小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十二-2

 ビルの周りを回ったら、次に中に入ろうとしたが、当然だが、ビルの入口は鍵が掛かっていた。もう一度、ビルを見渡すと、三階の外階段近くの窓硝子が割れているのが分かった。
 もう一度、外階段に入り、三階まで上がった。階段の外に躰を乗り出して、窓枠を掴んだ。そして、躰を離して、窓の中に手を入れた。鍵を外して、窓を開けた。そして、中に入った。元は作業室だったのだろう。埃を被った机やひしゃげたロッカーが残されていた。
 その机の一つの引出しを開けて、そこに催涙スプレー一缶と金属櫛一本、そして、竹串を何本か入れた。入れた場所を忘れないように写真を撮るとともに地図にマークを入れた。
 他の机の引出しも開けて、武器として使えそうなものがあったところは、写真を撮った。
 その部屋を出て他の部屋にも行った。別の部屋にも、一つの机の引出しに催涙スプレー一缶と金属櫛一本、そして、竹串を何本か入れ、写真を撮り、地図にマークした。
 武器になりそうな物もマークした。
 あと二つの部屋にも行った。その二つの部屋では武器になりそうな物を探すだけにした。
 三階が終わると四階に行った。やはり作業室ばかりだった。
 四階にある部屋の二箇所の部屋の机の引出しに、催涙スプレー一缶と金属櫛一本をそれぞれ入れておいた。もちろん、写真も撮った。
 五階に上がった。
 五階には、社長室だったと思われる部屋とそれに続く部屋に、応接室があった。社長室の机の一つに催涙スプレー一缶と金属櫛1本、竹串を何本か入れ、写真に撮った。
 社長室に続く部屋は秘書がいたと思われる机があった。そこの一つの引出しにも、催涙スプレー一缶と金属櫛一本、竹串を何本か入れ、写真に撮った。
 五階の上に向かう階段は、屋上に出るための物だった。一応、その階段を上って屋上に出られるか、ノブを回した。すると、中からはドアが開いた。ドアノブに押しボタン式のロック錠が付いていたのだ。一応、ドアを閉めると、ドアノブのボタンを押してドアをロックした。
 次は二階に行った。
 二階も作業室みたいになっていた。そこにも二箇所に催涙スプレー一缶と金属櫛一本、竹串を何本か入れ、写真に撮った。そこで、竹串はなくなった。
 一階は受付のような作業室があり、後はトラックが二台か三台入れそうな車庫になっていた。作業室の一番下の引出しに催涙スプレー一缶と金属櫛1本を入れ、写真に撮った。
 車庫の隅に催涙スプレー一缶と金属櫛一本を隠して、それも写真に撮った。
 車庫にはシャッターが降りていて、鍵が閉まっていた。
 三階まで上がっていって、窓から外階段に出た。窓は入ってきた時のように閉めた。
 催涙スプレーは後二缶残っているだけだった。金属櫛は五本入りのが二パック残っていた。
 工場に入っていった。作業室のようなところがあったが、鍵がかかっていた。
 工場は高い天井になっていて、いろいろな機械が置かれていた。どれも動かせば武器になりそうだった。
 鉄の棒と鉄パイプが落ちていたので、拾って隠し場所を考えた。
 鉄パイプはある機械の下に少し隙間があったので、そこに隠した。そこの写真も撮った。
 鉄の棒は、工場の右側の柱の裏に隠した。もちろん写真を撮った。
 残り二缶の催涙スプレーは工場の奥の二隅に隠し、そこに金属櫛も五本入りのパックごと隠し、写真に撮った。
 これで用意してきた武器は全部隠し終えた。
 僕は工場から走り出ると、警棒以外空になったショルダーバッグを提げて、旧黒金金属工業を後にした。もちろん、つけられている奴や見られている者がいないかは確認した。

 家に戻ったのは、午後三時だった。
 午前十時に家を出たのだから、百円ショップに寄ったとしても、結構、長く下見をしていたんだな、と思った。
 自分の部屋に入ると、ききょうを見たが、いなかった。ショルダーバッグを置き、オーバーコートと革ジャンを脱ぐと、リビングに行った。
 きくは母と一緒にいた。
「今日の夕食は雑煮です」と母に言われた。
 雑煮は一月二日の昼に食べるのが、家の習慣だったが、二日の昼は沙由理とハンバーガーを食べてしまったし、夜は、おせち料理の残りを食べて眠った。そして、今日の朝は起きるのが遅く、昼は出かけたままだったので、雑煮を食べるのは三が日では今夜ぐらいしかなかったのだ。
 雑煮の下ごしらえをしていた。きくは雑煮の作り方も母から習うようだった。
 ききょうはソファに眠っていた。落ちても大丈夫なように下にクッションが置かれていた。
 僕は自分の部屋に戻ると、パソコンを起動して、携帯とつなげて、今日撮ってきた写真をパソコンに取り込んだ。今日のような写真はクラウドストレージにアップロードするほどのものじゃなかったからしなかった。クラウドストレージにも容量があり、一定の容量を超えると課金されるので、無駄な写真やデータはアップロードはしないのだ。
 撮ってきた写真を元に旧黒金金属工業の見取り図を書き直して、ビルの方は各階ごとにどこに何を隠してきたかが分かるようにした。
 写真から見取り図を作るのに結構時間がかかった。
 気が付けば、午後七時を過ぎていた。
「お雑煮ができたわよー」と呼ぶ母の声が階下からしてきた。