2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

九 討伐隊の面々を道場に集めた。「不満かも知れないが、この討伐にあたっては私が指揮を執る」 佐竹から聞いていたらしく、一同は頷いた。「では、これから明日の作戦会議を開く」 僕は懐から寺の見取り図を出して広げた。「見取り図が見られるように、もっ…

八 朝が来た。 目が覚めると、枕元に彼女がいた。よく見ると、可愛かった。だが、まだ十四歳だった。十四歳の女の子を抱いてしまったのだ。「お目覚めですか」「ああ、おはよう」と言うと「おはようございます」と返してきた。「今日も、いい天気ですね」と…

七 朝餉の後、庭で木刀を振るっていると、迎えの若い者が来て、道場に連れられていった。僕はすっかり道場主の待遇だった。昨日は三十人ばかりだったのが、今日は増えて、倍の人数に膨れ上がっていた。当然、道場には全員入って座ることができなかった。十人…

六「どうなんです」 僕の母が医師に訊いた。「脳のMRIを取ったが、どこにも異常が見られません。自発的に呼吸もしています。どうして意識が回復しないのか、わかりません」 医師はそう答えた。 僕は家老屋敷では、客人扱いを受けていた。することがないの…

五 僕は全身、血しぶきを浴びていた。盗賊たちがいなくなると持っていた刀を放り捨てた。 籠の戸が開き、「重ね重ね、ありがとうございました」と中の女性が礼を言った。 戸が閉まると、籠は持ち上げられ、動き出した。 僕は「あそこに倒れている仲間はどう…

四 籠に近寄ると、「私の屋敷まで来ていただけませんか」と中の女性が言った。 僕は考えた。この身なりだ。江戸時代のどこかなのだろうが、まるで分からない。 このままでは、どうにもならない。「お言葉に甘えさせていただきます」と答えた。武士の言葉とは…

三 僕が落ちたのは、白樺の林の中で、すぐ下の方から怒声が聞こえていた。 誰かの籠を盗賊が囲んでいる感じだった。 付き添いの者は女中二人、侍四人いたのだが、腰が引けていて全く役に立ちそうになかった。籠の中にいるのは女性だろう。 盗賊は八人。勝ち…

二 しかし結局、富樫の説得に負けて、「これっきりだぞ」と言って、試合に出るはめになってしまった。 翌日、試合があるというのに、とある剣豪の夢を見た。明日、タイムスリップするとは到底思わなかった僕は、次の試合の興奮が躰を包んでいるかのようだっ…

僕が、剣道ですか? 麻土 翔 一 二月、滑り止めの私立高校の受験に失敗した僕は、都立高校の試験が最後の希望だった。内申書の成績が悪い僕は、当日の学力考査が全てだった。 だが、二月下旬に行われた試験日には、僕はひどい風邪に見舞われていた。咳が止ま…