2022-01-01から1年間の記事一覧

小説「僕が、警察官ですか? 5」

僕が、警察官ですか? 5 麻土 翔 一 四月になって、僕は黒金署の安全防犯対策課から、西新宿署の未解決事件捜査課に移動になった。 未解決事件捜査課は西新宿署の地下一階にあった。道場がある階と同じだった。 未解決事件捜査課が地下にあるのは、事件ファ…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

三十五 島村が狙いをつけたと思った瞬間、僕は時を止めた。 そして、走って行き、ズボンからハンカチを出して、銃を取り上げ、ハンカチを使って、撃鉄を降ろした。そして、銃身で島村の頭を思い切り叩いた。ひびが入ったのが分かった。島村は立ったまま気絶…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

三十四 一月五日になった。僕はご祝儀を持って、タクシーでお茶の水の****ホテルまで行った。式は午前十一時から始まる予定だった。その三十分ほど前に着いた。控え室には、岸田信子と、峰岸康子の母が車椅子に乗って来ていた。 僕は二人に挨拶をして、…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

三十三 家に帰ると、「レンタルのベビーベッドは明日届くわよ」と母が言った。 「へぇー、いつ頼んだの」と訊いた。 「赤ちゃんが生まれてすぐよ」と母は言った。 「手回しがいいんだな」と言うと、「こういうことはわたしの方が慣れているからね」と言った…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

三十二 次の日、安全防犯対策課に行くと、鈴木が「何がいいか決まりましたか」と訊いた。 「哺乳瓶とキューブ型のミルクがいいって妻は言っていた」と言った。 「それじゃあ、明日までに買っておきますね」と鈴木は言った。 鈴木は忘年会のことで頭がいっぱ…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

三十一 次の日、安全防犯対策課に行くと、メンバーは揃っていた。 みんな僕の方を向いていた。昨日、妻の出産のために安全防犯対策課を離れたことを誰もが知っていた。 「おはよう」と言うと、全員が「おはようございます」と返してきた。 「昨日、妻が午前…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

三十 定時になったので、安全防犯対策課を出て、家に帰った。 きくが出迎えてくれた。 僕はきくに昼間、岸田信子から電話があったことを話した。そして、彼女の弟の結婚式に出ることを約束したことを伝えた。 「もう、その女の人とは会わないと約束しました…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十九 一ヶ月が経った。十二月も半ばを過ぎていた。 剣道の稽古は十二月の上旬で今年のは終わっていた。来年は一月下旬から始まることになっていた。 きくのお腹も大きくなっていた。 島村勇二は相変わらず捕まらなかった。 峰岸康子の母は入院して治療して…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十八 月曜日になった。 剣道の道具と鞄を持って、家を出た。 定時に安全防犯対策課に入った。 メンバーは揃っていた。 「おはよう」と言って、僕はデスクに座った。 そこに岸田信子から携帯に電話がかかってきた。 「おはようございます。今、大丈夫ですか…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十七 パンケーキは美味しかった。 峰岸康子も泣き止んで、パンケーキを食べ始めた。すぐに「美味しい」と言った。 秀明もパンケーキを食べた。 「本当だ。美味しい」と言った。 岸田信子はホッとしたように、パンケーキにナイフを入れた。 「凄くふんわり…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十六 お昼になった。 安全防犯対策課のメンバーは誰も帰ってこなかった。いつもは屋上のベンチで昼食をとるのだが、今日は誰もいないので、デスクで弁当を広げた。 鶏そぼろと炒り卵の二色弁当だった。きくは鶏そぼろでハートマークを作っていた。 昨日の…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十五 午後五時になったので、安全防犯対策課を出て、家に帰った。 きくが出迎えてくれた。 「子どもたちは」と訊くと、「プリントをしています」ときくは答えた。 「そうか。相変わらず、教育ママをやっているんだな」と僕は言った。 「教育ママって何です…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十四 安全防犯対策課に戻ると、緑川が防犯安全キャンペーンのキャラクター募集のチラシ原稿を持ってきた。 それを見て、僕は「ああ、これでいい」と言った。 「じゃあ、これをプリンタで印刷して配りますね」と緑川は言った。 「そうしてくれ」と言った。 …

