2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「僕が、剣道ですか? 2」

次回は、五月十六日火曜日にアップの予定です。

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十六 ききょうは可愛かった。 寝転びながら、その顔を見ていても、見飽きることがなかった。 両手を顔の近くに持って行き、何やら動かしている。何が可笑しいのか、笑っている。 ききょうを見ている顔を、きくはぐいと自分の方に向けた。 「ききょうばかりを…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十五 門弟がいなくなった道場で、相川小次郎、佐々木大五郎、落合敬二郎、長崎三郎、島村時四郎、沢田熊太郎に稽古を付けた。 六人で半円を作らせて、正眼の構えから小手を狙わせた。六人順番に打たせて、すぐ次を打つように言った。 僕は六人相手にすべて小…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十四 もう六月に入っていた。 二週間が過ぎた頃に、きくに陣痛が来た。取り上げ婆が呼ばれて、その時を待った。盥に湯が張られた。 一刻が過ぎた頃、赤ん坊の泣き声が聞こえた。 僕は、白い布に包まれた赤ん坊を抱き上げた。きくの言った通り、女の子だった…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十三 次の日も九十組の選抜試験があった。 僕はやはり道場を抜け出していた。そして山に向かった。道着を持って行った。お奉行との約束があったからだった。 屋敷と思っていた所が、山奉行の奉行所だった。 そこに顔を出すと、佐伯は「待っていたぞ」と言っ…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十二 選抜試験が始まった。 今回は五百四十名集まった。それらを百八十名ごとに三組に分けて、一日九十組を対戦させることにした。初日は対戦の組み合わせを決めるだけで終わってしまった。三組に分かれたので、対戦する日に道場に来るように言った。そして…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十一 きくに十両を渡すと、「こんなに」と言いながら、それをどこかに仕舞い込んだ。 「また辻斬りが現れるといいですね」と言った。 「おいおい、私の心配はしないのか」 「あなたがやられるわけがないじゃないですか」 「出かける前は心配していたように見…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

十 屋敷の通りには、屋台が何台か並んでいた。 そこで侍が蕎麦を食べたり、おでんをつまんで酒を飲んでいたりした。 そこを通り過ぎ、少し行くと、暗い通りが続いていた。 「いませんね」と八兵衛が言った。 その時だった。遠くから「辻斬りだ」と言う声が聞…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

九 道場に出た。 相川たちが寄ってきた。 「もう一度、お願いします」 そう言って頭を下げた。 僕は門弟を壁際に寄せて「見ておくように」と言うと、昨日して見せた素振りを相川たちにさせた。 今度は一歩、前に出るように言った。そして後ろから、手首のあ…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

八 二日後に鍛冶屋、源蔵の所に刀を取りに行った。 「これで妖刀は切れる。しかし、おぬしの持つこの刀もその妖気を吸うことになるぞ」 「そうなるとどうなります」 源蔵は僕の顔をじっと見た。 「普通は刀に囚われる。しかし、おぬしはそうはならぬようじゃ…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

七 家老家の菩提寺の住職に妖刀の話をした。 「それはやっかいな話ですな」 「と言うと」 「妖気がその刀を持っている者を守っているのでしょう。とすれば、その妖気を断ち切らなければならない」 「そうですね」 「鏡殿にそれができますか」 僕は首を左右に…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

六 家老屋敷の道場は、朝から稽古の声が聞こえていた。 型練習を始めてから、その型を覚えようと皆、必死だった。役に立たない英語のアクセント問題をやっているようなものだが、何もしないより、やっている感じはあるので、それなりに充実しているのだろう…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

五 三晩連続で辻斬りが出た。複数の侍がいても平気なようで、むしろ多いほど辻斬りを楽しんでいるようだと言われているくらいだった。三晩に十人もの人が斬られているのだから、城中でも話題になっていて、家老は夕餉の席で、「町奉行の田島権左衛門に、鏡殿…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

四 屋敷の道場に戻り、皆を集めた。明日、道場内での稽古試合をする。それに勝った者、四名に特別な稽古を付けると言った。四名という数字は、堤道場で聞いた師範代の候補の数が影響していたのかも知れなかった。 道場内はざわついた。 皆を練習に戻し、相川…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

三 「頼もう」と言う大きな声が玄関の方からしてきた。 しばらくして、門弟の一人が桟敷にやってきて「道場破りがやってきています」と告げた。 「またか」と言って、堤が立ち上がったので、僕も「私も行きましょう」と言って立ち上がった。 玄関には三人の…

小説「僕が、剣道ですか? 2」

二 僕は空中に飛び出していた。 しかし、乳母車は抱えていなかった。 凄いスピードで落下していくのが分かった。 躰を反転させた。林が見えた。落下スピードを落とそうとした。しかし、上手くコントロールができなかった。しかし、林に近付くと最初の木の枝…