小説「真理の微笑 夏美編」

十九

 警察から押収された品物が返却されてきた。

 夏美は、それを二階の高瀬の自室となるところに収めた。

 八月半ばになって、高瀬と面会できる事になった。弁護士事務所から連絡が来たのだった。

 面会室のアクリル板越しに見る高瀬は、少し、いやだいぶ若返った顔をしていた。しかし、高瀬隆一である事に間違いはなかった。夏美は一目見ただけで涙した。窓に手を当てて、「あなた」と呼んだ。高瀬は軽く頷いた。

「何度もあなたの夢を見たのよ」

「うん」

「そして、やっと本物のあなたに会えた」

「うん」

「わたしがどんなに嬉しいか、わかる」

 高瀬は困った顔をした。

「そんな顔をしないで。わたし、嬉しいの。また、あなたに会えて」

「そうか」

「だって、もう一生会えないのかも知れないと思った時もあったのよ」

 高瀬は黙って頷いた。

「出した手紙は読んでくれた」

「ああ」

「どうして返事をくれないの」

「何を書いて良いのかわからなかったからだ」

 高瀬の声は、完全には元には戻っていなかった。それでも夏美には、昔の高瀬の声に聞こえた。

「何でもいいの。今、あなたがどうしているのか、知らせてくれるだけでいいの」

「わかった」

「じゃあ、手紙書いてくれる」

「そうするよ」

「ありがとう。待ってるわ」

「そうしてくれ」

 夏美はアクリル板越しに手を広げた。そして「この手に合わせて」と高瀬に言った。

 高瀬は夏美の手に手を合わせた。

 その時、再び、夏美は泣いた。

「時間です」という刑務官の声がした。

「じゃあ、また来るからね」と言う夏美に「待っている」と高瀬は答えて、面会室から出て行った。

 

 刑務所を出ると夏の暑さが身に染みた。

 弁護士が用意していた車にすぐに乗った。

 

 面会時に、祐一を連れて行くかどうかについて、夏美は悩んだ。しかし、最初の面会は弁護士も同席しているが、夏美だけで行こうと思った。ちょうど、祐一はテニスクラブの合宿中という事もあった。弁護士に同席してもらったのは、面会の仕方がわからなかったからだ。弁護士に同席してもらったのは刑務所での面会の方法・手続きを教わるためでもあったのである。

 次の面会は一週間後にした。これは予め決められているのではなく、高瀬隆一の場合、まだ入所したばかりなので、面会回数が月二回に制限されていたからである。次回は、弁護士同席ではなく、自分で手続きをしようと思った。そして、祐一も連れて行こうと考えた。