三十八-2
「プロジェクタはどう使うんですか」と言うと副校長が立ってきて、プロジェクタがノートパソコンに接続されているのを確認して、プロジェクタに電源を入れた。
副校長は「カーテンを閉めてください」と言った。
ノートパソコンに電源を入れると、しばらくしてOSが起動した。その様子は、プロジェクタを通してスクリーンに映し出された。
ノートパソコンにUSBメモリを差し込み、そのUSBメモリの中の画像ファイルをダブルクリックすると、その映像がスクリーンに次々に映し出された。
その映像が映し出されている時に、今度は音声データのファイルをダブルクリックした。
PTA室には、ノートパソコンから音声が流れた。
『「ぶつかっといて謝らないで行く気かよ」
「さっき、謝ったじゃないですか」
「はぁ」
「聞こえなかったんですね。済みません」
「はぁ」
「離してくださいよ」
「なぁ、俺は謝ってくれって言ってんだ。何も難しいことを言っているわけじゃないだろう」
「謝ったじゃないですか」
「はぁ」
「その、はぁ、が分からないんですけれど」
「こいつ、謝り方も知らねえぞ」
「済みませんじゃ、いけませんか」
「済みませんで通れば、警察はいらねぇんだよ」』
ここから、黒金高校の連中が興奮してくるのが分かった。
『「だから、どうすれば謝ったことになるんですか」
「言わなきゃ、わかんねぇのか」
「分かりません」
「本当に馬鹿だな、お前は」
「馬鹿で、済みません」
「金だよ、金」
「お金が、謝ることとどう結びつくんですか」
「はぁ」
「とにかく、金を出せばいいんだよ」
「分からないなぁ。お金を出すことと謝ることにどういう関係性があるんですか」
「金を出すって言うことが、謝るっていうことになるんだよ」
「ああ、そういう意味だったんですね。で、いくら出せばいいんですか」
「さっきなら、数万で済んだが、今はこれだけ集まったんだぜ」
「何人ぐらいいます」
「馬鹿か、お前は。数えられないのか」
「怖くて、よく分からないんです」
「十五人だよ」
「十五人ですか。それで、いくら払えばいいんですか」
「少なくとも一人あたり、これくらいだな」
「千円ですか」
「馬鹿野郎。さっきなら、数万で済んだが、って言っただろう。一人一万に決まってるだろう」』
ここで録音ファイルを止めた。
「この後、僕は逃げようとしました。でも、奴らは追ってくるので、仕方なく、何人かは転がっていた石か何かで殴ったと思います。その時、怪我でもしたかも知れませんが、でも、これは仕方なくやったことです」と僕は言った。
その後も彼らが集団で襲おうとしている写真を何枚かスクリーンに映し出したところで止め、僕は「これ以上、証拠がいりますか」とPTAの役員の人たちに訊いた。
PTA副会長の遠藤幸子は「鏡京介君からは、もうこれぐらいでいいんじゃないですか」と言った。僕は沙由理の写真は、もちろんUSBメモリには入れてなかったが、それを知らない遠藤幸子は、娘の写真を証拠として写し出されたくはなかっただろう。
「そうね」と言う声があちらこちらから聞こえた。
僕はノートパソコンからUSBメモリを引き抜いた。
PTA会長が「鏡君は教室に戻っていいわ。後は、PTA役員会で決めます」と言った。僕は、担任と一緒に立ち上がると、担任に連れられて、PTA室を出た。
担任の梶川祐子は「もう、大丈夫よ。あれを見て聞いたので、はっきりしたと思うわ」と言った。
僕は「ご迷惑をおかけしました」と頭を下げた。担任は「いいのよ」と言った。