2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十六 ききょうのところに行った。目隠しを外した。 「パパ」とききょうは言った。 「もう、心配しなくていいからね」と言った。 後ろ手に縛っていた鈴蘭テープをカッターナイフで切った。 ききょうは抱きついてきた。 「怖かった。でも、パパがきっと助けに…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十五 高島研三が起こした警察官発砲の事件では、島村勇二は殺人教唆が問われ、実刑二年の刑が言い渡されている。ということは、その捜査資料が西新宿署にあるということだった。島村勇二の逃亡先が、その捜査資料から分からないものかと思いついた。 思いつ…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十四 家に帰ると、きくが「怖かったです」と言った。 「そうだよな。突然、あんな車がこの通りに入り込んできたら、誰でも怖くなるものさ」と僕は言った。 「でも変なんですよ。パトカーを呼んだら、あの車に乗っていた二人は、二人とも大怪我を負っていて、…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十三 高台宗男は椅子にどっしりと座っていた。 僕はデスクの前に進んで、警察手帳を見せた。 「警察の方が何の用ですか」と高台は言った。 「私の家にお宅の従業員がし尿をまき散らそうとしたので、注意しに来たんですよ」と言った。 ここで時間を止めた。 …

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十二 駅に向かって歩きながら、あやめと話した。 「考えてみれば、あやめがやったことは刑事が尋問をしていて、犯人を落とすときと同じことだな。それを直接、意識の中でやるから、効果はてきめんだったんだ」と言った。 「そうですよ。わたしだけでなく、主…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十一 このままでは、高橋丈治の思うとおりの方向に取調は進んでいきそうだった。 時を止めた。 「あやめ。取調官の意識を送れ」と言った。 「わかりました」と言った。 取調官の意識が流れてきた。 取調官浅井は、高橋丈治がすんなりと轢き逃げを認めたこと…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十 次の日、黒金署の安全防犯対策課に行った。 デスクに座ると、品川署から電話がかかってきた。岸田信子からだった。 「鏡課長ですか」 「はい、私です」と僕は言った。 「おはようございます」と岸田が言った。 「おはようございます」と返した。 「車の鑑…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

九 僕はデスクに手をついて、前のめりになって、青木に顔を近づけた。 「私が何者か、知りたいでしょう。どうして秘密にしていることが分かるのか、不思議でしょうがないでしょう。それはこうして話しているからですよ。あなたのことは隅から隅まで調べてき…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

八 青木運送の受付で、警察手帳を見せて、「社長にお会いしたいんですが」と言った。 「ちょっとお待ちください」と言って、受付の女性は内線電話をかけた。 そして、電話をかけ終わると、「どうぞ。あの建物の三階です」と奥の建物を指さして言った。 僕は…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

七 緑川に「捜査二課に行ってくる」と言って、安全防犯対策課を出た。 捜査二課は三階にあった。 二課のドアを開け、近くにいた女性に警察手帳を見せて、「安全防犯対策課の鏡京介ですが、安達祐介さんをお願いします」と言った。 女性警察官は「ちょっと、…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

六 交通事故の現場は、凉城恵子の意識から分かっていたので、事故現場に向かった。 凉城恵子の家の近くだった。そこには縦の掲示板が立っていた。 『二〇**年**月**日午前七時十五分頃、ここで轢き逃げ事件が起きました。青い車を見た人は、****ま…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

五 NPC田端食品株式会社の本社を出ると、新宿駅に向かった。 新宿駅から北大井駅に向かった。大石庫男が言っていた建築中のビルは、電車からも見えた。 電車を降りると、その建築中のビルに向かった。 建築現場の歩道で警備に当たっていた人に、警察手帳…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

次回は、11月8日水曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 4」

四 次の日、出署して安全防犯対策課に行った。 デスクに着くと、早速携帯を取り出した。 まず、石原知子に電話した。 「はい、石原です」と気怠そうな声が聞こえてきた。 「私、黒金署の安全防犯対策課の鏡京介と言います」と言った。 「警察の方?」 「はい…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

三 家に帰って、すぐに風呂に入った。僕は長風呂だった。つい考え事をしてしまうからだった。京一郎とも一緒に入らなくなっていた。 今回のリストアップされていた人についても考えていた。 事件後、NPC田端食品株式会社は株式の上場が認められなくなって…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二 三十六名に絞られた者の事情聴取ファイルは、箱の奥にあった。ファイルの背表紙が見えるように入れてあればいいのに、横向きになっていたので、見付けにくかった。 捜査記録のファイルも一応、写真に撮った。二百ページにもなっていた。 写真類も写真に撮…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

次回は、11月6日月曜日にアップの予定です。

小説「僕が、警察官ですか? 4」

僕が、警察官ですか? 4 麻土 翔 一 十月になった。 安全防犯対策課は暇だった。僕は毎日、あやめの入っているひょうたんを持ち歩くようになった。あやめの能力が便利だったからだ。 月曜日の剣道の稽古の後に、西新宿署捜査一課一係の刑事である西森幸司郎…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十八 九月になった。 全国警察剣道選手権大会がやって来た。 剣道具の竹刀ケースの中には、定国を袋に詰めて入れてきた。 九月**日火曜日に日本武道館で、午前九時から開催された。 開始前のセレモニーの後、八会場に分かれて、百七十人近くの全国の警察…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十七 安全防犯対策課に戻ると、退署時間になっていた。僕は鞄を取ると、「お先に」と言って、安全防犯対策課を出た。 家では、きくが出迎えてくれた。 「お風呂になさいますか」と訊くので、「そうしよう」と答えた。 「塩辛って食べますか」と訊くので、…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十六 次の日、黒金署に行くと、署内は大変なことになっていた。いろんな部署の電話が鳴りっぱなしだった。それにマスコミが押しかけていた。署に入って行こうとする僕にまで、マイクを向けられたから、「何のことだか分からない」と答えて、署内に逃げ込ん…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十五 土日も取調は続いているだろう。金曜日の弁護士との接見から、中上は自分のアリバイを主張していることだろう。二係はその裏を取るために休みを返上して働いているに違いない。 月曜日の午前中には、きっと捜査会議がある。そこで、土日の成果が発表…

小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十四 僕は中上が逮捕されたことで、ひとまずホッとした。 家に帰り、風呂に入って、リビングでビールを飲んでいた。 しかし、二つ問題は残っている。前の三件の連続放火事件については、中上は犯人ではない。ただ、このうち、二件は中上にアリバイがあるか…