2021-01-01から1年間の記事一覧
次回は、年明け1月6日木曜日にアップの予定です。
三十二-2 ビルの周りを回ったら、次に中に入ろうとしたが、当然だが、ビルの入口は鍵が掛かっていた。もう一度、ビルを見渡すと、三階の外階段近くの窓硝子が割れているのが分かった。 もう一度、外階段に入り、三階まで上がった。階段の外に躰を乗り出し…
三十二-1 家に帰ると、自分の部屋に上がっていった。きくがベッドに座って、哺乳瓶からミルクを飲ませていた。 僕を見ると、「沙由理さんとデートですか」と訊いた。「そうだよ」「楽しそうでいいですね」と言った。「これも必要だからやっているんだ」「…
三十一-2 二分後に携帯が鳴った。「鏡京介か」「そうだ。竜崎雄一か」「ああ、俺に携帯をかけさせるとはいい度胸だな」「そっちこそ、ちびってんじゃないのか」「何の用だ」「そろそろ、決着をつけようぜ」「ふん、そっちから決闘を申し込んでくるとはな」…
三十一-1 今日は、戦闘モードの服を着て、正午に新宿南口の改札の前に行った。 沙由理はもう来ていた。 昼を駅ビルのイタリアンレストランで食べようとしたが人でいっぱいだったから、ハンバーガー店で軽く食事をして、すぐにカラオケ店に向かった。 午後…
三十 元旦に家に着いたのは、午前三時過ぎだった。帰りも大混雑の中だった。 きくは初詣が珍しかったのか、大興奮していた。 風呂に入っても「楽しかったです」と言っていた。 僕はすっかり疲れてしまったので、風呂から上がると、自分の部屋に上がっていき…
二十九-2 十二月三十一日は、母ときくとききょうと僕とで明治神宮に初詣に行くことになった。 ききょうを連れて行くと言った時に、母も行くと言って聞かなかったのだ。でも、僕としては母がついてきてくれた方が万一の場合を考えると助かると思った。 初詣…
二十九-1 十二月三十日はお掃除と決まっていた。朝から僕は大掃除の手伝いをさせられていた。窓拭きから納戸の整理まで、一日中、こき使われた。 きくは掃き掃除と拭き掃除に活躍した。 午後四時頃には、一通りの掃除は終わった。 その時、携帯が鳴った。…
二十八 母からの買物リストを持って、再び安売りのスーパーに戻ってきた。 客は少なくなっていた。特売品はすべて売り切れていた。 仕方ないので、特売品ではなくてもリストにある物を籠に入れていった。ほとんどの物は買えた。 安売りのスーパーで買えなか…
二十七 空き地で集団に囲まれていた。人数を数えると二十二人いた。 随分と、数を揃えたもんだと思った。 僕は、気付かれないように、携帯で彼らの写真を撮った。「ここに来る途中で、他の奴らにも連絡したから、おってやってくるだろう」とヘッド格の男が言…
二十六 家に帰ると、きくが玄関で待っていた。「お帰りなさいませ」「うん」「沙由理さんとは、楽しかったですか」 それか、と僕は思った。「沙由理さんは、待っていてくれたんですよね」「ああ」「それからデートをしたんですね」「ああ」と言いながら、き…
二十五 新宿南口には午前十一時過ぎに着いた。すぐに改札口に行かず、少し離れた所から沙由理を捜した。 沙由理は、待っていた。動物の毛の立った襟の白い皮のコートを着ていた。目立っていた。何人かの男が声をかけていたが、沙由理は断っていた。 すぐには…
二十四 午前七時に目が覚めた。「おはよう」と親父と朝の挨拶をした。このところ、僕の起きるのが遅かったから、朝、挨拶をするのが久しぶりのように感じた。 スクランブルエッグにハムとチーズとレタスのサラダ、それとトーストしたパンにコーヒーが今日の…
二十三 その夜、夕食も済み、風呂に入ってベッドでゴロゴロしていると、携帯が鳴った。「わたし、沙由理」「誰からですか」ときくが訊くので、口に人差し指を立てて、静かにしていろ、という合図を送った。この合図は暇な時に教えておいたのだ。「誰かいるの…
二十二 携帯を見たら、富樫から電話が何度も入っていた。沙由理親子と会う時は携帯を切っていたのだ。 富樫に電話をした。「一昨日から何度も電話してんだぞ、ちった、出たらどうなんだよ」と言った。「こっちもちょっと用があってな。出られなかった」「大…
