2024-09-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、警察官ですか? 4」

次回は、10月1日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二 三十六名に絞られた者の事情聴取ファイルは、箱の奥にあった。ファイルの背表紙が見えるように入れてあればいいのに、横向きになっていたので、見付けにくかった。 捜査記録のファイルも一応、写真に撮った。二百ページにもなっていた。 写真類も写真に撮…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

僕が、警察官ですか? 4 麻土 翔 一 十月になった。 安全防犯対策課は暇だった。僕は毎日、あやめの入っているひょうたんを持ち歩くようになった。あやめの能力が便利だったからだ。 月曜日の剣道の稽古の後に、西新宿署捜査一課一係の刑事である西森幸司郎…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十八 九月になった。 全国警察剣道選手権大会がやって来た。 剣道具の竹刀ケースの中には、定国を袋に詰めて入れてきた。 九月**日火曜日に日本武道館で、午前九時から開催された。 開始前のセレモニーの後、八会場に分かれて、百七十人近くの全国の警察…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十七 安全防犯対策課に戻ると、退署時間になっていた。僕は鞄を取ると、「お先に」と言って、安全防犯対策課を出た。 家では、きくが出迎えてくれた。 「お風呂になさいますか」と訊くので、「そうしよう」と答えた。 「塩辛って食べますか」と訊くので、…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

次回は、9月27日金曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十六 次の日、黒金署に行くと、署内は大変なことになっていた。いろんな部署の電話が鳴りっぱなしだった。それにマスコミが押しかけていた。署に入って行こうとする僕にまで、マイクを向けられたから、「何のことだか分からない」と答えて、署内に逃げ込ん…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十五 土日も取調は続いているだろう。金曜日の弁護士との接見から、中上は自分のアリバイを主張していることだろう。二係はその裏を取るために休みを返上して働いているに違いない。 月曜日の午前中には、きっと捜査会議がある。そこで、土日の成果が発表…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十四 僕は中上が逮捕されたことで、ひとまずホッとした。 家に帰り、風呂に入って、リビングでビールを飲んでいた。 しかし、二つ問題は残っている。前の三件の連続放火事件については、中上は犯人ではない。ただ、このうち、二件は中上にアリバイがあるか…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十三 ひょうたんが震えた。あやめが戻ってきたのだ。 「映像を送ってくれ」と言った。 興奮していたためか、目眩はしなかった。中上は「そうか」と言って、警視庁のサイトにアクセスした。当然、IDとパスワードが求められる。中上は考えた。すると、初代…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十二 署に戻って、安全防犯対策課に行った。デスクの椅子に座ると、先程の映像を再生した。 中上は、幾つも新聞を買っていた。そこにトップ記事で載っていたのは、放火事件のことだった。 書いている記者も、事情が分からずに書いているものだから、連続放…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十一 一週間は何事もなく過ぎた。きくも保護者参観を無事に終えることができた。ききょうの授業は国語で、ききょうが指名されて家族という作文を読んだそうだ。警察官である父は具体的に何をしているのか分からないが、母はいつも気配りができていて、大変…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

