2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧
十六 十二月下旬になると、夏美は学校に行き、担任と相談をした結果、とにかく二月早々にある有名私立中学校と国立中学校を受験する事に決めた。 国立某中学校は、来月一月の中旬になってすぐの二日間のみ窓口受付を行い、有名私立中学校の方は、郵送であれ…
十五 第二回公判は十二月の中旬だった。祐一の業者テストが行われる時期と、学期末テストの時期に当たっていた。 しかし、公判を休むわけにはいかず、夏美は前と同じような席に座った。真理子も同じように座っていた。 第二回公判は、まず検察側の証拠の提示…
十三 夏美の実家から取材陣もいなくなり、ワイドショーにも富岡修の件が報じられなくなった六月のある日の事だった。 富岡修が高瀬隆一として詐欺罪で逮捕されたのである。 詐欺罪の逮捕は、明らかに別件逮捕であった。本丸は、高瀬隆一の富岡修殺しであった…
十 「夏美さぁ~ん」 干し物を取り込みに庭先に出てきた夏美に、遠くからマイクが向けられて中年の女性リポーターの声が響いた。 「高瀬隆一さんが生きているかも知れないって知ってましたか」 夏美は答えずに洗濯物を取り込んだ。 居間に入ってテレビを付け…
八 夏美は富岡修と紹介されている写真に見入った。見ていくうちに、何故か鳥肌が立った。記事を読んでいくと、富岡修も昨年、七月に自動車事故を起こして数ヶ月入院していた事が書かれていた。ただ、どこで事故を起こしたのか、そしてそれが七月の何日である…
六 十月の上旬だった。夏美の実家に茅野の警察署の刑事が二人訪れた。 二人は、島崎と高橋と警察手帳を見せて名乗った。 島崎の野太い声から、いつか電話で話をした刑事だと夏美にはわかった。 二人を座敷に通すと、挨拶もそこそこに夏美はすぐに「主人は見…
五-一 十二月の中頃、夏美の元へ高瀬から分厚い封筒で三百万円の現金が送られてきた。 『隆一様 素敵なクリスマスプレゼントありがとう。三百万円、確かに受け取りました。あなたの書かれた住所も電話番号も、名前のようにでたらめでしたね。電話をかけたけ…
四-一 『隆一様 メモ通りに設定しました。わたしには難しくて、よくわからないところもありましたが、何とか終える事ができました。このメールが無事届くといいですね。 今、わたしたちは埼玉のわたしの実家にいます。祐一は転校してきたばかりで、まだ友達…
三 午後七時頃、電話があった。父が出ると、その電話は切れてしまった。夕食の用意をしていた夏美は、父が出る前に受話器を取ろうとしたが、またも父が出てしまい電話は切れた。父が食卓の方に来たので、夏美は電話機の前で待っていると、三度目の電話が鳴っ…
二 二ヶ月と十日ほど経とうとしていた頃だったろうか、午後四時頃に突然、居間の電話が鳴った。 夏美は庭にいて洗濯物を取り込んでいた。 夏美は洗濯物を縁側に置くと、居間に駆け上がり、受話器を取り上げた。高瀬からの電話だと思ったのだ。 「もしもし、…
真理の微笑 夏美編 一 七月最初の土曜日の午後だった。高瀬は「じゃあ」と笑顔で車に乗って、蓼科に向かって出発した。 夏美は「気をつけて行ってきてね」と言い、高瀬の車が角を曲がるまで手を振っていた。 高瀬は翌日のお昼頃には帰ると言っていた。しかし…
六十二 トミーワープロはバージョンも重ねて、さらに売れ続けた。そして、六年後には、新宿区に新社屋を建てた。 落成式は盛大に行われた。 猛は有名な私立小学校に入学した。 その年に二人目の子どもが七月に授かった。女の子だった。絵美と名付けられた。 …
六十一 九月も終わろうとしていたその日、真理子は朝食にパンケーキを焼いていた。 赤ちゃんは高瀬の車椅子の隣で、ゆりかごの中で眠っていた。 高瀬は新聞紙を熱心に読んでいた。 パンケーキが焼けると、真理子は微笑みながら、「あなたぁ、焼けたわよ」と…
次回は、2月26日月曜日にアップの予定です。
五十九 二月になった。 真理子のお腹の子どもは順調に育っていた。 ある日、介護タクシーで早く帰ってきた高瀬に真理子は驚いて、「どうしたの」と訊いた。 「少し疲れているんだ」と高瀬が応えると「それならベッドで休んだら」と真理子は言った。 「いや、…
