2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十九 取調官が机の向こう側にいた。マイクに向かって、「二〇**年**月**日、午前十時五分。これから取調を開始します」と言った。 芦田勇は椅子に足を組んで座っていた。 取調官はまず被疑者の氏名、生年月日などの人定質問を行い、今、取調を行って…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十八 午前七時に起きた。 昨日というか、今朝の四時に寝た。睡眠時間は三時間だった。 髭を剃り、歯を磨き、顔を洗った。 朝食はお茶漬けにした。今朝四時まで飲んでいた時、少しつまみものを食べたので、あまりお腹が空いていなかったのだ。 その最中だっ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十七 僕は起きると、午前一時半だった。 ベッドから出て、ダイニングルームに行った。食器棚を開けて、グラスとウィスキーを取り出した。冷蔵庫から氷をグラスに入れると、ウィスキーを注いだ。 きくが起きてきた。 「何か作りましょうか」 「いや、いい」…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十六 ベッドに入った僕は、芦田が***開発株式会社の北府中市の支店から、新宿二丁目にある***ビルの五階と六階にある本社に移動になった経緯を再生していた。 それは昨年の新年会のことだった。芦田は専務に酒を注ぐ時に、耳打ちをされた。 「まだ内…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十五 僕はきくの注いでくれたビールを飲んだ。 だが、また事件のことに頭は傾いていく。 芦田は、明日も川村が同じ電車に乗ったのなら、もはや、それが川村の運命なのだと思った。自分に絞殺されるのだ。川村はそのために生きてきたのだ、と芦田は思った。…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十四 僕が歩いて西新宿署から自宅に帰ったのは、午後七時頃だった。 きくとききょうと京一郎が玄関で出迎えてくれた。 僕はホッとした。この一日の嫌な思いが消える気がした。 すぐに風呂に入ることにした。京一郎が一緒に風呂についてきた。 京一郎が自分…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十三 芦田勇は北府中市の北府中駅から歩いて五分の所にある会社に行くために、北府中駅に十分で行ける椿ヶ丘駅の近くのマンションの三階三〇三号室を借りた。自転車は秋田から持ってきた。買物に行くのに便利だったからだ。本当は別の目的があった。獲物を…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十二 犯行の後、自宅に戻ると、余りにも運動靴が汚れているのでビニール袋を持ってきてその中にハンカチとロープを一緒に入れた。それは他のゴミと一緒にゴミ出しの日に出すつもりだった。 それから、着替えを持って風呂場に行った。ポロシャツを脱いで、…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十一 昨日も子鹿幸子はいつも通りに、家に帰っていった。その後を追いながら、明日こそ、殺してやると誓った。 そして、六月二十二日水曜日が来た。朝から、帰ってきた時の準備をして、家を出た。 会社に着いても思うことは、子鹿幸子のことだけだった。そ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

三十 僕はクラクラとした。 事情聴取は続いていた。芦田勇はのらりくらりと刑事の質問をかわしていた。 ここから見ていると、怒りが湧いてくる。中島明子さんを絞殺したのは、お前じゃないか、と怒鳴りたくなる。 事情聴取では、芦田勇の五月十三日水曜日の…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十九 中島明子が南秋田駅で降りる時間は、ほぼ一定していた。午後七時四十五分だった。それは秋田駅から南秋田駅方面に向かう電車の本数が少なかったからだ。一本乗り遅れると、三十分は待つことになる。一時間に二本しか走っていなかったのだ。当然、乗る…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十八 刑事が「これから事情聴取を始めます」と言った。この事情聴取は録画されているのだろう。 「まず、あなたの名前と生年月日、住所をお答えください」と言った。 男は「芦田勇、****年九月八日生まれ。住所は……」と言った。 僕は暗い部屋の中で、…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十七 僕は呆然とする西森に言った。 「被疑者を任意同行するんですよね」 「そう聞いていますが。鏡警部もいたでしょう」「ええ、分かっています。それで、これだけ詳細に話したのには、理由があるのです。私の警察官の勘というものを信じて欲しいという願…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十六 安全防犯対策課に戻ると、緑川に「これから、西新宿署に行くことになった。そのまま自宅に帰ることになるかも知れないので、後のことはよろしく。それから、交通安全課に今日が水曜日だから、パトロールを強化して欲しいと申し入れてくれ」と言った。…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

