2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十七 空き地で集団に囲まれていた。人数を数えると二十二人いた。 随分と、数を揃えたもんだと思った。 僕は、気付かれないように、携帯で彼らの写真を撮った。 「ここに来る途中で、他の奴らにも連絡したから、おってやってくるだろう」とヘッド格の男が…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十六 家に帰ると、きくが玄関で待っていた。 「お帰りなさいませ」 「うん」 「沙由理さんとは、楽しかったですか」 それか、と僕は思った。 「沙由理さんは、待っていてくれたんですよね」 「ああ」 「それからデートをしたんですね」 「ああ」と言いなが…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十五 新宿南口には午前十一時過ぎに着いた。すぐに改札口に行かず、少し離れた所から沙由理を捜した。 沙由理は、待っていた。動物の毛の立った襟の白い皮のコートを着ていた。目立っていた。何人かの男が声をかけていたが、沙由理は断っていた。 すぐには…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十四 午前七時に目が覚めた。 「おはよう」と親父と朝の挨拶をした。このところ、僕の起きるのが遅かったから、朝、挨拶をするのが久しぶりのように感じた。 スクランブルエッグにハムとチーズとレタスのサラダ、それとトーストしたパンにコーヒーが今日の…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十三 その夜、夕食も済み、風呂に入ってベッドでゴロゴロしていると、携帯が鳴った。 「わたし、沙由理」 「誰からですか」ときくが訊くので、口に人差し指を立てて、静かにしていろ、という合図を送った。この合図は暇な時に教えておいたのだ。 「誰かい…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十二 携帯を見たら、富樫から電話が何度も入っていた。沙由理親子と会う時は携帯を切っていたのだ。 富樫に電話をした。 「昨日から何度も電話してんだぞ、ちった、出たらどうなんだよ」と言った。 「こっちもちょっと用があってな。出られなかった」 「大…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十一 火曜日は午前九時に起きた。朝食は食べなかった。食欲がなかったのだ。 きくが「元気がないんですか」と訊いてくれたが、そういうわけじゃなかった。 「ききょうはどうしている」と訊くと「眠っています」と答えた。 予防接種をした時、「何か変な症…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

二十 僕はくたくただったが、こんなことやあんなことがあったなんて言えやしない。 家に帰ると、真面目な高校一年生に戻っていた。というより、戻らざるを得なかった。 母はきくにいろいろなことを教えていた。本当に江戸時代から来たことを信じ始めているよ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十九 黒金不動産は高橋宏をつけていった時に見た会社だった。 場所は分かっている。しかし、まともな会社じゃないことも分かっている。沙由理は僕を陥れようとした女だ。ほっとけばいい、と思った。 このまま、何もかも忘れて家に帰ればそれで済む話だ。だが…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十八 土曜日は特に何事もなかった。 日曜日はクリスマス・イブだったから沙由理からデートの誘いがあった。当然、きくは機嫌が悪かった。そのきくを残して、新宿のとある百貨店で会う約束をした。 午前十時に沙由理と落ち合うと、その百貨店の開店と同時に、…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十七 金曜日だった。今日は、お祖母ちゃんの入所金が支払われる日だった。 その連絡を母は待っていた。午前十時頃、入金したという知らせが来た。これで一安心だった。後は、月曜日に入所するだけだった。入所する施設は市ヶ谷にあると言う。駅から十分ほど…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十六 ガラス屋が来て、玄関のガラスと、納戸と風呂場のガラスを入れ替えた。もともと割れにくいように中に針金が入っていたが、今度のはもっと強度が高い物だとガラス屋は説明した。代金を払って領収書をもらった。それを携帯で写して、保険会社に送信した。…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十五 寒くなってきたから、革ジャンパーの上にオーバーコートを着た。 オーバーコートには、武器はない。 ショルダーバッグを持つと結構重い。 きくとききょうを連れて、新宿御苑を散歩した。ここなら、黒金高校の連中に会う心配はなかった。ききょうは乳母…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十四 また、きくが玄関に待っていた。 「沙由理さんとのデートはどうでしたか」 「良かったよ。誤解も解けたし」 そう言うと、きくの機嫌は悪くなった。どうやら、僕は地雷原を踏んだようだ。 「良かったですね。楽しそうで」 「まあまあかな」 「お気を遣っ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十三 午後一時半前に家を出た。少し早かったが、新宿南口まで歩いて行くつもりだった。 十分ほど前に着いたが、沙由理の方が早かった。あまり歩くことをせずに、駅ビルでおやつを食べることにした。僕も沙由理もお昼は食べていなかったので、少しボリューム…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十二 「京介様、沙由理さんとのデートは楽しかったですか」 家に入るなり、玄関の廊下の上がり口の所に敷いてある小さなカーペットの上にきくが正座して、そう訊いた。 「楽しいも何も大変だったんだよ」と答えた。 「大変だったとは、何かあったんですか」 …

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十一 問題の日曜日が来た。 僕は午前八時に起きた。朝シャワーして、朝食を軽く食べた。歯を磨き、長袖シャツとセーターを着て、ジーパンを穿いた。髪を整えたら、九時を少し過ぎていた。まだ、時間は早かった。 財布に現代美術展のチケットを入れて、オーバ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

十 この週末から冬休みに入る。 授業も身には入らなかった。 ほとんどの奴らが、スキー旅行に行くようだった。当然、富樫も行く。 僕だけが取り残されたような気分になった。 食堂でひとりまったりしていると、「今度の日曜日、空いてる」と絵理が訊いてきた…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

九 月曜日が来た。 今日は月一回の朝礼がある日だった。 それに僕にとっては最悪の日でもあった。何と、赤ちゃんを助けたことで表彰される日だった。表彰みたいなことは、して欲しくはなかったが、断る勇気もなかった。 結局、ずるずると朝礼を迎えてしまっ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

八 「止めろ」 僕はきくとききょうを路地の奥に押しやった。 周りから、何人かがきくとききょうを捕まえようとしていた。 その写真も携帯で撮った。写真を撮られたことは、奴らには分からなかったはずだ。 きくに最初に手を出そうとした奴の顔面を思い切りナ…

小説「僕が、剣道ですか? 3」

七 次の日は日曜日だった。母は用があるとかで、朝早くから出かけていた。 晴れたいい日だった。きくは昨日買ってもらった服を何度も着替えて鏡に映していた。 「出かけたいなぁ」ときくは言った。 昨日の新宿での買物が楽しかったのだろう。 「そうだな、こ…