小説「僕が、剣道ですか? 2」

三十九
 僕は大きくくしゃみをした。目を開ければ僕はベッドの上だった。
「京介、わかる」と言う母の声が聞こえた。そして、ナースコールのボタンを押した。
 看護師が来て僕を診た。
「先生をお呼びしますからね」と看護師は言った。
 ほどなく医師が来た。
 僕の目蓋を手で開いて、ペンライトの光を当てた。
 眩しかった。
 両目を診て、「意識は戻っている」と医師が言った。
 きくとききょうが雷に巻き込まれたのは、覚えていた。途中までは一緒だったが、最後に手を離してしまった。
 目を閉じた。
 涙が溢れてきた。

 その時、母の携帯の電話が鳴った。
「どうしたの」と母が言った。
「えっ、何。何があったの」
 母は何が起こっているのか分からないようだった。
「冗談でしょう」と言った。
「冗談じゃないの」
 母の顔が真剣になっていった。
「それ、ほんと」

「どうしたの」と僕は涙を手で拭って訊いた。
「京介の部屋に、ずぶ濡れの着物を着た若い女性と赤ちゃんがいるって言うの」
「えっ」
 そんな馬鹿な、と思った。
 これは長い夢だったんだろう。違うのか。
「名前を訊いて」と僕は言った。
「名前は何て言うの」
 母は携帯を耳に当て、その名前を聞いた。
「で、何だって」
 僕ははやる気持ちでいっぱいだった。
「きく、だって」
 そう母は言った。
「えっ、そんな」
                  了