小説「真理の微笑 夏美編」

二十四

 夏美は毎日、ホームヘルパーの講習に通った。

 そして一ヶ月後に修了証書を手にした。

 夏美は、その修了証書を持って、十二月の高瀬との面会に臨んだ。

 高瀬は面会室に入ってくると、「元気だったか」と訊いた。

「元気よ」と夏美は答えた。そして、「ねえ、見て」とアクリル板に修了証書を押しつけた。

ホームヘルパーの修了証書よ」

 高瀬はアクリル板に近づいて、それを見た。そして「凄いな、もう取ったんだ」と言った。

「そうよ」

 それから、ホームヘルパーの講習がどういうものかについて、夏美は高瀬に話した。高瀬は夏美の話を熱心に聞いていた。

 そして、そのうちに時間が来た。

 高瀬がアクリル板に左手を押しつけると、夏美もその手に合わせてアクリル板に手を押しつけた。これで面会は終わった。

 

 次の面会は一月だった。

 寒くなってきたので着る物を差し入れたいが何がいい、と手紙で書くと、厚手のセーターと書いてきたので、厚手の淡いグレーのセーターを差し入れた。

 面会時には、高瀬はそのセーターを着て現れた。

「似合っているわ」

「そうか」

「似合っていて良かった」

「君が選んだのだから、似合っているのは当然だろう」

「そう言ってくれると嬉しいわ」

ホームヘルパーの仕事はもうしているの」

「いいえ、まだよ。資格を取ったからといって、それがすぐに仕事に結びつくわけではないわ」

「そういうものなのか」

「そういうものなのよ」

 二人はこの一ヶ月の事を話した。高瀬は相変わらず、コンピューター関係の本を読んでいると言っていた。夏美は、年末の大掃除と年始参りの話をした。

 そんな話をしているうちに面会時間は過ぎていった。

 アクリル板越しに手と手を合わせた時に、高瀬が「次に来る時には祐一に会いたいな」と言った。

 夏美は顔を綻ばせて「絶対に連れてくるわ」と言った。

 それで面会は終わった。

 

 家に帰って夏美がその話を祐一にすると、「次は二月だよね。ちょうど二月の初めは試験休みになるから、その時に会いに行こう」と言った。

「そうね」

 祐一の通う私立中学校の入学試験は、毎年二月の初めに行われるのだった。一年前の祐一は受験生だったのだ。

 

 二月初めの平日に祐一を面会に連れて行くと、高瀬は喜んだ。

「お前、随分背が伸びたな。それに逞しくなった」

「テニスをしているからね。練習はきついよ」

 高瀬は、祐一に学校の様子とかクラブ活動について訊き、祐一がそれに答えていった。それだけで面会時間は過ぎていった。

 最後に高瀬はアクリル板に手を押しつけた。まず、夏美がその手に合わせた後に、祐一にも同じように手を合わさせた。

「随分と、でかい手をしているな」と高瀬は言った。

「テニスのラケットを毎日握っているからだよ」と祐一は答えた。

「またな」

「うん、また」

 これで面会は終わった。

 

 帰りの電車の中で「お父さん、元気だったね」と祐一が言った。

「そうね」

「三月も会いに行くね」

「そうすると喜ぶわよ」