小説「僕が、剣道ですか? 3」

「止めろ」

 僕はきくとききょうを路地の奥に押しやった。

 周りから、何人かがきくとききょうを捕まえようとしていた。

 その写真も携帯で撮った。写真を撮られたことは、奴らには分からなかったはずだ。

 きくに最初に手を出そうとした奴の顔面を思い切りナックルダスターを嵌めた拳で殴った。鼻と顎の骨が折れたことだろう。

「この野郎」

 次に襲いかかって来た奴とは、拳と拳がぶつかった。相手の拳が砕けるのが分かった。

 もう一人は、腕をとって投げながら地面に叩き付けた。そいつは脱臼で済んだはずだ。

 最後にきくに手をかけようとした奴は、肘で右腕をへし折った。

 それは一瞬のことだった。

 きくとききょうを捕まえようとした四人が地面に転がっていた。

 僕は録音を止め、録音データをクラウドストレージにアップロードした。

「あっ、こいつ、武が言っていた奴じゃないか」

「馬鹿、名前を出すな」

「この間、古物商の後をつけてやられたっていう奴」

「そうかもな」

「だったら、油断はできないぞ」

「待て、今から仲間を呼ぶから」

 僕は仲間を呼ばれてはたまらないから、携帯を出した奴に向かっていった。

 相手は不意を突かれて、驚いていた。その隙に携帯を取り出した奴のところまで走り寄っていた。そして、その持っていた手の平ごと携帯を潰した。

 他の奴が携帯を出していないことを確かめると、今度はこちらから攻めた。

 きくの近くにいる奴から、狙いをつけた。そいつはチェーンを握っていた。それをアスファルトの地面に叩き付けるように威嚇してきた。僕は少しずつ回り込んで、僕の後ろにきくが来るようにした。

「きく、僕の後ろから少し離れていろ」と言った。

「わかりました」

 チェーンを持った男が、それを振りかざして殴りかかってきた。チェーンは誰もいない地面をしたたかに打った。僕は上に飛び上がっていた。そして、打ち下ろしたチェーンの腕を膝でへし折った。

 六人やられたが、まだ相手は九人いる。その数の優位さが彼らの怯えを抑えていた。

「女を捕まえろ。そうすれば手出しできなくなる」

「はぁ」と言っていた奴が、そう言った。こいつがヘッドのようだった。

 九人はきくを捕まえようとしていた。

「テツ、ゲン、アキ。こいつを止めていろ」と奴が叫んだ。おそらく、その隙にきくを捕まえようとするのだろう。

 テツとゲンとアキが僕の方に向かってきた。しかし、僕は彼らを相手にする気はなかった。きくを捕まえようとしていた奴を捕まえると、そいつの顔面を殴った。すぐに鉄パイプが振り下ろされた。それを避けると、鉄パイプを握り締め、奪い取ると、逆に鉄パイプでそいつの足を打ち付けた。

 鉄パイプを剣のように持つと、右から襲いかかってきた奴の腹を鉄パイプで突いた。左からナイフを突き立てようとした奴は、そのナイフを鉄パイプで払った。そして、鉄パイプで胸を突いた。

 僕は鉄パイプを投げ捨てると、テツ、ゲン、アキの三人に向かっていった。彼らの繰り出すパンチを避けて、顔面にナックルダスターをお見舞いしていった。

 逃げだそうとしていた二人に先回りをすると、「はぁ」のお兄さんを残して、もう一人の右腕をへし折った。

 僕は「はぁ」のお兄さんの髪を掴んで、アスファルトの地面にこすりつけた。

「さて、これからが問題です。謝るって何ですか」

 「はぁ」のお兄さんは「済みませんでした」と言った。

「それ謝ってんのかなあ」と僕は彼の顔面をアスファルトの地面に叩き付けた。

 そして、右腕を足でへし折った。

 路地の奥にいたきくを呼んで、「怖がらせて済まなかったな」と言った。

「いいえ、京介様なら何とかしてくれると思っていました」

「そうか。じゃあ、帰るか」と言ったが、「おっと、その前に」と彼らのポケットを探った。生徒手帳が出てきた。皆、黒金高校だった。それらを携帯で写真に撮り、クラウドストレージにアップロードした。

 

 家に帰ると、買ってきたパンツをきくは穿いた。

「どうだ」

「スカートより、こっちの方が動きやすいです」と言った。

「そうか。それではばかりは大丈夫か」

「これを降ろせばいいんでしょう」

「そうだ」

ショーツとかストッキングと同じですよね」

「うん」

「じゃあ、大丈夫です」

「そうか」

 親父が書斎から出てきた。

「帰ってたのか」

「ああ」

「それ買ってきたのか」

「うん。どう」

「いいんじゃないか」

 

 そのうちに母も帰ってきた。

「何の用だったの」

「おばあちゃんのことよ」

「どうかしたの」

認知症が進んでいるのよ。それで兄嫁が手に負えなくなっているから施設に預けようと思っているんだけれど、どうするかって話になったのよ」

「それで、どうなったの」

「預けることになったんだけれど、施設の入居費が高いのよ。それで一部をうちでも負担してくれないかって言われてきたの」

「いくらぐらいなんだ」と父が訊いた。

「二千万円のうち、一千万負担して欲しいって言われたの」

「一千万円か。厳しいな」

「ちょっと待ってて」

 僕は二階に上がっていって、巾着の中から小判を五枚取り出した。

 それを持って、下に降りてきた。

「はい、これ」

「はい、これって」

「小判だよ。この前、二百万円でなら引き取るって、親父が言っていたところあったよね。黒金古物商は駄目だけれど、そこなら安心じゃないかな。足りなければもう少しあるけれど」

 そう僕が言うと、母は「ありがとう。助かるわ」と言った。

 これで親孝行ができれば安いものだと、僕は思った。