小説「僕が、剣道ですか? 3」

 僕は撮った写真をクラウドストレージ(インターネット上にある保存場所)にアップロードした。携帯を奪われたり、壊されたときの保険だった。

 こちらの顔を見られているから、彼らがこのまま黙っているはずはないと思った。ただ、すぐには見つけられないだろうから、その間は安全なはずだ。

 とにかく父を襲った復讐と奪った小判の分ぐらいは痛い目を見せてやった。

 それと、黒金古物商と黒金高校の生徒がつるんでいることが分かった。

 宝永小判は一枚でも大金だ。高校生の扱える金額を超えている。黒金高校の生徒には、バックがついているのかも知れなかった。

 いずれにしても、戦いを始めてしまったのだから、これで終わるということはないはずだ。

 

 僕は路地を出ると、まだ金属棒を持っていることに気付いた。オーバーの下に隠して、どこか隠しておける場所を探した。線路の下のコンクリートの間にそれを倒してみた。土に重なって、ちょっと見には、金属棒とは分からなかった。

 ここなら争いになっても来やすいと思った。それからナックルダスターは戦利品としてもらっておくことにした。小判一枚との引き換えなら、安いものだろう。

 

 家に帰った。途中、つけてくる者がいないかは注意した。

 きくとききょうに会うと、今日の出来事が嘘のように思えてきた。

 父が帰宅したので、昨日のことをもう一度訊いた。

「じゃあ、書類のようなものに住所は書いてこなかったんだね」

「そりゃ、そうだ。売るなら別だが、売る気がなかったんだから、何も書いて来ないに決まっている。今は個人情報にうるさいから、そういう古物商にも名前や住所は残しては来たくはないじゃないか」

「そうか。それならいいんだ」

 僕はほっとした。父がうちの住所を残してきたらアウトだと思ったからだった。

 

 ききょうは哺乳瓶から赤ちゃん用のミルクを飲んでいた。

「こんな便利なものがあるんですね」ときくは驚いていた。

「国にいた頃には、乳が出ないときには貰い乳を飲ませる他はなかったですから」

「そうなのね」と母も格別、きくの言葉に驚いた風はなかった。感覚的に江戸時代から来たんだということが分かってきたようだった。

 風呂に僕ときくが一緒に入ることも、しょうがないと思っているようだった。

 きくには新しい着物が用意されていたが、「前のがいいなあ」と言うきくに「お母さん、前のきくの着物を出してよ」と言った。

「それ、いい物なのよ」と母は言ったが、きくの着物を出してきた。

 きくは自分の着物を着ると「やっぱり、この方が合う」と言った。

 しかし、現代で生活するなら着物では不便だからと、きくを説得して、次の土日に洋服を買いに行く約束をさせた。

 夜になると、きくが求めてきたので応じると大きな声を出すので、慌てて枕で口を押さえた。

「頼むよ、きく。ここでは大声は駄目」

「ここでは大声はダメです」ときくは反芻した。

 

 次の朝、母から「昨夜のあれは何」と言われた。

「ききょうが泣いたのであやしたんだよ」

「ききょうちゃんの泣き声には聞こえなかったけれど」

 僕は黙って、ご飯をかきこんだ。

 

 土曜日が来た。

 母ときくとききょうと僕の四人で新宿に行った。きくは母の古い服を無理矢理着せられていた。さすがに着物で新宿は歩けなかった。

 取りあえず全部揃えるということでデパートに行くことにした。

 まず下着を選んだ。次に服を選んだ。その間、僕は店の前で待っていた。

 段々、荷物が多くなってきた。

 一通り買い揃えると、タクシーで帰った。

 すると、家の前に富樫がいた。

「あら、富樫君、来てたの」

「はい、京介と遊ぼうと思って」

 その時、きくとききょうがタクシーから降りてきた。

 僕は買物袋で、きくとききょうを隠そうとしたが、無駄だった。

「おい、京介。その女の子と赤ちゃんは誰なんだよ」

「従妹と別の従妹の赤ちゃんだよ」

「そんな従妹、お前にいたっけ」

「いたんだよ」

「そうなんですか、おばさん」

 母は説明しづらそうに、「そう、そうね」とだけ言った。

「へぇー、こんな可愛い従妹がいるんだ。お前、スゲぇな。それにこの赤ちゃんも可愛いな」

「そうだろう」

「今日は買物に行ってきたんですか」

 見りゃ、分かるだろう、と言いたいところだが、言わなかった。

「そうなんだ」

「へぇー、何買ってきたの」

 富樫は家に上がる気満々だった。

「この子の洋服だよ」

「これから着てみるんですか」

「そうよ」と母が言った。

「俺、見てみたいな。見てもいいですか」

 こういうの、断れないだろう。

「ええ、いいわよ」と母が言った。そう言うしかなかった。

「お邪魔します」

 お邪魔だって……。

 

 結局、富樫は上がり込んで、買ってきた服をきくが着て見せた。

「すげぇ、似合ってる。可愛いよな」

 富樫は僕に同意を求めた。僕は頷くしかなかった。すると、きくは凄く嬉しそうな顔をした。それがまた富樫を喜ばせた。

「次のも着て見せて」

 結局、三着買ってきた服、全部を着て富樫に見せた。

 富樫は「すげぇー」としか言わなかった。

 

 富樫が帰った後、「こういう服を着ると男の人は喜ぶんですね」ときくが言った。

「みんなそういうわけじゃない。富樫だけが変人なんだ」

 富樫が帰った後で、僕はそう言った。

「でもこの服、足の下が見えるし、スースーして恥ずかしい」

 スカートだけを買ったからだな。明日、パンツ類も見に行こう、と思った。

「お母さん、明日は渋谷に行こうよ」と言った。

「ごめんなさい。明日は用があるのよ」

「分かった」

 

 きくは鏡の前で、何度も着替えて見ていた。

 僕が寝転んでいると、きくはショーツを穿いていないことが分かった。

「馬鹿、お前何やってるんだ」ときくにショーツを見せて怒った。

「これを穿くんだよ。それとストッキングも」

「えっー、知らなかった」

 母は教えていなかったんだろうか。

 とにかく、ショーツとストッキングを穿かせた。

「はばかりはどうするの」

 僕はきくをトイレまで連れて行って、ショーツとストッキングを膝のところまで下ろすことを教えた。

 そして、終わったら、上まで上げることも。

「今日はトイレ、いや、はばかりはどうしてたの」と訊いたら、「穿いてなかったもの」

と答えた。