次回は、9月24日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十 僕は中上のアパートの近くの通りで、ズボンのポケットのひょうたんを叩いた。 「中上の様子を見てきてくれ」と言った。 「はーい」とあやめは言った。 中上が何をしているかは分かっていた。山田の釈放はどうでも良かったのだろう。問題はそれに対する…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十九 家に着き、出迎えてくれたきくに鞄を渡すと、「今日、山田さんが釈放されましたね」と言った。 「テレビを見ていたのか」 「ええ。それに新しい声明文も出されましたね」 「そうだな」 「警察の方は大変じゃありませんか」 「大変だと思うよ」 「まるで…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十八 家に着いた。きくが出迎えてくれた。ひょうたんはズボンのポケットから鞄の中に移しておいた。 風呂に入った。 浴槽で考えた。 滝岡が、上手く偽サイトを作れたら、そこに中上を引き寄せて、彼を捕まえる。中上の犯罪は、一見すると放火事件だけのよう…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十七 僕は愛妻弁当を食べ終わると、水筒のお茶を飲んだ。 この後、どうなるのかは予想がついた。山田の弁護士が釈放要求書を持ってくる。それに反対する理由がなければ、山田は釈放される。無罪放免というわけではない。罪については保留という形が取られる…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十六 夕食をとった後も、僕は寝付けなかった。 ウイスキーを飲みながら、午後十一時からのニュースを見ていた。すると、犯人から「第二信が届きました」と言うキャスターの上ずった声が聞こえてきた。 「しばらく、お待ちください」と言って、別のニュースに…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十五 午後一時になると、ズボンのポケットにひょうたんを入れて、緑川に「ちょっと出てくる」と言って安全防犯対策課を出た。 四階の待合席に行った。午前中に僕に声をかけてくれた女性に目礼して、席に座った。 ズボンのポケットのひょうたんを叩いて、「さ…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

次回は、9月19日木曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十四 自宅に戻ったのは、午後十一時半を過ぎていた。 きくは起きて待っていた。 「寝ていればいいのに。躰にさわるよ」と言うと、きくは「病気じゃないんだから、大丈夫です」と応えた。 椅子から立ち上がろうとすると、きくが「ウイスキーを飲みたいんでし…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十三 五月中旬を過ぎようとしていた。山田の自供を取れずに、捜査一課二係は焦っていた。山田の勾留期限はあと僅かだった。こうなれば、山田は頑張り通すだろう。自供が取れなければ、釈放するしかなくなる。しかし、僕は毎日のように山田を陰から応援してい…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十二 夕食は赤ちゃんの話題で盛り上がった。 ききょうが一番興味を示した。 「早く、赤ちゃんに会いたいな。男の子かしら、女の子かしら」 京一郎は「ぼくは弟が欲しいな。妹でもいいけれど」と言った。 きくは「どちらにしても、仲良くしてあげてね」と言っ…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

次回は、9月17日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十一 滝岡は、「何ですか」と言いながらやって来た。 僕はディスプレイの静止画を見せて、「この男の横顔と戸田喜八さんの横顔を照合してみてくれないか」と言った。 「この男、帽子を被り眼鏡をしていますよね。素顔ならかなりの確率で照合できますが、どう…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

十 次の日、ひょうたんを鞄に入れて、黒金署に向かった。今日は鑑識課に行くつもりだった。どうせ鑑識が調べた調査書は、読むことができないことは分かっていた。それならば、調査書を作った本人の意識から、直に読み取るだけだった。そのためには、あやめが…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

九 僕は気を落ち着けるために、違うことをしようとした。それは携帯でパソコンに取り込んだ録音データを聞くことだった。ヘッドホンをして聞いてみた。携帯での録音だったが、音声は鮮明に録音されていた。 それを聞いているうちに、僕はハッとした。 何て馬…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

八 田中虎三の自宅である黒金町**丁目**番地**号は、黒金署から歩いても二十分ぐらいの所にあった。 僕は緑川に「出かけてくる。後をよろしく」と言って、席を離れた。 黒金署を後にすると、田中の家に向かった。質問は大してなかった。あやめに記憶を…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

七 お昼になった。屋上で一人、隅のベンチに座って、愛妻弁当を食べながら考えた。何か突破口はないのかと。 一つだけ、薄いが可能性はあった。それは三月二十八日の放火事件についてだった。この時、喜八はミスを犯している。犯行後、一一九番に通報した人…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

六 どれだけ時間が経っただろう。何人かがトイレに出入りするのが分かった。僕は個室の中で、息をひそめていた。 やがて、ひょうたんが震えた。あやめが帰って来たのだ。 念のために時を止めた。 「あやめ、どうだった」と訊いた。 「多分、山田宏の頭の中に…