小説「僕が、警察官ですか? 1」

十五

 午後五時のニュースで、新宿区西新宿の路上で午前一時半頃、警察官が発砲されるという事件が起きたことがトップニュースで流れた。

 警察官は無事で、発砲した高島研三容疑者がその場で逮捕されたことが伝えられた。

 ニュースを聞いていたきくが、「その警察官ってあなたじゃないでしょうね」と言った。

 きくに嘘を言うつもりはなかったので、「いや、俺だよ」と言った。

「まぁ、それで大丈夫だったんですか」と訊いた。

「ニュースでも言っていたろ。警察官は無事だったって」と答えた。

「そうですけれど、心配ですもの」ときくは言った。

 その時、「パパ、お風呂」と京一郎が言ってきた。

「分かった。一緒に入ろう」と言うと「わたしも」と京一郎の後ろからききょうも言った。

「さぁ、みんなで入ろう」と僕は言った。

 

 風呂上がりの午後六時のニュースも、警察官が発砲されるという事件がトップニュースになっていた。僕自身のことを伝えられているようで、いい気分はしなかった。

 午後七時のニュースは見ずに、夕食をとった。

 八宝菜に、かに玉だった。本格的に作ってあったので驚いた。

 午後九時に山岡から携帯に電話がかかってきた。

「今日は災難でしたね」と言った。

「そうですね」と応えた。

「飯島明人が石井を絞殺したことを吐きましたよ」と言った。

「本当ですか」と言ったが、意外に早かったな、とも思った。もともと性根の座っている男には見えなかった。

「ええ。後の二人も時間の問題です」と言った。

「そうですか」

「鏡さんも気をつけてくださいね。相手は手傷を負っているから、こんな暴挙に出たんですよ。でも、やぶ蛇でしたけれどね」と言った。

 僕が何も言わないでいると、「では、これで」と電話は切れた。

 

 午後十一時にベッドに入った。きくが眠ったので、時間を止めて、机の引出しからひょうたんを取り出して、ダイニングルームに行った。

 長ソファに座ってひょうたんの栓を取ると、あやめが現れた。

「今日は危なかったですね。あんな武器があるなんて知りませんでした」とあやめが言った。

「あれは拳銃と言うんだ。現代じゃあ、一番危険な武器だ。よく覚えておいてくれ」と僕は言った。

「あれは拳銃と言うんですか」とあやめが言ったので、「ピストルと言うこともある」と僕は付け加えた。

「拳銃とピストルですね」とあやめは言った。

「それを持っているようなら知らせてくれ」

「わかりました」と言った後、「こ褒美くださいね」と躰をすり寄せてきた。

「分かった」と言って、あやめを抱き締めた。そして、唇を吸った。それからパジャマを来ているのにも拘わらず、あやめと交わった。

 これは何度しても慣れなかった。

 射精をした。あやめがすぐに吸い取った。そのまま口でペニスを吸い続けた。また、勃起してきて射精をした。今度は長かった。

 それも全部吸い取った。

 僕はことが終わるとシャワーを浴びた。そして、バスタオルで躰を拭いて、パジャマを着た。

「そんなことしなくてもいいのに」とあやめは言ったが、こればかりは気になってしょうがなかったのだ。

 あやめをひょうたんに入れて栓をし、机の引出しに入れた。

 それからベッドに入って、時を動かした。

 僕はすぐに眠った。

 

 次の日の朝刊は、警察官が発砲されるという事件をどこもトップニュースとして扱っていた。警察官の氏名はどのマスコミも発表していなかった。ただ、犯人の高島研三については、詳しい履歴が載っていた。

 次のニュースが芸能界に広がる覚醒剤汚染の問題だった。三番目がNPC田端食品が販売している「飲めば頭すっきり」というドリンクの販売が中止されたというニュースだった。

 朝食を子どもたちととって、僕はまた眠った。今日は午後五時から午前一時までの勤務だった。

 

 午後四時に家を出て、西新宿署に向かった。私服から制服に着替えると、係員から指示と報告を受けた。その時に、「心理カウンセラーを受けたいのでしたら、その用意があるのでどうですか」と訊かれた。僕が発砲されたことが心理的に影響を受けていないか、上の方が心配しているようだった。僕は「必要ありません」と答えた。

 それから、午後五時に交番勤務に就いた。

 その日は何もなかった。

 

 一週間が過ぎた。

 飯島明人の自供で中本伸也も石井和義の絞殺と死体遺棄を認めた。それを指示したのが、興津友康だということも自白した。ただ、興津友康は否認し続けた。しかし、この件は証拠が揃っている上に、飯島明人と中本伸也の自供があるので、興津友康も起訴されるだろう。

 一方、警察官発砲の件は、高島研三が自供しているのと、携帯電話の通話記録が決め手で島村勇二も起訴される方向に向かっていた。NPC田端食品が販売している「飲めば頭すっきり」というドリンクに誰がどういう手段で、覚醒剤を混入したかは結局分からずじまいだった。

 芸能界の覚醒剤問題も一段落ついた。

 

 一ヶ月が過ぎると、万引きや窃盗が多くなった。大半はすぐに捕まった。その日暮らしの人がほとんどで、刑務所で冬を越したいのが本音だった。

 

 僕は冬になると、コートを着て、交番の前に立つことが多くなった。

 相変わらず。小さな相談やもめ事や事件はあったが、大きな事件は、管轄している範囲内では起きなかった。

 

 春になると、子どもたちの学年が一つ上になった。

 八月になると一年に及ぶ交番勤務が終わった。

 警察大学校で一ヶ月間の研修を受けた。そして、警部に昇進した。警部に昇任したので、警察大学校の警部任用科で四ヶ月の教養を受けた。

 警察大学校に通っている二〇**年九月**日火曜日に、全国警察剣道選手権大会が日本武道館で行われた。

 七回戦って、僕は一度も負けなかった。つまり、僕は全国警察剣道選手権大会を二連覇した。

 警察大学校を出た後、希望する任務地があったら申し出るように言われたので、家から通えるところを希望した。

 あいにく、家から通えるところは人気が高く、希望する部署がなかった。そこで、新宿区にある黒金警察署に新たに安全防犯対策課が設けられた。僕はそこの課長として赴任することになった。

                               了