五十七 次の日、真理子は車で高瀬を会社に送り届けると、「また迎えに来るからね」と言って社長室のドアを閉めた。 社内には、昨日の新年会の興奮がまだ残っていた。 真理子は車椅子をトランクに入れると、車を発進させた。何となく躰がだるい気がした。 一…
五十六 金曜日は、新年初出社の日だった。 真理子は高瀬を会社に送り、車椅子で会社の中に入っていくと、新年会の準備で忙しかった。高瀬を社長室まで連れて行くと真理子は帰った。 月曜日になった。今日は新年会の日だった。 新年会は午前十時に始まるので…
五十五 大晦日だった。起きたのは昼を過ぎていた。 昨夜と言うより、朝まで真理子は高瀬に抱かれていた。 高瀬が寝室の電気を消さず「真理子の顔を見ていたい」と言うので、恥ずかしかったがそうした。真理子は目を閉じ、いつか週刊誌に載っていた不鮮明な高…
五十三 十二月二十八日は忘年会がある日だった。 会社に高瀬を送り届けた後も真理子は会社に残った。朝から会社は騒々しかった。 真理子は車椅子を押して、高瀬と社長室に入った。 「毎年、こうなのか」と高瀬が真理子に訊くので、「知らないわ。朝から来る…
五十二 午後五時になり、会社に高瀬を迎えに行った時、高瀬は難しい顔をしていた。 車の中でも何か考え事をしているようだった。 家に戻ると、真理子が「あなた、今日は嫌なことでもあったの」と言った。 「車の中でも難しそうな顔をしていたもの」 「ああ、…
五十一 夜のベッドで高瀬と抱き合った後、真理子は浴室でシャワーを浴びた。 真理子が寝室に戻ってくると、高瀬は「入院中、真理子のご両親もうちの両親も面会に来なかったけれど、どうしてだろう」と訊いた。 「知らなかったの」 「何も覚えていないんだ」 …
五十 次の日の朝、介護タクシーを呼んで、真理子は高瀬を社長室まで連れて行くと、高瀬は車椅子から真理子の手を借りなくても自分で椅子に座った。 「俺は大丈夫だから、真理子は介護用の車の方を頼むよ」と言った。 「わかったわ」と真理子は応えると、社長…
四十九 今日は、会社に出る日だった。介護タクシーを呼んで出社した。 慣れないので、印刷した地図を運転手に見せ、道順を辿りながら会社に行くと、移転した会社は見違えるようだった。 真理子は高瀬を見ていて、朝から落ち着かないようだった。これからこの…
次回は、2月19日月曜日にアップの予定です。
四十八 夜が明けていた。 昨夜は、何度、抱き合ったことだろう。真理子にも、過去に記憶がないほどだった。 真理子は化粧台に行き、髪をとかした。昨日、化粧台の鏡に映った自分と今の自分を比べてみた。何かが変わったような気がした。それが何かはわからな…
四十七 真理子は高瀬の車椅子を窓辺に押していき、書斎から外の風景を見させた。 「ねぇ、思い出す」 そう真理子が訊いたが、高瀬は首を左右に振った。 真理子が「そう、駄目なのね」と言うと、高瀬は「そうがっかりするなよ、俺はこうして真理子と二人だけ…
四十六 十一月に入ると、真理子は毎朝、高瀬の朝食が終わる午前八時半頃に病室を訪ね、何か必要なものがあるかどうかを訊いた。しかし、本当は病室を出る時にする高瀬とのキスを求めていたのかも知れなかった。 新しい会社に移ってからは、時折、思い出した…
四十五 真理子が家に着いたのは、午後五時前だった。 早速、洋服店に電話をした。 「では、何時に伺えばいいでしょうか」と訊くので、真理子は「午前十一時にお願いできる」と訊いた。 「ええ、大丈夫ですよ。では、午前十一時に****病院の****室で…
四十四 木曜日、真理子は午前八時に起きた。今日は設計士の人が来る予定だった。 急いで、朝食を済ませると、家の掃除をした。 午前九時に設計士の人たちが来た。四人だった。彼らは二人ずつがペアを組んで、改修する箇所の細かな数字を計測しては、設計図に…
四十三 水曜日、真理子は病院に寄った後、会社に行った。 真理子は社長室に寄らず、直接、開発部に顔を出した。昨日社内を見回った成果だった。部屋の奥のデスクにいた内山を呼んで、データベースソフトに詳しい者を選んでもらった。 真理子は二人に、病室へ…