二十五
三月の面会時にも祐一を連れて行くと、高瀬は喜んだ。
高瀬と祐一だけで話しているうちに時間が来た。
夏美は二人に置いて行かれる気がした。
面会を終えて刑務所を出てくると、その高い塀を見て、「ここにお父さんは収監されているんだ」と、今更のように祐一は言った。
「そうよ」と言いながら、高い壁を見上げて、改めて高瀬との間に高い壁ができた事を実感した。
高瀬から手紙が来た。
離婚する事を考えた事はないのか、というものだった。祐一に会って、祐一の将来の事を考えたと書いてあった。犯罪者の父親がいる事が、これから社会に出て行く時に不利になりはしないだろうか。それならいっそ、別れて犯罪者の父親がいなくなれば、就職にも影響を及ぼさないだろう、と書かれていた。
それを夏美は祐一に見せた。祐一は「お父さんはお父さんだけだ。就職の事なんか関係ないよ」と言った。
それを聞いて「そうよね」と夏美も思った。
『隆一様
わたしはあなたと離婚するつもりはありません。わたしはいつまでもあなたの妻です。
あなたからの手紙を祐一にも見せました。そしたら、祐一は「お父さんはお父さんだけだ」と言っていました。祐一もそう思っているのです。あなたは祐一の就職の事などを心配しているようですが、それはその時の事です。それよりも、わたしはあなたを失う方が辛いです。ですから、わたしはあなたとは別れません。あなたを愛しています。 夏美』
高瀬からは、わかった、変な手紙を送ってしまって済まなかった、と書いて寄こした。
それから四年ほどが過ぎた。
夏美は毎月、高瀬に面会に行っていた。
そして、夏美はホームヘルパーを扱うある会社に登録をして、少しばかりであるが仕事を始めていた。
祐一は高校生になっていた。
そんなある日、突然のように高瀬から手紙が来た。
仮釈放の通知だった。
仮釈放の日は七月だった。
夏美は祐一を連れて、介護タクシーで刑務所に向かった。
刑務所に行くと、真理子も来ていた。夏美は何故、と思った。真理子も子どもを連れてきていた。最初に見た時は赤ん坊だったが、今は普通に歩いていた。考えてみれば、その子は、祐一からすれば異母兄弟だった。
刑務所の出口に、左右に分かれるように夏美たちと真理子たちが並んだ。
やがて、刑務所の出口から、車椅子を手で押して高瀬が出てきた。
夏美はそんな高瀬に走り寄ろうとした。高瀬はちらっと夏美の方を見た。
しかし、高瀬の車椅子の進んでいく方向は、夏美ではなく、真理子の方だった。
夏美は足を止めて呆然と立ち尽くした。そして、膝から崩れるように地面に座り込みそうになった。祐一が駆け寄り、そんな夏美を抱き留めた。
夏美は、涙で霞む高瀬を見ながら、「あなた、どうして」と叫んだ。
了