小説「僕が、警察官ですか? 2」

       僕が警察官ですか? 2

                                                  麻土 翔

 

 僕は公務員試験総合職に合格した。

 そして、警察庁に入った。キャリア組は警察大学校で研修を受け、その後、一年間の交番勤務を経て、再び警察大学校の研修を受けた。その後、各地に配属された。

 配属される時に、希望を書かされた。僕は自分の家から通える所を希望した。

 あいにく、警部となった僕に見合うポストがなかったので、黒金署に安全防犯対策課が作られた。そこの課長として僕は赴任することになった。

 僕の担当する黒金地区の治安は最悪だった。それを改善するのが、安全防犯対策課だった。

 

 僕は通り一遍の挨拶をして、メンバーの自己紹介を聞いた。

 メンバーは六人だった。

 ナンバー二の係長は、女性の緑川亜由子、警部補だった。警部補の係長は異例の方だった。僕のお目付役なのかも知れなかった。彼女は四十二歳、バツイチだった。五歳の男の子がいた。来年、小学校に上がる。

 緑川は太い眉毛のキリリとした美人だった。ただ、そのたたずまいに近寄り難さがあった。

 時村才蔵、六十三歳、巡査部長。再来年、退職を迎える。昔は捜査一課にいたが、これといった成果を出してはいなかった。でっぷりと太った腹を出して、椅子に腰掛けていた。頭頂部がはげていた。本人はそれを気にしているようだった。

 岡木治彦、四十五歳、巡査部長。捜査二課からの転属である。本人の希望のようだった。黒金署管内には、あの黒金組がある。捜査二課はその対策に、忙しい部署だった。岡本はもっと楽がしたかったのだろう。奥さんがうるさく、家庭ではいい父親をしているという噂だった。

 滝岡順平、三十四歳、巡査。コンピューターを扱わせれば、右に出る者はないが、変人で、仕事中に勝手にサイトを覗いては叱られている。捜査三課から飛ばされたという話がある。平凡な顔。どこにでもいるような奴だった。

 鈴木浩一、二十六歳、巡査。交番勤務から昇格して配属されて来た。これぞ二枚目という男。各部署の女性警察官から、熱い視線を送られているという。

 並木京子、二十二歳、巡査。今年、採用されたばかりの新人。僕には普通の子に見えるが、警察官の中では人気がある。

 これらのメンバーと僕は仕事をすることになった、黒金地区の安全を守るために。

 

 午後五時になったので、僕は課の部屋を出た。他の者にも早く帰るように言った。

 署を出て歩いていると、携帯が鳴った。

 開口一番、「黒金地区にようこそ」と相手は言った。

「神崎茂か」と僕は言った。

「呼び捨てですか。偉くなったもんですね」と神崎は言った。

「偉くはなりはしない。ただ、ヤクザとは、丁寧語で話す義務はない」と言った。

「そう言わないでくださいよ。これでも歓迎しているんだから」

「よく、この携帯番号が分かったな」

蛇の道は蛇って言うじゃないですか」

「そうか」

「何故、公務員試験総合職に合格したあなたが、警視庁に来て、よりにもよって、この黒金署に来たんでしょうね」と訊いた。

「上の意向に従っただけさ」と答えた。

「そうなんですか」

「それ以外に何があるっていうんだ」

 僕は答えるのが面倒になってきていた。

「何か用でもあるのか」と訊いた。

「いいえ、お祝いの電話のつもりです」と神崎は答えた。

「それはどうも。こちらはあまり嬉しくはないんだがね」と言うと、神崎は笑って、携帯を切った。

 僕も携帯をしまった。

 

 家のドアを開けると、「あなた、お帰りなさい」ときくが僕を出迎えてくれた。

 きくとは、僕が二十歳になった時に、きくの戸籍が取れたので結婚した。きくの戸籍を取るのは大変面倒だった。

 僕が十八歳になった時に、区役所にきくの戸籍の申請をした。しかし、認めてもらえなかった。それで、仕方なく、家庭裁判所に戸籍申請の訴えを起こすことになった。江戸時代からきたきくの身元を証明するものが全く無かったため、それが結審するまでに、二年もかかった。ただ、裁判所も、子どももいるきくを、この先、ただ無戸籍のまま放置することはできなかった。難しい裁判の結果、ようやくきくに戸籍が与えられた。

 当然、ききょうと京一郎にも戸籍ができ、ききょうと京一郎は、今、小学校に通っている。ききょうは四年生で、京一郎は三年生だった。

 きくは、今では何不自由なく現代の生活ができるようになった。

 

「今日は、何」と僕は夕食のメニューを訊いた。

「ミートパイを作ってみました」と答えた。

「ミートパイ」

「はい」

「難しくなかった」

「難しかったです」

「風呂に入ったら、食べるよ」と僕は言った。

「わかりました」

 

 僕は風呂に入った後、食卓についた。

 テーブルには、ミートパイの他にたらこスパゲティやサラダが並んでいた。

 カボチャスープも作っていた。

「凄いな」と言うと、「あなたが喜んでくださると思って」と応えた。

 きくは結婚してから、京介様とは言わなくなって、あなたと言うようになった。

「どうしてそう呼ぶの」と訊いたら、「その方がより近く感じるんです」と答えた。

「そうか」としか言いようがなかった。

 

 ききょうも京一郎も椅子に座って、ミートパイを食べていた。