小説「僕が、剣道ですか? 2」

十-1
 屋敷の通りには、屋台が何台か並んでいた。
 そこで侍が蕎麦を食べたり、おでんをつまんで酒を飲んでいたりした。
 そこを通り過ぎ、少し行くと、暗い通りが続いていた。
「いませんね」と八兵衛が言った。
 その時だった。遠くから「辻斬りだ」と言う声が聞こえてきた。
 その声のする方に走っていったら、向こうから侍風の男が走ってきた。
  左前髪を長く垂らし、右目の眼光が鋭い男だった。
「こいつだ。奴ですよ。間違いねえ」と八兵衛が言った。
  辻斬りの月影竜之介。とうとう、出会ったぞ、と僕は思った。この前は忍びの者に邪魔をされて逃げられたが、今度は逃がさない。
 相手の躰が黄色く光っていた。刀の妖気のせいだろう。刀に月影は守られていた。だから、刀もろとも月影を斬る必要があった。
 僕は敢えて、相手の間合いの中に踏み込んだ。
 その瞬間、月影は抜刀した。刀が綺麗な半円を描いて迫ってきた。だが、僕も抜刀していた。そして、その刀を受け止め、すぐに切り返した。
 相手は後ろに飛び退いた。僕の刀をすれすれのところでかわした。
 月影は刀を鞘に収めて構えた。居合い抜が得意なのだろう。
 ならば、その居合い抜の間合いに入ってやろうではないか、と僕は思った。
 八兵衛は見えないだろうが、月影は黄色く光っており、僕の刀は銀色に発光していた。
 月影には、僕の刀が発光しているのが見えているはずだった。
 月影は僕が間合いの中に入ると、刀を抜いてきた。鋭く速かった。しかし、その刀を僕の刀は受けた。激しい音とともに火花が散った。
 僕は次々と刀を繰り出していった。相手は受けるのが精一杯だった。刀が唸り出した。
僕はもっと刀を唸らせたくなった。月影を斬るのではなく、刀を切りつけていった。銀色に光る刀は、びくともしないのに、妖刀は次第に刃こぼれを始めた。その度に刀は唸った。
 月影は刀の異変に気付いたようだった。
 鞘に収めると逃げ出した。
 しかし、僕は先回りをした。
「逃がしはしないよ」と言った。
 また相手の間合いに入った。だが、刀を抜いてこなかった。それならばと、僕は抜刀して相手の刀の鞘を切った。
 月影は慌てて刀を掴んだ。
 もう鞘はない。
「逃げられないぞ」
 僕は月影ではなく、刀に言った。
 すると、妖気が襲いかかってきた。僕は刀を正眼に構えてその妖気を切り裂いた。
 切り裂かれた妖気は大気に消えていった。
 その時、相手の刀が折れた。
 次の瞬間、僕は月影竜之介を袈裟切りにしていた。
 八兵衛が寄ってきた。
「終わった」と僕は言った。
 八兵衛は番所に同心を呼びに行った。
 検死はその場でされ、月影竜之介は戸板に乗せられ、番所の者に番所まで運ばれた。
 同心の岡島が「この者には懸賞金がかけられている。鏡殿には明日にでも番所を訪ねられよ」と言った。
「分かりました」

 夜、遅かったが、二度目の風呂に入った。月影の返り血を浴びていたからだったが、妖気も振り払いたかった。
 夜、寝る時、きくが抱きついて来るのも、暑苦しいので、本当は振り払いたかった。

 次の日は、辻斬りが退治された話題で町は持ちきりだった。
 僕は頭巾をかぶって歩きたくなった。
 番所に寄ると、十両を渡された。
「月影竜之介は十両首だったんですか」と僕が驚くと、「鏡の旦那、そんなことも知らなかったんですか」と八兵衛が言った。
「知っているはずがないじゃないか」
「知ってて、手伝ってくれているんだと思っていましたよ」
 僕は笑うしかなかった。