小説「真理の微笑 真理子編」

二十五

 翌日、保険会社への手紙をポストに投函すると、病院に富岡を見舞ってから、会社に行った。

 社長室に入って、しばらくするとお茶を運んできた滝川が「社長の手術はどうでしたか」と訊くので、「無事終わったわ」と答えた。

「それはよろしかったですね」

「ありがとう」

 滝川が出て行くと、入れ替わるように高木が入ってきて、滝川と同じことを訊いた。

「成功したわ」と答えると、「それは良かったですね」と滝川と同じようなことを言った。

 真理子は「ありがとう」という代わりに「昨日は何かありませんでしたか」と訊いた。

「いいえ、特に変わりはありません」

「そうですか」

 その時、滝川から内線が入った。受話器を取ると「****信用金庫の中津さんが見えられていますが」と言った。

「面会予定がある人ですか」

「いいえ」

「ちょっと待ってくださいね」

 電話を保留にして、高木に今の話をした。

「それはきっと融資の話ですよ」

「うちは融資してもらう案件はないわよね」

「ありません」

「わかったわ」

 電話の保留を解除して「丁重に、お帰り願ってもらえないかしら」と言った。

「わかりました」と滝川が答え、内線は切れた。

「銀行や信用金庫からの融資話はよくあるんですよ。借りるのは構いませんが、返すあてがなければ、困るだけですからね」

「悪魔の囁きには、耳を貸さないのが一番ね」

「そういうことですね」

 そう言った後、高木は社長室から出て行った。

 

 その日は、何事もなく退社した後、病院に寄った。午後七時頃、秋月医師が病室に現れた。

「こちらにいらっしゃると聞いたものですから」と言い、「術後の経過はすごくいいです」と続けた。その顔は自信に満ちていた。

「ありがとうございます」と真理子が言うと、秋月は病室を出て行った。そのすぐ後に、若く見える医師が病室に入ってきた。

「富岡さんですか」と言うので、「はい、富岡真理子です」と答えた。すると医師は「私は腎臓内科の片桐と言います。よろしくお願いします」と言った。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「富岡さんは、片方の腎臓の損傷が激しく、今は保存療法を続けているところです。一時は、透析も考えたほど腎臓の機能が低下していたんですが、今は良くなってきています。まだ数値は悪いので、経過については注意して見ていかないといけないといったところです」

「そうですか」

「とにかく他の大きな手術は成功しているので、腎臓が良くなってもらうと安心できるんですがね」

「それほど悪いんですか」

「いえ、一時ほどではありません。ただ、今は注意が必要な状態であるということです。先程も申しましたとおり、少しずつですが、数値は良くなっていますから、このまま良くなるのを待つほかはありません」

「わかりました」

「では私はこれで」と言って、片桐は病室を出て行った。

 何人もの医師に会うので、真理子はその名前をすべて覚えていることはできなかった。今、出て行った医師も誰だったか、もう忘れていた。