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十三 次の日の朝のテレビのトップニュースは、警察官射殺未遂事件だった。ニュースでは、帰宅途中で狙われたとなっていた。狙われた警察官の氏名は公表されなかった。 犯人の重森昭夫と、彼に狙撃を指示したと見られる島村勇二については、詳しく報じられ…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十二 定時になったので、僕は剣道の道具と鞄を持って、安全防犯対策課を出て、西新宿署に向かった。 西新宿署の近くまで来ると、建物が取り壊されて更地になっている所が多くなってくる。そこを歩いている時だった。嫌な予感がした。そして、突然、ズボン…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十一 定時に黒金署の安全防犯対策課に行った。 午前十一時に、悟堂の家に実況検分に行くことになった。 ききょうがどのように連れ去られたかは、すでに検分済みだった。 悟堂の家で、続きの実況検分は行われた。当日の様子が再現されていた。 僕は、門から…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

二十 定時になったので、鞄を取って安全防犯対策課を出た。 家に向かっていつものように歩いていた。 すると、ズボンのポケットのひょうたんが震えた。 「どうした」と僕は言った。 「誰か主様をつけてきています。邪念を持っています」と言った。 「そうか…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十九 署長室に入っていくと、副署長も来ていた。 署長は「まぁまぁ、そこに座りたまえ」とソファを指さした。 「失礼します」と言ってソファに座った。 「昨日は、大変だったね。それに大活躍だったじゃないか」と署長はご機嫌だった。悟堂の家が黒金署の管…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十八 家に帰ると、学校に電話をして、無事に家に戻ってきたことを副校長に伝えた。 副校長は「大事に至らずに良かったですね」と言った。 「ええ、そうですね」と僕は応えた。 それで電話を切った。 きくに「ききょうは風呂に入れさせろ」と言った。 「あな…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十七 ききょうが寄ってきた。 「そうだ。学校に電話をしなくちゃ」と僕は言った。 自分の携帯で学校に電話をした。 副校長が出た。 「北園小学校、副校長の前川です」と言った。 「鏡京介です。やっと主犯格を捕まえました。警察に言ってもいいですよ」と言…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十六 ききょうのところに行った。目隠しを外した。 「パパ」とききょうは言った。 「もう、心配しなくていいからね」と言った。 後ろ手に縛っていた鈴蘭テープをカッターナイフで切った。 ききょうは抱きついてきた。 「怖かった。でも、パパがきっと助けに…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十五 高島研三が起こした警察官発砲の事件では、島村勇二は殺人教唆が問われ、実刑二年の刑が言い渡されている。ということは、その捜査資料が西新宿署にあるということだった。島村勇二の逃亡先が、その捜査資料から分からないものかと思いついた。 思いつ…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十四 家に帰ると、きくが「怖かったです」と言った。 「そうだよな。突然、あんな車がこの通りに入り込んできたら、誰でも怖くなるものさ」と僕は言った。 「でも変なんですよ。パトカーを呼んだら、あの車に乗っていた二人は、二人とも大怪我を負っていて、…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十三 高台宗男は椅子にどっしりと座っていた。 僕はデスクの前に進んで、警察手帳を見せた。 「警察の方が何の用ですか」と高台は言った。 「私の家にお宅の従業員がし尿をまき散らそうとしたので、注意しに来たんですよ」と言った。 ここで時間を止めた。 …

小説「僕が、警察官ですか? 4」

都合により、しばらくアップをお休みします。 可能になりましたら、十三章より再開します。

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十二 駅に向かって歩きながら、あやめと話した。 「考えてみれば、あやめがやったことは刑事が尋問をしていて、犯人を落とすときと同じことだな。それを直接、意識の中でやるから、効果はてきめんだったんだ」と言った。 「そうですよ。わたしだけでなく、主…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十一 このままでは、高橋丈治の思うとおりの方向に取調は進んでいきそうだった。 時を止めた。 「あやめ。取調官の意識を送れ」と言った。 「わかりました」と言った。 取調官の意識が流れてきた。 取調官浅井は、高橋丈治がすんなりと轢き逃げを認めたこと…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

十 次の日、黒金署の安全防犯対策課に行った。 デスクに座ると、品川署から電話がかかってきた。岸田信子からだった。 「鏡課長ですか」 「はい、私です」と僕は言った。 「おはようございます」と岸田が言った。 「おはようございます」と返した。 「車の鑑…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

九 僕はデスクに手をついて、前のめりになって、青木に顔を近づけた。 「私が何者か、知りたいでしょう。どうして秘密にしていることが分かるのか、不思議でしょうがないでしょう。それはこうして話しているからですよ。あなたのことは隅から隅まで調べてき…

小説「僕が、警察官ですか? 4」

八 青木運送の受付で、警察手帳を見せて、「社長にお会いしたいんですが」と言った。 「ちょっとお待ちください」と言って、受付の女性は内線電話をかけた。 そして、電話をかけ終わると、「どうぞ。あの建物の三階です」と奥の建物を指さして言った。 僕は…