次回は、十月十日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十五 僕は、警察のデータから過去に起きた女性絞殺事件を調べたことを話した。その中で、引っ掛かったのが、秋田で起こった二件の絞殺事件だった。 僕はこの土日に、秋田の男鹿に旅行に行ったことを西森に話した。そして、昨日、事件の起こった西秋田市の…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十四 東京駅には、午後八時三十二分に着いた。自宅にいれば、もうとっくに夕食の時間だった。新幹線の中で売り子が来たので、弁当を買って食べようと思ったが、昼間も弁当だったから、子どもたちに可哀想な気がした。東京駅から四谷三丁目までは三十分ほど…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十三 しばらく待っているとひょうたんが震えた。 「読み取りました」とあやめが言った。 「だったら、映像を送れ」と言った。 「はい」と答えた。 映像が頭の中に入り込んできた。クラクラとした。しばらくすると、それに慣れ、そして落ち着いた。 被害者…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十二 金生閣に入ると、旅館の者がお辞儀をしてすぐに寄ってきた。 名前を言うと「鏡様ですね。菊の間にお連れします」と言った。 菊の間と聞いて、僕はきくと顔を見合わせて笑った。 旅館の者が「何でございましょうか」と言うので、僕は「いや、何でもな…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十一 次の日、安全防犯対策課にいると、午後二時頃、携帯に電話がかかってきた。 「はい、鏡ですが」と言うと「西森です」と言う声が聞こえてきた。 「今、北府中署にいます」と言った。 「北府中市の絞殺事件を調べているんですね」 「そうです。朝一に来…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

二十 お昼を食べ終えると、早速ネットで男鹿にある旅館を探して、親子四人が泊まれるところを予約した。金生閣という旅館だった。四人で六万円ほどかかった。夕食と朝食がついていた。それから、新幹線の指定席も取った。東京駅から秋田駅までだった。 きく…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十九 西新宿署から四谷五丁目の自宅まで、歩いて帰る途中のことだった。 どうしても頭に引っ掛かるものがあることが分かった。それが何なのかはよく分からなかった。しかし、何か引っ掛かるのだ。 時計を見た。歩き出して、まだ十五分経ったぐらいだった。新…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十八 府中の警察学校を午後四時に出た。 覆面パトカーに乗って、西新宿署に向かった。 西新宿署には、午後五時少し過ぎに着いた。 すぐに地下の練習場に降りて行き、更衣室で道着に着替えた。その時、竹刀ケースの中で袋に包まれている定国を触った。定国か…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十七 朝、起きるのが辛かった。しかし、今日は黒金幼稚園で防犯キャンペーンがある日だった。 行く義務はないが、課長として部下のしているところを見に行かないわけにはいかなかった。 リビングルームに入って行き、「おはよう」と言った。 きくは「おはよ…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十六 昼食後は、しばらく遊んだ後、最後の事件現場に向かった。東椿ヶ丘公園だった。 南椿ヶ丘公園からは、二十分とかからなかった。 駐車場に車を置くと、子どもたちを公園に連れていった。 きくが僕の隣に来ると、「今日はお仕事をされているんですね」と…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十五 駐車場に車を置き、ききょうと京一郎を公園に連れて行くと、手を離して走り出していった。 「ここで、お昼にしますか」ときくが訊いた。 「そうだな。そうしよう。午後一時頃、食べられるようにしてくれ」と言った。 そして、車のキーをきくに渡した。…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十四 退署し、家に帰ると、きくとききょうと京一郎が出迎えてくれた。 寝室で背広を脱ぎながら、「今度の土曜日なんだが、北府中市にドライブしに行こうと思うんだが、どうだろう」と言った。 「珍しいですわね、あなたがドライブしようなんて言うのは。でも…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十三 署に戻り、買ってきた制汗剤の製品名をメモしているうちにお昼になった。 僕は、愛妻弁当を持って、屋上に上がっていった。そして、いつものベンチに座った。 今日は卵をハートマークの型に入れて焼いたものが載せられていた。それを人に見られないよう…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十二 安全防犯対策課に戻ると、滝岡の解析は終わっていた。 「この二つの自転車は同一のものです。メーカー名まではわかりませんでしたが、同じメーカーでおそらく六、七年ぐらい前に作られたものです。ここのマークを見てください。この二つを重ねると、一…

小説「僕が、警察官ですか? 2」

十一 僕がソファの方に移動していると、黒金幼稚園に行っていた三人が帰って来た。 「ただいま、戻りました」と緑川が言った。鈴木浩一と並木京子はそのまま自分のデスクに向かった。 緑川が残り、僕の前のソファに座った。報告をするためだった。 「どうだ…