2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧
四 島田源太郎が戻ってくるには、時間がかかった。どうせ僕の話を鵜呑みにしたわけではないだろう。きっと、部屋住みの侍を起こして、僕を襲おうと思っているのだろう。 僕は彼らを縛るビニール紐を用意して待っていた。 襖が開けられると、三十人ほどの侍が…
三 僕は誰かに強く揺り動かされた。それで目が覚めた。 目の前にきくがいた。 僕はホッとして、また意識を失いそうになった。 「京介様、本当に京介様なのですね」と耳元できくが言って、濡れた僕の躰に強く抱きついてきた。きくは泣きじゃくっていた。 しば…
二 次の日が来た。僕は起きると、持って行く物を点検した。今度は殺すわけにはいかない人が多数いることに気がついた。その時に縛る縄があればいいが、すぐには手に入らなかったらどうする。僕は考えた末、ビニール紐の塊とガムテープを持って行くことにした…
僕が、剣道ですか? 5 一 学年末試験が終わった。 僕は自分の能力を遺憾なく発揮して、いい成績を取った。富樫が「勉強もしていないお前が取れる点じゃないよな」と耳元で呟いた。 富樫は落第すれすれで進級したのだった。 学年末試験が終わって卒業式も終…
三十五 僕は病院のベッドの中にいた。 僕が目覚めたのに気付いたのは、母だった。すぐにナースコールした。 看護師がやってきた。 僕の様子を見ると、すぐに出て行って、女医を連れてきた。 女医は僕を診察して、「意識が戻ったようね」と言った。 「どれく…
三十四 次の日、朝餉の後に、きくとききょうを京太郎の眠る墓に連れて行った。 そして、花と線香を手向けてきた。 「ここにお前の弟が眠っているんだぞ」とききょうに言った。もちろん、ききょうに分かるはずもなかった。そして、ききょうに手を添えて、手を…
三十三 次の日、朝餉をとると、しばらくして出かけた。堤道場に行くためだった。 門の前をたえが掃いていた。 「今日は、堤先生はいらっしゃるかな」と訊いた。 「ええ、おります。昨日、鏡京介様がいらっしゃったことを話したら、残念がっていました。早く…
三十二 堤道場に行った。 門のところをたえが掃いていた。五年前と変わらなかった。 「たえ、いや、おたえさん」と声を掛けた。 たえは顔を上げると、鏡京介を見て、信じられないとでもいったような顔をした。そして、すぐに涙を流し、走り寄って来て、僕の…
次回は、7月11日火曜日にアップの予定です。
三十一 風呂を出ると夕餉の支度がされていた。家老家では、夕餉は男性と女性で別の部屋で食事をすることになっていた。客として招かれたとしてもそれは変わらなかった。 大旦那様が上席に座った。その隣に今の家老である島田源太郎が座った。その反対側の上…
三十 翌朝、宿を早くに出ると、二里の道を急いだ。 そして、口留番所に来た。 僕は口留番所の手前の林で、ジーパンを穿き、安全靴を履き、着物で隠した。そして、通行する人の最後尾に並んだ。段々と順番が近付いてくる。僕はきくがおんぶしているききょうを…
二十九 宿は川縁に建っていた。川湯もあると言う。 一階の隅の個室を頼んだ。一人一泊二食付きで四百文だった。 手ぬぐいと浴衣を持つと、脱衣所で着物とトランクスを脱いだ。 ききょうを受け取ると、僕は頭を洗い、髭を剃った。ききょうに頬ずりがしたかっ…
二十八 きくとききょうの所に行き、風呂敷包みを持って山道を歩いた。 山道を抜けると宿場に出た。 宿を探した。個室を取った。温泉が出る宿だった。 早速、きくとききょうと入りに行った。頭を洗い髭も剃って、ききょうに頬ずりをした。ききょうを抱いて風…
二十七 昼餉はヤマメにして、僕たちは山道を急いだ。 幕府の隠密は襲ってこなかった。 今回は定国に助けられた。定国には、怨霊が憑いているのだろう。それが僕の怒りと闘気に反応して、力を貸してくれたのに違いない。少しの間だったが、定国の霊に取り憑か…
二十六 宿場に出ると泊まる所を探した。 個室で一人一泊二食付きで四百文の宿に泊まることにした。この宿も川湯だった。 部屋に入ると、僕はきくを抱き寄せて口づけをした。きくは驚いたようだった。このような口づけは初めてだったからだ。 僕は手ぬぐいと…
二十五 朝餉をとったら、宿を出た。 この先は城下町になる。さすがに公儀隠密も襲っては来ないだろう。 だが、油断は禁物だった。襲ってはこないだろう、と思っている時が一番危ないかも知れないのだ。 さすがに城下町ともなると、賑わいも一際だった。 この…
二十四 その夜の宿は、一泊二食付き四百文の個室を頼んだ。代金は珍しく先払いだった。部屋は一階の角部屋だった。 ここも川湯だった。用心のために手ぬぐいに折たたみナイフを隠し持った。 しかし、襲われなかった。 湯から出ると、夕餉の用意がされていた…
二十三 翌朝は遅くまで眠っていた。従って、朝餉も遅くに食べた。 朝餉を食べてから髭を剃り、顔を洗った。そして、浴衣から着物に着替えた。 宿賃を払い、外に出たのは午前十時頃だったろう。 山道を通り、人気が途絶えた所で、二十人の忍びの者に囲まれた…
二十二 その日の宿は、個室なら一泊二食付きで四百文の所に泊まった。 一日抜いただけだったが、久しぶりに風呂に入った気分になった。髭を剃り顔を洗うと、ききょうを受け取り、半身浴の湯に浸かった。その間にきくは洗い物をし、自分の躰も洗った。 湯から…
二十一 僕たちはこれで、鹿爪藩ではお尋ね者になってしまった。 今日はまだ手配書が回っていないだろうから、先を急いで、なるべく遠くの宿場まで行くことにした。 早く、鹿爪藩を抜け出さなければいけなかった。 昼餉もとらずに歩き通して、口留番所まで後…
二十 山道を通ったので、近道ができた。 次の宿場に着いた頃には日が落ち始めていたので、ここで泊まることにした。 どの宿も山道に荒くれ者がいたせいで、空いていた。 個室に一泊二食付きで一人二百文でいいと言う宿があったので、そこに泊まることにした…
十九 次の日、朝餉をとると、出立の準備をした。いよいよ口留番所を通過する時が来たのだ。口留番所まで三里ほどあった。途中で、一度休憩を取り、きくがききょうに乳を与えた。 口留番所までに行く間、どう通過するか考えた。 木村彪吾のことである。すでに…
十八 朝餉が済むと、きくとききょうとで河原に行き、きくに懐剣の練習をした。 今日は僕が定国を抜き、そこに向かってくるように言った。実際に真剣を持った者に立ち向かうのは容易いことではなかった。まして、それが僕であるから、きくの懐剣は鈍かった。…
十七 昼餉の時刻になり、鷹岡彦次郎は退席して行った。 それぞれの侍たちも広間から退出して行った。その中で、目付の木村彪吾が僕のところに駆け寄ってきた。 「お見事でござった。これでわたしの面子も立ち申した。鏡殿のおかげでござる」 「いや、なに、…