2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「真理の微笑」

五十八 二十二日、私は社長室から由香里に電話した。 ハウスクリーニングは二十七日に行われる事になった。 私が会社にいる間にすべてが済む。そして、その日は、ハウスクリーニングのために真理子は一日中、家にいなければならないはずだった。 由香里が出…

小説「真理の微笑」

五十七 家に帰ると、郵便受けにチラシがいっぱい入っていた。私は車椅子を押す真理子に代わり、それらを手にした。年末らしく、ハウスクリーニングの広告が多かった。 これを見ている内に、私はこの家をハウスクリーニングしてもらいたくなった。 富岡の痕跡…

小説「真理の微笑」

五十六 ボーナスが出ると社員は全員喜んだ。「社長、こんなにいいんですか」「はずみましたね」 あちこちから声が上がった。手を上げてそれに応えながら、真理子に車椅子を押されて、社長室に入った。ドアを閉めると静かになった。 福祉車両が来てからは、毎…

小説「真理の微笑」

五十五 朝、出社すると、高木からボーナスの件で相談を受けた。トミーワープロは三万ロットを超え、四万ロットを超えるのも時間の問題であるという報告があった。社員は八十名あまりである。分かりやすいように通常ボーナスに加えて、百万円の特別ボーナスを…

小説「真理の微笑」

五十四 会社に行く日になった。会社移転してすっかり真新しくなった会社にだった。朝から落ち着かなかった。それは当然だった。未知の領域に足を踏み込むのだから。「大丈夫よ、わたしがついているから」 真理子は頼もしかった。「そうだな」 介護タクシーを…

小説「真理の微笑」

次回は、来週24日に更新します。

小説「真理の微笑」

五十三 朝になっていた。眠剤を飲まないでも昨夜は眠れた。 あれからどれほど真理子を抱いただろう。 真理子は化粧台にいて、髪をとかしていた。私が起きた事に気付くと「おはよう」と言った。私も「おはよう」と返した。「昨日のあなたは凄かったわね」 私…

小説「真理の微笑」

五十二 夕食は出前で寿司を頼んだ。病院では食べられなかったからだ。 大トロも美味しかったが、ウニやいくらもうまかった。これでお酒でも飲めたら最高だったが、肝臓の数値が悪いので、医者からはきつく禁酒を言い渡されていた。 夕食の後は、風呂に入った…

小説「真理の微笑」

五十一-2 書斎から外の風景を見た。「ねぇ、思い出す」 そう真理子が訊いたが、初めて見る景色だったから思い出すも何もなかった。私は首を左右に振った。「そう、駄目なのね」「そうがっかりするなよ、俺はこうして真理子と二人だけでいられる事で幸せなん…

小説「真理の微笑」

五十一-1 十二月になった。 カード型データベースソフトのβ版は各出版社などに送られて、概ね好評だった。メニューの表記間違いなどの細かなバグはあったが、データベースの根幹に関わるような決定的なバグは見つからなかった。もう少し様子を見て、来年の…

小説「真理の微笑」

五十 西野と遠藤が病室にいた。カード型データベースソフトのβ版ができたのだ。 私に動作の最終確認をしてもらいに来ていた。 私は細かなところまでチェックした。メニューや操作方法には、特に問題はなかった。後は、実際にデータを入力してどうかという事…

小説「真理の微笑」

四十九 二週間が過ぎた。 由香里は産婦人科の帰りに病院に寄った。十一時頃だった。病室に来る前に電話をかけてきた。「奥さんいる」「いないよ」「良かった。病院の一階の公衆電話から電話しているの。すぐ上がっていくからね」 私は由香里に母子手帳を出さ…

小説「真理の微笑」

四十八 病室に戻り、パソコンを起動し、パソコン通信のメールボックスを開く時が辛くなっていた。 メールを開くと次のようなメールが届いていた。『隆一様 あなたが失踪した日の朝の事を思い出すのです。 あの時、わたしは何も気付きませんでした。きっとあ…

