小説「僕が、警察官ですか? 2」

 パンフレットは、緑川が昨年の物も参考に原案を作り、滝岡順平がレイアウトを作成した。それを署のプリンターで二百部印刷した。

 幼稚園児が三十五名。保母さんが十五名。お母さん方が皆来るとして、三十五名。老人会の人も来ると言う。その他の人に配るとしても、いい部数だと思った。

 

 土曜日は、きくとききょうと京一郎とで浅草に行った。浅草寺はもちろんのこと、花やしきにも行った。きくは富樫と乗ったジェットコースターを見ていた。

 人形焼きを買って帰った。

 

 日曜日は、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんの日だった。

 僕らは同じ家に暮らしていたが、僕が家に帰る午後五時半過ぎから、土曜日までは、風呂に入る時間を除いては、あまり父や母と僕が交流することがなかった。

 それは僕がきくと結婚してからの約束事だった。

 二世帯住居は、行き来することでいいこともいっぱいある。それは分かっている。僕がいないときには、きくが母にいろいろなことを教わるのはいい。江戸時代に生まれたきくには、現代は分からないことだらけだったからだ。しかし、僕が家に帰って来たときには、自分の生活を大切にしたかった。父や母がいると、自分たちの家にいる気がしないのが、僕は嫌だった。いつまでも独立した気がしなかったからだ。だから、少なくとも、僕がいる時間だけは、独立した空間として五階を利用したいと言ったのだ。

 最初は、父も母も反対した。しかし、僕の頑固さが勝った。その代わり、日曜日だけは、同居していることを前提に生活することになった。

 それは朝食から夕食、そして、風呂に入る時まで続いた。日曜日だけは、僕は親孝行な息子になった。

 

 そして、火曜日になった。いよいよ、花村幼稚園で防犯キャンペーンが行われることになった。

 緑川と鈴木、並木は、署に顔を出すと、すぐに花村幼稚園に向かった。

 行く義務はなかったが、気になるので、僕もそっと様子を見てくることにした。

 防犯キャンペーンは園庭で行われた。園児たちはシートに座っていた。これから始まることに興味津々だった。

 大人たちはその後ろに立っていた。

 前の方で、鈴木が悪役になり、園児のフリをした並木に名前を訊き出そうとする演技をした。すると、並木はいやいやをする。鈴木が「いいものをやるからついておいで」と言うと、並木は「行きません」と言った。

 なかなかの役者ぶりだった。そんな寸劇がいくつか続いた後に、二人は揃って「下手な寸劇を見ていただき、ありがとうございました」と言って、頭を下げた。

 そして、最後にパンフレットに書かれている、知らない人に声をかけられてもついて行かない、知らない人から物をもらわない、というフレーズをみんなで読み上げた。

 防犯キャンペーンは盛況のうちに終わった。

 僕は園の外から見ていた。終わったので、そっとその場を離れた。

 

 午後になって三人は帰って来た。

 緑川がデスクの前にやって来て、「無事、終わりました」と言った。

「どうだった」と僕が訊くと、「盛況でした」と答えた。

「そうか」

 僕は見に行っていたのだから知っていた。どうやら、彼らには、僕は見つからなかったらしい。見つかっていたら、緑川が何か言いそうなものだったからだ。

「その後の懇談会が大変でした」と緑川が言った。

「主には通園時の交通規制についてでした」

「ほう」

「前回まで、交通安全課が防犯キャンペーンをやっていたので、今回も交通安全課がやっているものと思っていたらしいのです。それで車の進入のことでいろいろと苦情を言われました」

「そうか」

「それらは書き留めてきましたので、報告書にまとめて交通安全課の方に回すことにします」

「大変だが、よろしく頼む」と僕は言った。

「わかりました」と言って、緑川は離れていった。

 

 午後五時になったので、安全防犯対策課を出た。そして、午後五時半に家に帰った。

「あなた、お帰りなさい」

 きくがそう言った。

「パパ、お帰りなさい」とききょうと京一郎も言った。僕が自分のことを、パパと呼ぶから、子どもたちも僕のことをパパと呼ぶようになった。

「ただいま」

 僕は、ききょうと京一郎と手を繋ぎながら、玄関を上がり、ダイニングルームに入っていった。

 ダイニングルームの長ソファに二人を座らせると、「パパは着替えてくるから、ここで待っていなさい」と言うと、二人は揃って「はぁい」と返事をした。

 寝室に入ると、きくがすぐにやって来て、僕が脱いだ背広とワイシャツとズボンをハンガーに掛け、クローゼットのハンガー掛けに吊した。靴下は洗濯籠に入れるべくエプロンのポケットに入れた。

 そして、スウェットの上下を取り出した。それを僕が着ると、「お疲れ様でした」と言って、抱きついてきた。

「ききょうと京一郎が待っている」と言うと「そうでした」と言って、きくは離れた。

 ダイニングルームに入っていくと、二人が駆け寄ってきて「パパ、抱っこ」と言った。

 僕は、まずききょうから抱き上げた。二度、三度持ち上げると、今度は京一郎を抱き上げた。京一郎の方が軽かった。