小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十一-2

 二分後に携帯が鳴った。
「鏡京介か」
「そうだ。竜崎雄一か」
「ああ、俺に携帯をかけさせるとはいい度胸だな」
「そっちこそ、ちびってんじゃないのか」
「何の用だ」
「そろそろ、決着をつけようぜ」
「ふん、そっちから決闘を申し込んでくるとはな」
「そんなこと、どうでもいい。やるのかやらないのか、どっちなんだ」
「やらないと言ったら、どうするんだ」
「そっちの兵隊を一人ずつ潰していくだけだ」
「大変な数だぞ」
「やられた数も相当なもんだろ」
「わかった。決着をつけよう」
「そうこなくちゃ」
「今度の日曜日はどうだ」
「いいね。で、場所と時間は」
「黒金町の西の外れの廃工場を知っているか」
「知らねぇ」
「昔は、黒金金属工業という会社があった場所だ」
「ネットで調べれば分かるだろう。で、何時だ」
「正午はどうだ」
「『真昼の決闘(監督:フレッド・ジンネマン、脚本:カール・フォアマン、製作:スタンリー・クレイマーカール・フォアマン、出演者:ゲイリー・クーパーグレイス・ケリー、製作会社:スタンリー・クレイマー・プロダクションズ)』だな」
「そういうことだ。こっちは人数を揃えて行くぞ。その時になって、逃げ出そうと思っても無駄だからな。お前んちは知っているからな」
「ああ、一度、石を投げ込まれた」
「あれは警告だったんだがな」
「無駄だったようだな」
「一月七日、日曜日、正午に廃工場だからな」
「分かった。こっちも覚えは悪くないんでね」
 携帯を切った。そして、今かかってきた電話番号を写真に撮った。
 録音は止めた。
「このことは彼女たちに黙っていろよ。それから仲間に連絡するような下手なことはするなよな」と言って、携帯を返し、右手を離した。
 奥の個室から男が二人出てきたから、小用を足していた者は驚いたようだった。
 矢崎敬一を押すように、カラオケ室に入れた。
 僕が沙由理の隣に座ると「長いトイレだったわね」と言った。
「ちょっと下痢気味でね」
「彼はどうしてたの」
「律儀に待っていてくれたのさ」
「そうなの。もうそんなに親しくなったの」
「ああ、随分と親しくなったよ。なぁ、矢崎」
 矢崎敬一は仕方なく頷いた。
「で、何を歌う」
「やはり、X JAPANの紅かな」
「すぐ、入れるわね」
 矢島は「俺、急用を思い出したので、帰るわ」と言ってカラオケの部屋から出て行った。
「待ってよ」と真紀子がその後を追った。でも、すぐ戻ってきた。
「ご免ね」と言った。
「いいさ」と僕は言った。
 イントロが流れ出すと、僕はマイクを握った。

 その後、一時間ほど歌って、カラオケ店を出た。
 周りを見たが、怪しい奴は見当たらなかった。
 沙由理は僕の腕に腕を絡ませていた。
「わたし、役に立った」
「立った、とても」
「だったら、キスをして」と言った。
 まだ、昼間の三時半を少し過ぎたところだった。
 だが、道の端に沙由理を寄せると、唇を合わせた。