小説「僕が、警察官ですか? 3」

二十八

 九月になった。

 全国警察剣道選手権大会がやって来た。

 剣道具の竹刀ケースの中には、定国を袋に詰めて入れてきた。

 九月**日火曜日に日本武道館で、午前九時から開催された。

 開始前のセレモニーの後、八会場に分かれて、百七十人近くの全国の警察の猛者が試合をした。

 決勝までは七試合しなければならなかった。試合前に竹刀ケースの中の定国に触れて、力をもらった。

 最初に当たったのは、熊本県警の堂本隆史だった。初めて対戦する相手だった。僕の無反動は噂では聞いていただろうが、実際に受けるのは初めてだった。

「始め」の声とともに立ち上がった時、竹刀を交わすと面白いように弾いた。僕は無防備になった面を打った。旗が三本上がり、僕の一本勝ちになった。開始早々、数秒後のことだった。

 次の山形県警の高梨幸司も初対戦だった。僕がこの大会で三連覇をしていることを知っているだけに警戒していた。なかなか、踏み込んで来なかった。仕方なく、こちらから仕掛けていった。竹刀がぶつかると弾いて、胴を打った。これも一本勝ちだった。

 三回戦は、警視庁の真柴純一だった。一昨年、準決勝で当たった。去年は怪我で出場していなかった。真柴は下段からの押し上げが得意だった。

「始め」の声とともに一歩下がると、下段に構えた。下段に構えられると竹刀を当てにくくなる。こちらが一歩進むと一歩下がった。

 僕は隙を見せることにした。竹刀を上段に構えて、一歩進むとそのまま打ち下ろした。真柴も竹刀を突き上げてきた。速さの勝負だった。僕の方が一瞬速く、真柴の竹刀を叩いた。真柴は手が痺れていたことだろう。体勢を崩した真柴から面を取って勝った。

 

 これで午前の試合が終わった。

 一時間の休憩時間があり、その間に僕は愛妻弁当を休憩室で食べた。お茶を飲んでから、竹刀ケースの中の定国に触れた。

「午後も頼むぞ」と心の中で言った。

 

 四回戦は千葉県警の滝本雄一だった。滝本とは昨年、二回戦で当たっていた。滝本も無反動の威力は知っていた。本来は、突っ込んでくる方なのだろうが、僕との対戦ではそうしなかった。だから、僕の方から仕掛けていった。竹刀がぶつかった時が勝負だった。竹刀を弾かれた滝本は為す術がなかった。僕は小手を取った。

 五回戦は準々決勝だった。ここからは強豪が出てくる。

 相手は滋賀県警の結城智則だった。昨年も準々決勝で戦った相手だった。

 コートの中に入って、一礼すると、開始線に進み蹲踞の姿勢を取った。竹刀を脇から外して、互いに交わし合うと「始め」の声がかかった。

 結城は無反動の竹刀に、反動をつけて立ち向かってきた初めての相手だった。反動をつけてきた分だけ弾かれる強さも倍になった。仰け反るような体勢のところを、胴を打ち、勝った。

 準決勝も去年、準決勝で当たった大阪府警の矢部基弘だった。本来はオールラウンダーなのだろうが、僕との対戦では無反動に対抗しなければならなかった。竹刀の先を合わせるだけで、無反動は炸裂した。そこを飛び込んでいき、面を打った。これも瞬殺だった。

 決勝は、西新宿署でいつも相手をしている西森だった。もちろん、警視庁同士だった。西森は僕の太刀筋を知っているだけに、急いで打ち込んで来ることはしなかったが、次第にコートの隅に追い詰められて、打って来ざるを得なくなった。そこで、無反動で切り返し、胴を払った。僕の一本勝ちだった。

「今年もあなたに負けましたね」と西森が言った。去年も西森が決勝の相手だったのだ。

「練習試合でも負け続けているのに、どうやったらあなたに勝てるんでしょうかね」と続けた。

 僕は何も言わなかった。

 

 表彰式では、優勝杯と楯と表彰状が授与された。これが史上初の四連覇だった。

 家に帰ると、きくもききょうも京一郎も、そして父、母も喜んだ。夕食は特上寿司をとることになった。

 

 水曜日に、表彰状と優勝杯と楯を持って、署長に報告に行った。

「そうか、四連覇したか。おめでとう」と言った。

 僕は礼を言った。

「ところで、いつか持ってきた連続放火事件の報告書はプリントアウトできるんだろう。持ってきてくれないかな」と言った。

「分かりました」と言うと、僕は安全防犯対策課に行き、報告書のデータをパソコンに読み出して、プリントアウトした。

 そして、すぐに署長室に向かった。

 署長はデスクに座って、その報告書を読んだ。

 しばらくしてから、「そういうことか」と言った。

 それから「中上は検察に送検されることになった。事由は、五月二十二日の放火罪と詐欺罪とコンピュータに関する諸々の罪だ。二月二十六日と三月二十八日と四月二十九日の放火については、嫌疑不十分で送検事由には含まれていない」と言った。

 そして、僕の打ち出してきた報告書は、ゴミ箱に捨てた。

「これは読まなかったことにする」と署長は言った。

 僕は、署長の判断が正しいんだと思った。

   了