小説「僕が、剣道ですか?3」

二十七
 空き地で集団に囲まれていた。人数を数えると二十二人いた。
 随分と、数を揃えたもんだと思った。
 僕は、気付かれないように、携帯で彼らの写真を撮った。
「ここに来る途中で、他の奴らにも連絡したから、おってやってくるだろう」とヘッド格の男が言った。
 二十二人でもやっかいなのに、まだ増えるってか。僕はほとんど絶望的な気持ちになってい……るわけがないじゃないか。
「きく」
「はい」
「僕から離れるなよ」
「わかっています」
 奴らは僕を相手にするのが、やっかいだと思ったら、きくを狙うだろう。きくを楯にして、僕の動きを封じるに違いなかった。
 そうはさせない。
 相手の動きに注意を払った。きくを狙っている奴から倒すつもりだった。
 だが、一斉に襲いかかってきた。
 まず、きくの手を掴もうとした奴の顔に、安全靴で蹴りを入れた。顎のあたりに当たった。次にきくに近付いた者の右手の拳をナックルダスターで砕いた。もう一人も同じく右手の拳をナックルダスターで砕いた。後ろから来た奴は、右足の安全靴で、その胸のあたりを踵で強く蹴った。あばら骨が折れたか、ひびが入ったことだろう。
「きく、しゃがめ」と言って、きくをしゃがませると、その後ろにいた奴に回し蹴りを食らわせた。横っ腹を強く蹴った。空き地の中央で戦うのは、周りを取り囲まれるので、不利だから、塀の方に向かって、きくの手を引いて走った。きくを捕まえようとした奴は、ナックルダスターで殴った。右肩にひびが入ったに違いない。
 塀を背にしてきくを背中に隠した。
 六人倒しただけだった。まだ、十六人いた。
 皆、鉄の棒や金属バット、チェーン、ナイフなどを持っていた。スタンガンを持っている奴もいた。スタンガンには気をつけなければならなかった。僕はこの光景を、そっと携帯のカメラで撮った。
 鉄の棒と金属バットを持った二人が、襲いかかってきた。僕はショルダーバッグの中から警棒を取り出して、振って長くし、鉄の棒と金属バットをかわした。と同時に、それを持っている腕を警棒で叩いて骨を折った。二人は一瞬のことだから、何が起きたか、分からなかったろう。ただ、急に襲った激痛に転がるしかなかった。警棒をしまい、鉄の棒を拾うと、正眼の構えを取った。チェーンを叩き付けてきた奴は、跳びはねてチェーンをかわすと喉を突いた。そいつは喉を押さえて蹲った。ナイフを持っていた奴は、鉄の棒でナイフを叩き落として、ナイフを掴むと、そいつの腕に突き立てた。そいつは転げ回った。
 これでようやく十人倒した。まだ、十二人いた。
 きくは僕の後ろで、頭を抱えてしゃがんでいた。
 パチンコの玉が胸に当たった。幸い革ジャンに太いチェーンを入れていたところだったので怪我はしなかったが、僕は怒った。飛び道具を使う奴は、卑怯か弱い奴に決まっていた。スリングショットを持っている奴を見つけたので、そいつのところに飛びかかっていって、スリングショットを奪い、その腕をへし折った。その近くにいた奴には、ナックルダスターで顔面を殴った。スリングショットを持っていた奴の懐を探って、パチンコ玉を沢山見つけると、それをズボンのポケットに入れ、スリングショットで他の奴の足を狙い撃ちしていった。これは動きを封じるためで、それでやっつけるつもりなら顔を狙っただろう。だが、顔を狙うと悪くすると、ひどい怪我を負わせるだけでなく、殺してしまう危険性もあった。だから、足を狙ったのだ。何人かが倒れると、奴らは身を伏せた。
 僕は足を打った奴のところに走って行き、鉄の棒で、その足の骨を本気で折っていった。五人はそれでやっつけた。
 まだ五人いた。
 その時、援軍が来た。十二人いた。その写真も撮った。これで、倒す相手が十七人になった。
 援軍は、僕がスリングショットを持っていることを知らないので、立って歩いて来た。僕はできる限り多くの奴の足をパチンコ玉で撃った。七人ほど倒れた。そこで連中もしゃがみ込んだ。
 僕はきくのそばに走った。きくはしゃがんだままだった。
 相手は這うようにして、近付いてきた。仕方ないから、スリングショットで肩か腕を狙える奴を撃っていった。四人に当たった。呻き声が聞こえてきた。パチンコが当たっているのは、足に七人と肩か腕が四人だから、無傷なのは、六人ということになる。