小説「真理の微笑」

四十七 カード型データベースソフトは、β版を作れるところまで来ていた。概ね、(株)TKシステムズで作っていたカード型データベースソフトを下敷きにしていたが、ユーザーインターフェイスをトミーワープロに合わせたために、メニュー構造が大幅に変わっ…

小説「真理の微笑」

四十六 火曜日の午前十一時頃に由香里がやってきた。産婦人科で診察を受けた後だと言った。「順調よ」「そうか」 そう言うと、由香里は内緒話でもするかのように耳元に口を寄せて「男の子だって」と言った。「男か」「あれが見えたんですって」 エコーに性器…

小説「真理の微笑」

四十五 パソコンを立ち上げると、パソコン通信ソフトのメールボックスを自然に開いていた。『隆一様 今日は、あなたが好きだったチキンカレーにしました。祐一と二人で食べました。祐一はお代わりをしました。 あなたがいないのが寂しくてたまりません。会い…

小説「真理の微笑」

四十四 九月の二十九日は、高瀬である私の誕生日だった。 毎年、私の好きなショートケーキを夏美が買ってきてくれて、祐一と三人でお祝いをした事を思い出した。だが、今はベッドの上で一人夕食を食べている。 十月になった。 しかし、猛暑は続いていた。た…

小説「真理の微笑」

四十三-2 「分かった。でもどうして今頃……」 そう言うと、由香里はムッとしたような表情を見せた。「それは堂々と会社に行けるものならそうしていたわ。会社に行く時はいつもあなたから連絡があった時だけ。そうでない時は、クラブかホテルで会っていたで…

小説「真理の微笑」

四十三-1 リハビリを終えて病室に戻った時だった。 お腹が少しばかり膨らんでいるのが目立つ女性が、そのお腹を突き出すように椅子に座っていた。薄化粧の目鼻立ちのはっきりした女性だった。髪はセミロングでパーマをかけていた。淡いブルーのマタニティ…

小説「真理の微笑」

四十二 一週間が過ぎた。 月曜日の午前中に、教授回診があって、それぞれの担当医が教授に説明をしていた。私は、内臓の数値が良くなってきてはいるが、まだ高いという事だった。特に腎臓と肝臓がまだ悪いようだった。心電図は安定しているという事だった。…

小説「真理の微笑」

四十一 午前七時に看護師に起こされるまで眠っていた。体温と血圧を測っていった。 午前八時に食事を済ませると、ラップトップパソコンを取り出した。昨日、真理子が持ってきたソフトをインストールし、自分が使いやすいようにカスタマイズした。 そのうち、…

小説「真理の微笑」

四十 夕食が終わった頃、真理子が病室に来た。私はセーフティーボックスの鍵を左手首から外して、パジャマのポケットに入れていた。真理子とキスをする時に首に回した手に鍵がぶら下がっていたのではまずいと思ったからだった。 真理子が「今日はどうだった…

小説「真理の微笑」

三十九 次の日、真理子が来て会社に行った後、午前十時頃に西野と遠藤が来た。昨日、伝えた事を内山に言ったのだろう。 二人を枕元に引き寄せて、まだ上手く話せない事を伝えてから「カード型データベースソフトの件なんだけれど」と切り出した。二人は私の…

小説「真理の微笑」

三十八 夕食が済んで、しばらくしたら真理子がやってきた。 大きな手提げ袋を両手に持っていた。今朝、渡したメモのソフトが入っているのだろう。「大変だったんだから」という真理子に、「ありがとう、これで助かる」と言いながらキスをした。「今日はどう…

小説「真理の微笑」

三十七 昼食をとった後、午後二時からリハビリを行った。今日は平行棒に掴まって立つ練習をした。足腰が弱っているので、十回も繰り返すと息があがった。 理学療法士は決して否定的な事は言わない。「いいですよ。今日はこれで十分です。だんだん慣れていき…