2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧
九 番所での書取りには、時間がかかった。 その間にお茶が出されただけだった。きくはききょうにミルクを飲ませた。 しばらくして、番所に先程姿を消した若侍が入ってきた。 彼は僕に「危ないところをお助け頂きありがとうございました」と言った。そして、…
八 夕暮れまで大山道を歩き、高杉宿に着いた。道行く人に次の宿場まで三里ほどあると聞き、ここで宿をとることにした。 通りがかりの人にどこの宿屋がいいか訊くと、皆、若松屋だと答えたので、若松屋に泊まることにした。 赤ん坊がいるので、隅の個室がいい…
七 それから三日後、四月二十七日の昼頃だった。 高木屋に男が来て「鏡京介様はいらっしゃいませんか」と言うので、下りていくと、上がり口に行商人が座っていた。「私が鏡京介だが、あなたはどなたですか」と訊いた。「名乗るほどの者ではございませんが、…
六 次の日は、朝餉が運ばれてきたと言うので起きた。 布団をたたみ、食膳を部屋に入れたところで、僕は外に干してあった着物を着て、顔を洗いに行った。着物は乾いていた。 朝餉は、やはりいつもより多めに食べた。 食べ終わった後、眠くなったので、きくの…
五 宿に戻ると、僕の帰りが遅いので、きくが心配していた。 僕は番所であったことを話した。「まぁ、そんなことになったんですか」ときくは心配そうに言った。「やるしかないだろう。相手は私を試しているのかも知れない」と僕は答えた。「まぁ、そうですの…
四 次の日、起きると、きくはおっぱいを出してききょうに乳を飲ませていた。 顔を洗うと、朝餉になった。 乳を飲んだが、皿にご飯を載せて湯を少し掛けて潰すと、それをききょうはよく食べた。今日もおかわりをした。 僕も焼き魚をおかずにご飯を二杯食べた…
三 旅籠に風呂がなかったので、通りの向こうの銭湯に入りに行くしかなかった。銭湯は半身浴だった。荷物が取られるのが、心配だったので、交代で入りに行くことにした。 僕が先に入ることにした。銭湯代と着替えの肌着とトランクスとタオルを持って行った。…
二 宿場町への行き方は教わった。その方向に向かって、道を歩いた。 途中、腹が減ったので、もらったおにぎりを食べた。おにぎりを食べると、水が飲みたくなる。近くに人家は見えなかった。右手は山だった。山なら湧き水もあるかと思い、ショルダーバッグの…
僕が、剣道ですか? 4 麻土翔 一 僕は校庭に倒れた。きくとききょうはいなかった。 それを見た母が携帯で一一九番をした。 意識を取り戻した時、僕ときくとききょうは、どこかの畑に倒れていた。 僕もきくもききょうもびしょ濡れだった。 僕は立ち上がると…
三十九 家に戻ると、沙由理から携帯が掛かってきた。「無事、PTA会も切り抜けたようじゃない」「お母さんから聞いたのか」「ううん、ママは何も話してはくれなかったけれど、様子でわかるわ」「そうか。で、何の用だ」「何の用じゃ、ないわよ。PTAの役…
三十八 一月十二日の放課後、担任の梶川祐子に呼ばれた。中年の女の教師だった。「黒金高校と揉めているという話を聞いているんだけれど、本当」 僕は「揉めているというより、因縁を付けられていました」と言った。「それでどうしたの」「逃げました」「ほ…
三十七 家に帰り着いた僕はリュックのようになったオーバーコートとショルダーバッグを持って自分の部屋に上っていった。部屋に入り、オーバーコートとショルダーバッグをそこらあたりに置くと、ベッドに倒れ込んだ。そして、そのまま眠った。「ご飯ですよ」…
三十六 工場を覗くと、屈強な男たちが少なくとも三十人以上いた。竜崎雄一は、工場の奥にいるか、事務所の中にいるのだろう。 とにかく姿は見えなかった。 僕は見える範囲の男たちの腕でも足でもいいから、クロスボウで矢を放った。十人は命中したが、こちら…
三十五 一月六日、土曜日。 午前七時に目が覚めた。 明日は、いよいよ黒金高校と一戦を交えることになる。緊張感はなかった。 朝食をとった後、自分の部屋に籠もって、明日のプランをいろいろと練った。しかし、いくら考えてみても、実際に戦ってみなければ…
三十四 浅草から、都営浅草線に乗って来た時と反対の順序で高田馬場駅まで帰った。 僕はつけてくる奴がいるので「俺んちに寄って行けよ」と富樫に言ったら「いいね」と言うので、一緒に帰ることになった。つけてくる奴がいるので、大きな通りを選んで帰るこ…
