小説「真理の微笑」

三十六-1
 私は午前六時頃には目が覚めた。サイドテーブルに封筒が載っているのを見て、慌ててパソコン雑誌の間に挟んでテーブルの引出しにしまった。病院の窓口が開くのは午前九時だから、それまでは真理子に見つけられるわけにはいかなかった。真理子は朝食時の頃やってくる。その朝食は午前八時だった。
 午前七時になって看護師が体温と血圧を測りに来た。今日はその他に採血もあった。左手の手首から採血していった。今日のリハビリは午後二時からだった。いつもより一時間リハビリの時間が早まったのは、言語聴覚士による検査があり、その後シャワーがあるからだった。
 真理子は朝食が終わった頃に現れた。
「今日はシャワーの日よね」
「ああ」
「肌着、持ってきたわ。忘れるといけないからもう一枚買ってきたわ。それにバスタオルとフェイスタオルも多めに持ってきた。クローゼットに入れておくから看護師さんに言ってね」
「分かった」
「昨日、メモしてくれたソフト、忘れないようにするからね」
「頼むよ」
「夕食が終わった頃、来るわ」
「待ってる」
 出て行こうとする真理子の手を掴んでキスをした。

 真理子が出て行ったら、私は封筒を取り出し、忘れたものはないか何度も中を確認した。
 やがて午前九時になった。すぐにナースコールをした。
 看護師がやってきた。昨夜の看護師とは違っていた。
 私は封筒を取り出して、「これを出すので、糊が欲しい」と伝えた。看護師は「すぐ持ってきます」と言って出て行った。
 私は看護師が持ってきた糊で封をすると、財布から千円出して「これで切手を貼ってポストに投函して欲しい」と伝えた。
「わかりました」と言って看護師は出て行った。しばらくして、切手の領収書とおつりを持ってきた。私は一仕事、終えたような気分になった。