 僕は相手が動かないものだから、こちらから飛び出していった。
 スリングショットで撃った者を、目標にして、鉄の棒で腕か足の骨を折っていった。
 その間にきくがスタンガンを持っている男に狙われたので、急いで戻って、そいつの顎をナックルダスターで砕いた。そいつの腕から、ストラップを外しながらスタンガンを奪うと、左手に持った。
 再び、スリングショットで撃った者を目標に鉄の棒で腕か足の骨を折る作業に取りかかった。
 五分もしないうちに、すべきことは終わった。
 残りは六人だった。その中にヘッド格の奴がいるに違いなかった。ヘッド格の奴は、兵隊に戦わせて自分はいつも安全地帯にいる。ぼくはそういう奴が一番嫌いだった。
 残りの六人は動けなかった。下手に動けば、スリングショットの餌食になるからだった。
 きくからは離れた所に、六人は固まっていた。都合が良かった。
 僕はきくから離れて戦うことができる。その時、また援軍が来た。携帯で呼んだのだろう。八人いた。スリングショットのことは伝えていたようで、最初から背を低くして、空き地に入ってきた。その写真も撮った。
 これで相手は十四人に増えた。
 パチンコ玉も残り十個になった。全員をスリングショットで撃つわけにはいかなかった。
 八人はしゃがんでいる六人の所に行った。状況を聞いているようだった。
 僕はスリングショットで狙える者を探した。
 二人の肩には当てられそうだった。その二人を撃った。見事に肩に当たった。
 僕は走って位置を移動した。彼らは目で僕の動きを追っていた。しかし、こっちの方が素早かった。四人ほど肩に当てられる位置に来た。当然、四人を撃った。そして、当然、四人とも肩に命中した。
 相手で無傷なのは八人だった。
 普通に考えれば、一対八なのだから、断然相手が有利なのだが、もはや相手はそうは考えてはいないだろう。逆に自分たちが追い詰められている気分になっているのに、違いない。
 そう思っている間に仕掛けるに越したことはない。僕はまた走った。スリングショットで狙える位置に着くと、四人の肩や足を撃った。全部、的中した。パチンコ玉はこれでなくなった。僕はスリングショットをそっと置くと、スリングショットで動けなくなった者を目標にして向かって行った。確実に相手にダメージを与える必要があった。後日、同じ相手に狙われるのは避けたかったからだ。だから、鉄の棒で腕か足の骨を折っていった。そうすれば、治るのに軽くても一カ月以上はかかるだろう。その時間が欲しかった。
 また、徹底してやられた奴は、同じ相手と再び戦いたいとは思わないだろうことも、計算に入れていた。
 スリングショットで撃った者の腕か足の骨を折る作業は、数分で終わった。
 無傷なのは四人だが、彼らは僕がやっていることを見ている。攻撃するよりも恐怖が勝っているのに違いなかった。
 呻いている奴らの間をぬって、無傷で固まっている四人の元に向かった。
 四人は逃げたくても逃げられずにいた。明らかにヘッド格の奴ではない二人はスタンガンで眠らせた。もう一人もスタンガンを使ったが、電池切れだった。仕方なく、鉄の棒で足の骨を折った。スタンガンで眠らせた二人の足の骨も、ヘッド格の奴が見てる前で折っていった。
 ヘッド格の奴の胸を鉄の棒で突いて、尻餅をつかせた。
「ようやく、話せる状況になったな」と僕は言った。
 そいつは震えていた。
「何故、狙った」
 そいつのズボンのまたのところにシミが広がっていった。
「何故、狙ったんだ。答えろ」
「鏡京介をやっつけろという指令が出ていたんです」と答えた。
「誰からだ」
「黒金高校の番長からです」
「そいつの名は」
「竜崎雄一さんです」
「学年と組は」
「三年三組です」
「そうか、ありがとよ」と僕は言って、そいつの右足を鉄の棒で叩いて折った。そいつは足を押さえて転がった。
 まず、そいつの懐を探って生徒手帳を取り出すと携帯で写真に撮った。
 残りの奴の生徒手帳も全部写真に撮った。生徒手帳を持っていない奴は、顔の写真を撮って、学年、クラス、名前をしゃべらせた。それらは携帯で録音した。
 すべてが終わると、いつものようにクラウドストレージにアップロードした。

 きくのところに行った。きくはしゃがんだままだった。
「終わった」と訊いた。
「うん、終わった」と答えた。