2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十二 入院後、学校に行くと、早速富樫が寄ってきた。幸い、今度は別のクラスだった。だから、休み時間しか会えない。 「お前、不死身だなぁ」と言うのが、挨拶のようなものだった。 その後で、「剣道部に入部の手続きはしておいたからな」と言った。 「おい…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十一 ベビーベッドにはききょうがいた。枠に掴まって立っていた。京一郎も起きていた。きくは京一郎に哺乳瓶からミルクを与えていた。 今は午後九時だった。 ネットで黒金金融の電話番号を調べた。電話したが、当然誰も出ない。 だったら、行くしかなかった…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

十 一週間が過ぎるのは、長かった。その間に、富樫と沙由理が見舞いに来た。 富樫は相変わらずだった。 「この不死身野郎が」と言って、いきなりベッドロックをしてきた。 「一応、入院中なんだけれどな」と僕が言うまで止めなかった。富樫のベッドロックも…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

九 僕は病院のベッドの上にいた。 僕が呻くと「京介」と母が僕を呼んだ。僕は母の顔を見た。 母はナースコールを押した。すぐに看護師が来て、僕を見て「先生を呼んできます」と言った。 僕は母に「携帯を持っている」と訊いた。母は頷いた。 「僕の部屋にき…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

八 月を見る。まだ三日月だから、満月までに間があった。 家のことはすでに大家に話して、借主が風車大五郎に替えてあったが、大家には僕が今月中に田舎に戻ることになったが今まで通り頼みますよ、と念を押しておいた。 「叔父が亡くなったので、その後を継…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

七 夕餉の後、僕は風車、ききょうを抱いたきく、みねがいるところで、「今夜、決行します」と言った。 風車が「どうしてもしなければならないことなんですね」と言った。 僕は頷いた。 そして、風呂場に行ってちょっとした準備をした。それは、ビニール袋に…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

六 買物に浅草に来ていた。頼まれた物は、まだ買ってはいなかったが、取りに行けばいいだけだった。おやつの饅頭だったのだ。 時間があった。店々を見て歩いていた。そのうちに、染料屋に入り込んでいた。 朱色の染料に目が奪われた。それが溶かれた水は、ま…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

五 風車の筆学所はますます評判を上げていった。風車はその風貌とは異なり、人柄が良かったからだ。そして、先生向きだった。教えることが好きだったのだ。 教え子が増えるにつれ、離れにも長い座卓が置かれるようになったので、みねの身の回り品は、女中部…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

四 次の日から、昼餉はいらないと言って、遠出をするようになった。飯田橋のあたりを歩き回っていたのだ。そして、ついに、二宮権左衛門の屋敷を見付けた。大きな屋敷だった。 寺も近くにあった。 この屋敷に、二宮権左衛門がいる時に襲えば、仕留められる。…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

三 風車の筆学所は、盛況だった。教え子がすでに三十人を超えていた。教える場所のキャパシティも超えていたので、昼餉までの部(午前の部)と昼餉からの部(午後の部)とに分けて教えていた。相手の理由で毎日来られない子もいた。それらの子は、授業料を按…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

二 修太郎と修二郎は、朝餉の済んだ巳の刻(午前九時から十一時頃)の少し前に来た。 風車は、二人を表座敷に上げ座布団に座らせ、座卓の前に着かせた。彼らの横に風車が座ることになった。 硯などは、今日二人が来ることを予想して準備して置いた。 風車は…

小説「僕が、剣道ですか? 7」

僕が、剣道ですか? 7 麻土 翔 一 秋も過ぎ、寒さが増してきた頃だった。 みねは、年若いきくをたてて、二人は仲良く炊事をしていた。 もうすぐ朝餉だった。 みんなが、卓袱台の前に座った。僕が「頂きます」と言うと皆が「頂きます」と言って箸を取った。 …

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十六 料亭を出ると、夜風が気持ちよかった。 少量の酒だったが、何だか酔った気分になった。 風車はみねと手を繋いでいた。 僕はききょうを抱いていたので、それはできなかった。代わりに、きくが頭を預けてきた。それは少しの間だけだったが。 ききょうは…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十五 船着き場に着いた。 みねの手を取りながら、桟橋に降りた。 舟は空いていた。 二艘使うことにした。 一つの舟には、風車とみねを乗せた。そして、もう一艘の舟に僕と行李を担いでいる小僧が乗った。 向こう岸には、すぐに着いた。 舟から下りると、船…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十四 その日が来た。 朝早くに目が覚めた。風車も同じだったろう。 昨日に増して、風車は落ち着きがなかった。それは当然だった。 僕も、朝餉を食べたが、何を食べたか覚えてはいなかった。 午前中に使いの者が来るはずだったが、それを待つのが長かった。…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十三 鈴蘭こと、みねの迎えに行く前日になった。もう準備はおおよそ整っていた。足りない部分は、おいおい揃えていけばいい。 朝から風車は落ち着かなった。 「明日ですよ、明日」と僕が言っても、耳に入らないようだった。 今日は夕方に着物を呉服店に取…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十二 風車と風呂に入った。 「後、四日ですね」と僕が言った。 「ええ、それでわたしの人生も変わります」と風車が言った。 「いい方に変わりますよ」と僕が言った。 「そう、信じています」 「明日はどうされますか」と訊いた。 「おみねの布団を買おうと…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十一 家に戻ると、きくに饅頭と魚を渡しながら、今日のことを話した。 「そうでしたか。大変でしたね」と言った。 「身請けの後に祝宴もしてあげようと思うのだがどうだろう」と言った。 すると、「祝宴は両国のどこか料亭を借りて行えばいいんじゃありま…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

三十 風車は、歩くのに支障がなくなってからは、遠くまで歩いて行った。歩くことから躰を鍛え始めていたのだった。 畑の草取りもしてくれた。 そして、怪我を負ってから一月が経った。僕は医者ではないから、風車の躰がどうなっているかは分からなかった。ま…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

二十九 風呂は風車と入った。 風車の足腰がまだしっかりしていなかったことと、前の習慣からだった。ただ、ききょうが一緒に入れないことに駄々をこねた。 駄々をこねるききょうに、「そんなに私と入りたかったか」と訊いたが、言っていることは分からなかっ…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

二十八 風車の躰の傷は、日を増すごとに良くなっていった。 そして、食欲も出て来た。まだ風呂には、入れないので、僕が一日置きに、風呂を焚いた時の湯で、躰を拭いた。下の方は自分で拭いていた。着替えもその時に行った。 こうして、半月ばかりが過ぎた。…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

二十七 風呂はききょうと入った。 風呂上がりに、新しく購入してきたおむつを当ててみた。タオルとは感触が異なったが、こちらの方がおむつとしてしっくりときた。おむつカバーをして、湯上がり用の着物を着せて、湯屋を出た。 風車は当分、風呂には入れなか…

小説「僕が、剣道ですか? 6」

二十六 僕は道場内の床に座ると、襷(たすき)を借りた。着物の袖を襷にしまった。 そして、木刀も選んだ。中が空洞のものを渡されても困るからだった。振ってみて、手にしっくりした物を選んだ。 そして、そっと腰から二本差を取る時に、定国を握った。定国…