2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十一 風呂を出ると夕餉の支度がされていた。家老家では、夕餉は男性と女性で別の部屋で食事をすることになっていた。客として招かれたとしてもそれは変わらなかった。 大旦那様が上席に座った。その隣に今の家老である島田源太郎が座った。その反対側の上…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三十 翌朝、宿を早くに出ると、二里の道を急いだ。 そして、口留番所に来た。 僕は口留番所の手前の林で、ジーパンを穿き、安全靴を履き、着物で隠した。そして、通行する人の最後尾に並んだ。段々と順番が近付いてくる。僕はきくがおんぶしているききょうを…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十九 宿は川縁に建っていた。川湯もあると言う。 一階の隅の個室を頼んだ。一人一泊二食付きで四百文だった。 手ぬぐいと浴衣を持つと、脱衣所で着物とトランクスを脱いだ。 ききょうを受け取ると、僕は頭を洗い、髭を剃った。ききょうに頬ずりがしたかっ…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十八 きくとききょうの所に行き、風呂敷包みを持って山道を歩いた。 山道を抜けると宿場に出た。 宿を探した。個室を取った。温泉が出る宿だった。 早速、きくとききょうと入りに行った。頭を洗い髭も剃って、ききょうに頬ずりをした。ききょうを抱いて風…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十七 昼餉はヤマメにして、僕たちは山道を急いだ。 幕府の隠密は襲ってこなかった。 今回は定国に助けられた。定国には、怨霊が憑いているのだろう。それが僕の怒りと闘気に反応して、力を貸してくれたのに違いない。少しの間だったが、定国の霊に取り憑か…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十六 宿場に出ると泊まる所を探した。 個室で一人一泊二食付きで四百文の宿に泊まることにした。この宿も川湯だった。 部屋に入ると、僕はきくを抱き寄せて口づけをした。きくは驚いたようだった。このような口づけは初めてだったからだ。 僕は手ぬぐいと…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十五 朝餉をとったら、宿を出た。 この先は城下町になる。さすがに公儀隠密も襲っては来ないだろう。 だが、油断は禁物だった。襲ってはこないだろう、と思っている時が一番危ないかも知れないのだ。 さすがに城下町ともなると、賑わいも一際だった。 この…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十四 その夜の宿は、一泊二食付き四百文の個室を頼んだ。代金は珍しく先払いだった。部屋は一階の角部屋だった。 ここも川湯だった。用心のために手ぬぐいに折たたみナイフを隠し持った。 しかし、襲われなかった。 湯から出ると、夕餉の用意がされていた…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十三 翌朝は遅くまで眠っていた。従って、朝餉も遅くに食べた。 朝餉を食べてから髭を剃り、顔を洗った。そして、浴衣から着物に着替えた。 宿賃を払い、外に出たのは午前十時頃だったろう。 山道を通り、人気が途絶えた所で、二十人の忍びの者に囲まれた…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十二 その日の宿は、個室なら一泊二食付きで四百文の所に泊まった。 一日抜いただけだったが、久しぶりに風呂に入った気分になった。髭を剃り顔を洗うと、ききょうを受け取り、半身浴の湯に浸かった。その間にきくは洗い物をし、自分の躰も洗った。 湯から…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

二十一 僕たちはこれで、鹿爪藩ではお尋ね者になってしまった。 今日はまだ手配書が回っていないだろうから、先を急いで、なるべく遠くの宿場まで行くことにした。 早く、鹿爪藩を抜け出さなければいけなかった。 昼餉もとらずに歩き通して、口留番所まで後…

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二十 山道を通ったので、近道ができた。 次の宿場に着いた頃には日が落ち始めていたので、ここで泊まることにした。 どの宿も山道に荒くれ者がいたせいで、空いていた。 個室に一泊二食付きで一人二百文でいいと言う宿があったので、そこに泊まることにした…

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十九 次の日、朝餉をとると、出立の準備をした。いよいよ口留番所を通過する時が来たのだ。口留番所まで三里ほどあった。途中で、一度休憩を取り、きくがききょうに乳を与えた。 口留番所までに行く間、どう通過するか考えた。 木村彪吾のことである。すでに…

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十八 朝餉が済むと、きくとききょうとで河原に行き、きくに懐剣の練習をした。 今日は僕が定国を抜き、そこに向かってくるように言った。実際に真剣を持った者に立ち向かうのは容易いことではなかった。まして、それが僕であるから、きくの懐剣は鈍かった。…

