小説「僕が、剣道ですか? 3」

三十六-2

 僕はもう一隅に隠してある金属串五本入りのパックも取り出した。そして、金串だけにした。八本あった。
 そこに隠してあった催涙スプレーも取り出した。
 そして、事務所の扉を開けた。思った通り、クロスボウの矢が雨あられと飛んできた。
 僕はクロスボウの矢が飛んできた方向に正確に撃ち返していった。そして、床を転がりながら、中に入った。
 クロスボウを撃った者三人の腕に矢は刺さっていた。
 周りには、八人ほどの大男が竜崎雄一をガードしていた。僕は両手に催涙スプレーを持つと、机の上に飛び上がり、さらに彼らに近付いて、目をつぶりながら、催涙スプレーのボタンを押した。もちろん、息も止めていた。
 そして、押し終わると、事務所から一旦出た。事務所内は催涙スプレーでもうもうとしていた。ショルダーバッグの中から新しい催涙スプレー缶を取り出すと、両手に持ち、口にハンカチを巻いて、目を閉じ、もう一度事務所内に入った。そして、催涙スプレーのボタンを使い切るまで押した。そして、事務所の外に出た。
 事務所の中は大変なことになっているだろう。
 収まるまでの間、もう一度、工場内を見回った。
 隠れていた奴、三人を見付けた。もちろん、腹を拳で殴り、右足を折った。
 そして、意識のある一人に「竜崎雄一は何処にいる」と訊いた。
 そいつは「竜崎さんなら、ここにはいませんよ」と言った。
「だったら、何処にいる」と訊いた。
「近くのベンツの中だと思います」と言った。
 僕は工場を抜けると、そっと隣のビルの屋上に上がった。そして双眼鏡で周りを見回してみた。
 すると、工場に向かう道の途中にベンツが止まっている。
 後部座席の窓が開いていた。
 そこから双眼鏡でこっちを見ている奴を見付けた。そいつが竜崎雄一に違いなかった。
 一階まで下りて、門に向かって走った。こっちに気付けばベンツは逃げる。
 時間を止めるしかなかった。
 門からベンツまで走った。そして、後部座席の開いている窓から手を入れて、後部座席のドアを開けた。双眼鏡で工場の方を見ている竜崎雄一がいた。
 そいつを引っ張り出して、そいつの躰を調べ携帯を取り出して見た。竜崎雄一だった。念のため、財布も調べた。クレジットカードに竜崎雄一のサインが書かれていた。
 さすがに生徒手帳は持っていなかった。
 ガムテープを取り出し、そいつの口を塞いだ。
 そして、右足を折った。
 それから、旧黒金金属工業まで引き摺っていった。その途中で、時間が動き出した。限界だった。
 竜崎雄一が動こうとしたので、いやというほど腹に拳を叩き込んだ。竜崎雄一は気絶した。
 そのまま工場内に連れ込んだ。そして、ガムテープで後ろ手に縛った。
 鎖のようなもので躰を縛り、吊り上げた。
 そうしている内に事務所内の催涙ガスも落ち着いてきた頃だろうと思って、息を止めて、中に入り、目を押さえている八人の大男の太腿に、一人ずつ、深く金串を刺していった。
 そこで一旦外に出て空気を吸った。
 そして、もう一度中に入ると、替え玉の竜崎雄一の顔面を殴り気絶させると、外に連れ出した。そいつのズボンのベルトで後ろ手に縛ると、そいつの右足を折った。それでそいつは、気絶から覚めた。
 鎖に繋がれて、吊るされている竜崎雄一をそいつに見せた。
 そいつは「竜崎さん」と言った。
「あそこに吊るされているのは、竜崎雄一か」と僕が訊いた。
 そいつは僕の顔を見ると、「鏡京介」と言った。
「俺の名前は覚えているんだな」と僕は言った。
 そいつは下を向いた。
「あいつが竜崎雄一なんだな」と訊くと、そいつは黙った。
「左足も折らないと駄目か」と言って、左足を折る真似をした。すると慌てて「そうだよ、彼が竜崎さんだよ」と言った。
 僕は事務所に入っていき、足に金串を刺されている奴の右足を折っていった。
 それが済むと、そこら辺に転がっている金属バットを持って、吊るされている竜崎雄一のところに行った。そして、金属バットで顔を殴って、気絶から目を覚まさせた。
「遠くから見物してんじゃねえよ」と僕は言いながら、竜崎雄一の右腕を金属バットで折った。
「一人、遠くから指示を出している奴が一番嫌いなんだよ」と言って、僕は竜崎雄一の左腕を金属バットで折った。
「自分が一番つええなんて思うなよ」と言って、奴の左足を金属バットで折った。
 竜崎雄一が四肢の骨を折られて吊るされている写真を、竜崎雄一の携帯で取って、携帯メールに添付して登録されている黒金高校に分類されているメンバーの全員に送った。これで竜崎雄一の面子は潰れるだろう。そして、僕に手を出してくる者はいなくなるに違いない。
 僕も携帯を出して、竜崎雄一の携帯メールに登録されているメールアドレスは黒金高校のメンバーだけでなく、すべてのメールアドレスを携帯で写した。
 もちろん、竜崎雄一の姿も顔も携帯で撮った。
 倒した奴は竜崎雄一も入れて、二百二十人にものぼった。
 もちろん、全員の顔写真や生徒手帳、身元の分かる者はすべて携帯で撮った。
 それから、隠しておいて使わなかった武器はすべて回収した。回収する時、携帯で写した写真と照合したので、回収し忘れはないはずだった。もちろん、使った催涙スプレー缶とか金串なども回収した。
 回収した催涙スプレー缶などは、ショルダーバッグの中には、入りきらなかったので、オーバーコートを脱いで、袖を縛りその中に入れた。
 家に帰り着いたのは、午後六時過ぎだった。外は全くの夜だった。