小説「真理の微笑」

四十一

 午前七時に看護師に起こされるまで眠っていた。体温と血圧を測っていった。

 午前八時に食事を済ませると、ラップトップパソコンを取り出した。昨日、真理子が持ってきたソフトをインストールし、自分が使いやすいようにカスタマイズした。

 そのうち、あけみがやってきた。

「昨日はあんな事言っていたけれど、ほんとは寂しかったんでしょ」

 あけみは私に抱きつきながら言った。

「ああ、寂しかった」

 私はあけみに合わせた。

「やっぱり」

 あけみはそう言うと、キスをしてきた。

 香水の甘い香りと柔らかい唇が、私の理性を奪っていく。長いキスだった。

「この前みたいにしてくれる」とあけみは言うと私の手を取って、スカートの中に導いた。

「しやすいように、今日は巻きスカートで来たのよ」と言った後、「それと」と続けて、うふふ、と笑った。

「Tバックはいているの」

 あけみはすぐにTバックをずらして、私の指をそこに誘導していった。

 私の理性はすっかり痺れていた。

 私はあけみの割れ目を擦りあげ、クリトリスを刺激した。ほどなくしてあけみはいった。

 あけみはフェイスタオルを濡らしてきて、私に渡すと、前にしたようにティッシュペーパーを使って床を拭いた。そして、フェイスタオルを洗ってタオル掛けにかけた。

 その後で私の股間を触った。

「立ってる」

 それはそうだろう。

「あたしに任せてね」

 あけみはそう言うと、私の毛布を剥がし、パジャマのズボンごとおむつも太腿まで下ろした。それから私のペニスを掴むと、口に咥えた。

「や、やめろ」

 私はできるだけ大きな声で言ったから、あけみには聞こえたはずだが、聞こえないふりをした。

 あけみの舌がペニスをなめ回した。痺れるような快感が突き上げてきた。あけみは大きく口を開くと、私のペニスを飲み込むようにした。そして、口をすぼめて何度もしごいた。

 私はひとたまりもなかった。長く射精をしていなかったので、すぐにそれは起こった。快感の渦の中に私は飲み込まれていった。私の精液をあけみは飲み込んだようだった。

 舌なめずりをしながら、あけみは顔を上げた。口元から精液の匂いがした。

「どう、良かったでしょ」

 私は何も言えなかった。

「でも、やけに早かったわね」

「…………」

「そっか。長く病院にいたんで溜まっていたのね。今日のは濃かったもの」

 私は脱がされたおむつとパジャマのズボンを引き上げていた。

「でも変ね、いつもの修ちゃんなら、喉の奥までガンガンに届くのに……」

 私は短いと言われているようで恥ずかしくなった。

「頭を押さえつけるようにしなかったからかな」

 そのように、あけみはペニスが短く感じた理由を自分で求めてみた。そうか、富岡は頭を押さえつけるようにフェラチオをさせていたのかと私は思った。だから、「きっと、そうだよ」と言ってみた。

「でも、少し太くなっている」

 今度は喜んでいいのか、分からなくなった。

 あけみは首を傾げて「でも、前の修ちゃんとは違っていたような気がするな」と言った。

 そして「変だな」と首を傾げている。あけみは何度も富岡のペニスを咥えているのに違いない。それで口や喉が自ずと富岡のペニスの形状を覚えていたのだろう。

「こんな事故に遭ったんだ。ペニスだって皮がひきつったりしてるんだろう」

 私は苦しい言い訳をしていた。

「そお、じゃあ、見てあげる」

 あけみはまたズボンを下ろそうとしたので、私は慌てて「いいよ」と言った。

「ここは病院なんだよ、誰が入ってくるかわかりゃしない。勘弁してくれよ」

「わかったわ。もう、いいわ。あたし、トイレ借りるね」

「どうぞ」

 また、パンティをはき替えるのだろう。

 その間に、私はセーフティボックスから百万円入った封筒を取り出した。

 しばらくしてあけみは戻ってきた。私は黙ってあけみに封筒を渡した。

 あけみは、何? というような顔をして中身を見た。そして、封のしてある百万円の札束を取り出した。

「あ~あ、修ちゃん」

 あけみは、札束の入った封筒を掴んだまま抱きついてきた。そして、キスをしようとした。私は顔を反らした。自分の精液を飲み込んだ口とキスをしたくはなかったのだ。

「大丈夫よ。さっき口をすすいできたから」

 そう言うと、あけみは唇を重ねてきた。あけみはありったけの情熱を込めたであろうキスをしてきた。私はその情熱に負けて、口を吸われるままにしていた。

「だから、修ちゃん、好きよ」

 そう言った後、耳元に口を寄せて「毎日でもしてあげる」と囁いた。

「それはいい。気持ちだけ受け取っておく」

 そうは言ったが、さっきのフェラチオは気持ちよかった。できる事なら、何度でもしてもらいたかった。ただ、性器の形状が違うというあけみの指摘は、無視する事ができなかった。今日のところは、なんとかごまかせたが、繰り返せばその違いにあけみだって気付く事だろう。危険は避けなければならなかった。第一、ここは特別個室とはいえ病室だった。私はあけみに退院するまで、勝手に来ないように言った。

「そんな約束できないわ」

「頼むよ」

「大丈夫だって。あたしだって修ちゃんを困らせたくはないんだから。ちゃんと奥さんにわからないように来るから」

「そんな派手な格好で来たら、妻に知られなくても、他の人に知られるだろう。そうすればそのうち妻の耳にも入る。そんな事ぐらい、分かりそうなものじゃないか」

「わかった。だったら目立たない格好で来る」

「そういう事言ってるんじゃ……」と言いかけた時、またあけみはキスをしてきた。

「あけみの事、嫌いになったわけじゃないでしょ」

「そうだけど」

「だったら、来てもいいよね」

 私が折れるしかなかった。

「しょうがない奴だな」

「わぁ、良かった」

 あけみは抱きついてまたキスをした。

「でも来る時は、電話してくれよ」

「わかった」

 あけみは上機嫌で帰って行った。百万円を手にしたのだから、当然だったろう。

 あけみが富岡を好きなのは事実だろう。だが、金づるでもあったのに違いない。あけみにお金を渡した事で、これからも何かあったらあけみを利用できるかも知れないと思った。

 その時、ふと、あけみが拭いてくれた手の匂いを嗅いでみた。

 あけみの匂いが残っていた。今日はシャワーのある日ではなかった。ずっとこのままかと思うとナースコールを押していた。

「どうしました」

 看護師がやってきた。

「トイレに行きたいんで」と言った。

「わかりました」

 私は看護師に手伝ってもらって、トイレに入った。出てきた時に洗面所で石けんで手をよく洗った。手の匂いは石けんのそれに変わっていた。