 腕が痺れていた。何度、真理子の中に気をやった事だろう。何度してもしきれないくらい、真理子は魅力的だった。 真理子の上げる、あの切ないような声がまだ耳の底…

小説「真理の微笑」

六十三 次の日、真理子の提案で、千葉の房総にある富岡の母の施設を訪ねた。 富岡の母はベッドに寝ていたが、私が来ると起こされて、車椅子に座った。 私と富岡の母とは車椅子で庭に出た。 その施設の庭からは、雄大な海が水平線まで見えた。風が強かった。…

小説「真理の微笑」

六十二 十二月二十八日は朝から会社は騒々しかった。夜には忘年会があるし、年明け早々に新年会がある。その新年会に向けての準備にも余念がなかった。 私が「仕事納めなんだから、ちゃんと気を引き締めてやれよ」と言っても効き目はなかったようだ。 真理子…

小説「真理の微笑」

次回は、3月21日日曜日に更新する予定です。

小説「真理の微笑」

六十一 会社に戻るとしばらくは由香里の事が頭を離れなかった。 由香里は道路まで出て、介護タクシーが角を曲がるまで手を振っていた。顔や全体の感じは違っていたが、何となく夏美を思わせる雰囲気を由香里は持っていた。「わたしは今のあなたが好き」とい…

小説「真理の微笑」

六十 十二月二十七日になった。今日は、ハウスクリーニングがある日だった。 十一時半に介護タクシーを呼んで、由香里のアパートに行った。 由香里の部屋は一階だった。電話で二階と聞いたら、どこかレストランで会う事にしようと思っていた。由香里はお腹が…

小説「真理の微笑」

五十九 次の日、会社に出ると、まだ前日のパーティの雰囲気が抜けないのか、全体的に浮かれたような感じだった。酒が抜け切れていない社員もいた。 だが、私は何も言わず、社長室に入った。お茶を秘書室の滝川節子が出してくれた。「新しい場所に会社が移っ…