二十二-2
家老の屋敷に戻ってくると、きくがききょうを抱いて、僕を待っていた。
僕を見ると、すぐに「京太郎様が生まれたんですね」と言った。
「えっ、どうしてそれを」
「帰りが遅いので、使いの者を出したのです。そしたら、男の子が生まれたと言うではありませんか。京太郎、って言う名前だそうですね」
「そうだが」
「やけに堤道場に肩入れをしていると思ったら、そういうことだったんですね」
「そういうこととはどういうことなんだよ」
「そういうこととは、そういうことですよ。わたしに言わせたいんですか」
「いや、そうじゃない」
「あー、わたしも男の子が欲しいなあ」
きくはそう言って僕を見た。
「六月に産んだばかりだぞ」
「年子だって平気ですもの」
僕は溜息をついた。
「一姫、二太郎って、言うでしょう。今度は男の子よね」
きくは僕の腕を掴んで「ねっ」と言った。
なんでそうなるのかな。飛び上がりたくなった。
風呂に入り、夕餉の席でも、早くも京太郎の話が出た。
家老が「今度、御指南役になられた堤殿の所の娘さんにお子が生まれたそうだ」と言い出した。
誰かが知らせたのだろう。こういう話題は伝わるのが、はやい。ひょっとしたら、きくが出した使いの者の情報かも知れなかった。いや、その可能性が非常に高い。こんな情報がそんなにはやく伝わるとも思えない。通常なら、明日、堤が登城した時にお殿様に言上するかも知れないが、それまでは分からない方が普通だ。使いの者が、この話を知れば、きくに伝えるだけでなく、黙っていろという方が難しい。きっと吹聴したのに違いない。
家老は「それが何と、鏡殿のお子と言うではないか」と続けた。
僕はどうしてそれを……、と言いたくなった。
「鏡殿が京太郎と名付けられたそうだな」
「はい」
もう全部、ばれている。僕は観念した。
「いい名だ」
家老の嫡男が、「うちのきくにも、鏡殿のお子がいますね、確か、ききょうと言う。とすれば、異母姉弟ということになりますね」と言った。
「そういうことになりますな」と佐竹も言った。その後で、僕に向かって「あっちこっちにお子を作られて大変ですな」とも言った。
家老が「堤殿には、何か祝いの物を差し上げないといけないな」と言った。
佐竹が「男の子ですからね」と言って、僕を見た。
「いやいや、私には何がいいのか、分かりません」と首を振った。
「でしょうね」と佐竹は笑った。
そして「何か考えておきましょう」と言った。
その日の夜は、きくは激しく僕を求めてきた。また、女中たちに何を言われるか分からないぞ、と思いながらも、その若い躰を抱いた。