三十三 四日は午前七時に目が覚めた。 親父は「今日は、新年会があるから遅くなる」と言って出て行った。 僕はトーストパンにコーヒーとサラダで朝食を済ませた。 そういえば、昨日、きくが「お餅をオーブントースターで焼くのには驚きました」と言っていた…
三十二 家に帰ると、自分の部屋に上がっていった。きくがベッドに座って、哺乳瓶からミルクを飲ませていた。 僕を見ると、「沙由理さんとデートですか」と訊いた。「そうだよ」「楽しそうでいいですね」と言った。「これも必要だからやっているんだ」「でも…
三十一 今日は、戦闘モードの服を着て、正午に新宿南口の改札の前に行った。 沙由理はもう来ていた。 昼を駅ビルのイタリアンレストランで食べようとしたが人でいっぱいだったから、ハンバーガー店で軽く食事をして、すぐにカラオケ店に向かった。 午後一時…
三十 元旦に家に着いたのは、午前三時過ぎだった。帰りも大混雑の中だった。 きくは初詣が珍しかったのか、大興奮していた。 風呂に入っても「楽しかったです」と言っていた。 僕はすっかり疲れてしまったので、風呂から上がると、自分の部屋に上がっていき…
二十九 十二月三十日はお掃除と決まっていた。朝から僕は大掃除の手伝いをさせられていた。窓拭きから納戸の整理まで、一日中、こき使われた。 きくは掃き掃除と拭き掃除に活躍した。 午後四時頃には、一通りの掃除は終わった。 その時、携帯が鳴った。出る…
二十八 母からの買物リストを持って、再び安売りのスーパーに戻ってきた。 客は少なくなっていた。特売品はすべて売り切れていた。 仕方ないので、特売品ではなくてもリストにある物を籠に入れていった。ほとんどの物は買えた。 安売りのスーパーで買えなか…
二十七 空き地で集団に囲まれていた。人数を数えると二十二人いた。 随分と、数を揃えたもんだと思った。 僕は、気付かれないように、携帯で彼らの写真を撮った。「ここに来る途中で、他の奴らにも連絡したから、おってやってくるだろう」とヘッド格の男が言…
二十六 家に帰ると、きくが玄関で待っていた。「お帰りなさいませ」「うん」「沙由理さんとは、楽しかったですか」 それか、と僕は思った。「沙由理さんは、待っていてくれたんですよね」「ああ」「それからデートをしたんですね」「ああ」と言いながら、き…
二十五 新宿南口には午前十一時過ぎに着いた。すぐに改札口に行かず、少し離れた所から沙由理を捜した。 沙由理は、待っていた。動物の毛の立った襟の白い皮のコートを着ていた。目立っていた。何人かの男が声をかけていたが、沙由理は断っていた。 すぐには…
二十四 午前七時に目が覚めた。「おはよう」と親父と朝の挨拶をした。このところ、僕の起きるのが遅かったから、朝、挨拶をするのが久しぶりのように感じた。 スクランブルエッグにハムとチーズとレタスのサラダ、それとトーストしたパンにコーヒーが今日の…
二十三 その夜、夕食も済み、風呂に入ってベッドでゴロゴロしていると、携帯が鳴った。「わたし、沙由理」「誰からですか」ときくが訊くので、口に人差し指を立てて、静かにしていろ、という合図を送った。この合図は暇な時に教えておいたのだ。「誰かいるの…
二十二 携帯を見たら、富樫から電話が何度も入っていた。沙由理親子と会う時は携帯を切っていたのだ。 富樫に電話をした。「一昨日から何度も電話してんだぞ、ちった、出たらどうなんだよ」と言った。「こっちもちょっと用があってな。出られなかった」「大…
二十一 火曜日は午前九時に起きた。朝食は食べなかった。食欲がなかったのだ。 きくが「元気がないんですか」と訊いてくれたが、そういうわけじゃなかった。「ききょうはどうしている」と訊くと「眠っています」と答えた。 予防接種をした時、「何か変な症状…
二十 僕はくたくただったが、こんなことやあんなことがあったなんて言えやしない。 家に帰ると、真面目な高校一年生に戻っていた。というより、戻らざるを得なかった。 母はきくにいろいろなことを教えていた。本当に江戸時代から来たことを信じ始めているよ…
十九 黒金不動産は高橋宏をつけていった時に見た会社だった。 場所は分かっている。しかし、まともな会社じゃないことも分かっている。沙由理は僕を陥れようとした女だ。ほっとけばいい、と思った。 このまま、何もかも忘れて家に帰ればそれで済む話だ。だが…