小説「僕が、剣道ですか? 2」

二十八
 僕は後悔の念と、憤怒の思いが湧き上がった。
 相手は最初は五人だったが、続々集まってきた。
 もはや、嬲り殺している余裕はなかった。刀が金色に輝き出した。
 相手が刀を振り下ろしてきても、かすりもさせずに斬り倒していた。刀に当たっても僕の刀は、それを簡単に切っていった。
 最初の五人はすぐに斬り倒した。
 残りは十四人だった。

 僕と山賊はかがり火の所まで行った。
 互いが見えるようにだった。
「お前一人なのか」
「どうかな。まだ十五人ほどいる」
 僕は嘘を言った。だが、その嘘を相手は信じるしかなかった。たった一人に、四十人以上もやられるはずがない、というのが奴らの常識だった。
 だから、僕だけに集中することができなかった。
「こやつはわしが相手になろう」
 腕の立つ者が出てきた。剣には自信があるのだろう。
 相手は正眼の構えを取った。僕も同じく構えた。そして、切り結んだ。刀同士がぶつかり、火花が散った。そして、離れた。その時、矢が飛んできた。顔の前で掴んで、矢の飛んできた方に凄いスピードで投げ返した。矢は相手に当たったのだろう。呻き声が聞こえた。その時、矢の第二弾が襲ってきた。今度は三本の矢だった。やはり、同じように投げ返した。投げ返す矢が、放った矢よりも速く飛んでくるとは、相手も思わなかっただろう。
 しかし、山賊は僕が忍びの者と信じているから、それができたのだと思い込んだのに違いない。
 矢が当たっているとすれば、相手は十人になったはずだ。
 次の剣が向かってきた。激しく切り結んだ。なかなかに強い相手だった。しかし、此所で遊んでいる訳にもいかなかった。
 僕は佐伯流八方剣の構えを見せた。刀を右に引き、左肩を突き出す独特の構えだった。
 相手は、がら空きの左に向かって斬りつけてきた。しかし、僕の剣の方が一歩速かった。相手の胴体は真っ二つに切れて落ちた。
「残り九人か」
 相手はじりじりと下がった。
 そして我慢しきれずに斬りつけてきた者は、一太刀で斬り捨てられた。
「八人」
 僕はさらに相手を追い詰めていった。
 八人は散った。
 そして、八方から斬りかかってきた。
 しかし、その方が相手にしやすかった。一方に向かい、そこの二人を斬ると、追いついてきた順に、腹を刺していった。
 たちまち四人が倒れた。
「後四人」
 一人を三人が守るように囲んだ。そいつが首領なのだろう。
「おぬし一人なのだな」
「どういうことだ」
「たぶらかされたわ。たった一人に我らがやられるとは」
 三人は入れ替わり立ち替わりで、襲ってきた。
 隙がなかった。慣れているのだろう。僕は大きな石を拾い、彼らの頭上に投げた。
 それを見ている隙に、二人の首を斬った。
 そして、もう一人は腹を裂いた。
「最後の一人になったな」
「それはどうかな」
「なに」
「わしはな、用心深いのじゃ。わしを斬っても終わらぬぞ。近隣の藩の村を襲っている山賊たちに使いを出したのじゃ。そのうち、こちらに向かってくるじゃろ、うじゃうじゃとな。何しろ三千両もの大金があると偽ったからな」
「黙れ」
 僕は怒りで、そいつの首をはねた。

 灯りのついている家々を回った。比較的若い女が裸で震えていた。僕は着物を着るようにと言って回った。
 それから、ご飯を炊いておくようにとも言った。
 僕は子どもたちが隠れている洞窟に行った。
 そして、彼らを連れて村に戻った。
 皆を、かがり火の所に集めた。夜だが、歓声が上がった。持ち寄ってきたご飯を僕も腹一杯食べた。そして、後はおにぎりにするように皆に言った。
「残念だが、戦いはまだ終わってはいない」と僕は言い、首領が最後に残した言葉を皆に伝えた。
「明日以降、また山賊に襲われるだろう。だが、もう村をこれ以上蹂躙はさせない。私が守る。約束する。しかし、戦いは長引くだろう。食べ物を確保して、山に隠れるんだ」

 年長の少年に「山賊が来るとすればどこからだと思う」と訊いた。
「この峠だと思います」
「そこから、奴らも来たのか」
「そうです」
「他に道は無いのか」
「あるけれど、馬は通れません」
「そうか。山賊は馬で来るか。この峠を守っていれば、村に入られないのではないのか」
「そうですが、破られました」
「そうか。見張りはできるか」
「はい」
「何か合図のようなものはあるのか」
 僕がそう言うと、少年は指笛を鳴らした。
「なるほど」