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十七 昼餉の時刻になり、鷹岡彦次郎は退席して行った。 それぞれの侍たちも広間から退出して行った。その中で、目付の木村彪吾が僕のところに駆け寄ってきた。 「お見事でござった。これでわたしの面子も立ち申した。鏡殿のおかげでござる」 「いや、なに、…

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次回は、5月27日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十六 朝餉が済むと、肌着を着て、昨夜、干した着物を着た。床の間から刀を取ると、帯に差した。その格好で玄関に向かうと、「袴を穿かれた方が良さそうですな」と木村彪吾に言われた。 「私には、これしか着る物がなくて」と言うと「今、持ってこさせます」…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十五 朝餉も終わろうとしていた頃だった。 僕は木村彪吾に、思いきって「この際ですから、私を城中に入れさせては貰えませんか」と言った。 木村彪吾は「いかなる名目で入城されるおつもりですか」と訊いた。僕は、「私には、見せ技の一つに真剣白刃取りとい…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十四 朝餉の時に、木村彪吾は「実は、わたしは鏡殿のことを詮索していました。もしや、幕府の間者ではないかと疑いを持ったのです。当藩のことを調べて、幕府に報告するのではないかと、おそれたのです」と言った。 僕は「それでどうでした」と訊いた。 「記…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十三 しばらくすると、木村彪吾が城から馬で屋敷に帰ってきた。 戌の刻までには、二時間ほどあった。稲荷神社がどこにあるかは知らないが、さほどの猶予はなかった。 木村彪吾が客室にやってきた。 「息子がさらわれ申した。鏡殿なら、どうなされるか」と訊…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十二 朝餉の時に、僕は木村彪吾に「鷹岡藩は初めて来た所なので、何か珍しい所とか物があれば、行って見たいものですが」と訊いた。 「当藩で有名なのは、こけしです。こけしの店は随分あるから見られるといいでしょう」と答えた。 「お寺はどうでしょう」 …

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十一 昼餉の後、もう一度風呂敷を包み直して針を刺しておいた。 そして、きくとききょうを連れて、町に出かけた。 午前中は虎之助が一緒だったので、何となくリラックスして見ることができなかった。午後はゆったりと見て回ることができた。 甘味処で、汁粉…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

十 目付の木村彪吾は、目付らしい鋭い眼光をしていた。 「今日は息子、虎之助の危ないところをお助け頂きありがとうございます」 「いえいえ、番所の役人も来ていましたから、私がいなくてもなんとかなったでしょう」 「その番所の役人たちも斬られたと息子…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

九 番所での書取りには、時間がかかった。 その間にお茶が出されただけだった。きくはききょうにミルクを飲ませた。 しばらくして、番所に先程姿を消した若侍が入ってきた。 彼は僕に「危ないところをお助け頂きありがとうございました」と言った。そして、…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

八 夕暮れまで大山道を歩き、高杉宿に着いた。道行く人に次の宿場まで三里ほどあると聞き、ここで宿をとることにした。 通りがかりの人にどこの宿屋がいいか訊くと、皆、若松屋だと答えたので、若松屋に泊まることにした。 赤ん坊がいるので、隅の個室がいい…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

七 それから三日後、四月二十七日の昼頃だった。 高木屋に男が来て「鏡京介様はいらっしゃいませんか」と言うので、下りていくと、上がり口に行商人が座っていた。 「私が鏡京介だが、あなたはどなたですか」と訊いた。 「名乗るほどの者ではございませんが…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

六 次の日は、朝餉が運ばれてきたと言うので起きた。 布団をたたみ、食膳を部屋に入れたところで、僕は外に干してあった着物を着て、顔を洗いに行った。着物は乾いていた。 朝餉は、やはりいつもより多めに食べた。 食べ終わった後、眠くなったので、きくの…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

五 宿に戻ると、僕の帰りが遅いので、きくが心配していた。 僕は番所であったことを話した。 「まぁ、そんなことになったんですか」ときくは心配そうに言った。 「やるしかないだろう。相手は私を試しているのかも知れない」と僕は答えた。 「まぁ、そうです…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

四 次の日、起きると、きくはおっぱいを出してききょうに乳を飲ませていた。 顔を洗うと、朝餉になった。 乳を飲んだが、皿にご飯を載せて湯を少し掛けて潰すと、それをききょうはよく食べた。今日もおかわりをした。 僕も焼き魚をおかずにご飯を二杯食べた…

小説「僕が、剣道ですか? 4」

三 旅籠に風呂がなかったので、通りの向こうの銭湯に入りに行くしかなかった。銭湯は半身浴だった。荷物が取られるのが、心配だったので、交代で入りに行くことにした。 僕が先に入ることにした。銭湯代と着替えの肌着とトランクスとタオルを持って行った。…