二十一-2 ホテル内のカフェの奥のテーブルに座った。周りには人はいなかった。 ボーイが注文を取りに来ると、僕は「ブレンドを」と言った。二人はアールグレイを注文した。 ボーイが去ると、すぐに沙由理の母が頭を下げて、「この度は娘がお世話になり、大…
二十一-1 火曜日は午前九時に起きた。朝食は食べなかった。食欲がなかったのだ。 きくが「元気がないんですか」と訊いてくれたが、そういうわけじゃなかった。「ききょうはどうしている」と訊くと「眠っています」と答えた。 予防接種をした時、「何か変な…
二十 僕はくたくただったが、こんなことやあんなことがあったなんて言えやしない。 家に帰ると、真面目な高校一年生に戻っていた。というより、戻らざるを得なかった。 母はきくにいろいろなことを教えていた。本当に江戸時代から来たことを信じ始めているよ…
十九 黒金不動産は高橋宏をつけていった時に見た会社だった。 場所は分かっている。しかし、まともな会社じゃないことも分かっている。沙由理は僕を陥れようとした女だ。ほっとけばいい、と思った。 このまま、何もかも忘れて家に帰ればそれで済む話だ。だが…
十八 土曜日は特に何事もなかった。 日曜日はクリスマス・イブだったから沙由理からデートの誘いがあった。当然、きくは機嫌が悪かった。そのきくを残して、新宿のとある百貨店で会う約束をした。 午前十時に沙由理と落ち合うと、その百貨店の開店と同時に、…
十七 金曜日だった。今日は、お祖母ちゃんの入所金が支払われる日だった。 その連絡を母は待っていた。午前十時頃、入金したという知らせが来た。これで一安心だった。後は、月曜日に入所するだけだった。入所する施設は市ヶ谷にあると言う。駅から十分ほど…
十六 ガラス屋が来て、玄関のガラスと、納戸と風呂場のガラスを入れ替えた。もともと割れにくいように中に針金が入っていたが、今度のはもっと強度が高い物だとガラス屋は説明した。代金を払って領収書をもらった。それを携帯で写して、保険会社に送信した。…
十五 寒くなってきたから、革ジャンパーの上にオーバーコートを着た。 オーバーコートには、武器はない。 ショルダーバッグを持つと結構重い。 きくとききょうを連れて、新宿御苑を散歩した。ここなら、黒金高校の連中に会う心配はなかった。ききょうは乳母…
十四 また、きくが玄関に待っていた。「沙由理さんとのデートはどうでしたか」「良かったよ。誤解も解けたし」 そう言うと、きくの機嫌は悪くなった。どうやら、僕は地雷原を踏んだようだ。「良かったですね。楽しそうで」「まあまあかな」「お気を遣ってい…
十三 午後一時半前に家を出た。少し早かったが、新宿南口まで歩いて行くつもりだった。 十分ほど前に着いたが、沙由理の方が早かった。あまり歩くことをせずに、駅ビルでおやつを食べることにした。僕も沙由理もお昼は食べていなかったので、少しボリューム…
十二「京介様、沙由理様とのデートは楽しかったですか」 家に入るなり、玄関の廊下の上がり口の所に敷いてある小さなカーペットの上にきくが正座して、そう訊いた。「楽しいも何も大変だったんだよ」と答えた。「大変だったとは、何かあったんですか」 いつ…
十一-2 黒金町に入っていることは分かった。 僕は適当な路地を探した。少し先に路地が見えた。そこまでの辛抱だと、彼女に伝えてやりたかった。「あの路地を曲がれ」とナイフを突き立てている男が言った。 似たようなことを考えているのに、違いなかった。…
十一-1 問題の日曜日が来た。 僕は午前八時に起きた。朝シャワーして、朝食を軽く食べた。歯を磨き、長袖シャツとセーターを着て、ジーパンを穿いた。髪を整えたら、九時を少し過ぎていた。まだ、時間は早かった。 財布に現代美術展のチケットを入れて、オ…
十-2 「デートって何ですか」「そりゃ、二人で一緒に買い物したり、食べたり、歩いたりすることです」と富樫が答えた。「二人っきりになるんですか」ときくは訊いた。「そう」「きくはいやです」と言い出した。「きくちゃんはお前の従妹だよな」と富樫が言…
十-1 この週末から冬休みに入る。 授業も身には入らなかった。 ほとんどの奴らが、スキー旅行に行くようだった。当然、富樫も行く。 僕だけが取り残されたような気分になった。 食堂でひとりまったりしていると、「今度の日曜日、空いてる」と絵理が訊いて…