三十五
僕は病院のベッドの中にいた。
僕が目覚めたのに気付いたのは、母だった。すぐにナースコールした。
看護師がやってきた。
僕の様子を見ると、すぐに出て行って、女医を連れてきた。
女医は僕を診察して、「意識が戻ったようね」と言った。
「どれくらい眠っていたの」と母に訊くと、「三日間」と答えた。
「たった三日間」と僕は訊き返した。
「そう」と母は言った。
「今、何時」と訊くと「午前九時過ぎ」と答えた。
女医は「これから検査をします。検査して何も出なければ、明日退院できますからね」と言った。
「それにしても、雷にうたれて火傷一つ負わないなんて凄いわね」と言った。
夕方、富樫が絵理を連れてきた。
「おい、また雷から復活したんだってな。お前、スゲぇな」と言った。
僕は笑った。
「絵理ちゃんを連れてきたぜ。絵理ちゃん、随分、お前のこと心配してたんだぞ」と言った。
絵理は富樫に、そんなこと言わなくてもいいのに、という顔をしていた。
「見舞いに来てくれてありがとう」と僕は言った。
「絵理ちゃんは、心配してたんだぞ」と富樫は言った。
「誰がこんな奴のこと心配するもんですか」と絵理は言ったが、「ありがとう。心配してくれて」と僕は言った。
「違うからね」と絵理は言った。
「でも、明日、退院するんだ」
「えー」と二人で言った。
「もっと入院していろよ。見舞いに来るからさ」
「もう、元気なんだってさ。検査の結果はどこにも異常なしでした」
「お前、タフに出来ているな」
「僕もそう思う」
「わたしは帰るからね」と絵理は言った。
「ちょっと待ってくれ。いつか言った質問の答えは」と僕は訊いた(「僕が、剣道ですか?」を参照)。
「こんな所で答えられるはずがないでしょ」と言った。
「それもそうだな」
富樫がいるもんな。
次の日、退院した。
家に帰ると、真っ先に自分の部屋に入った。ベッドの上に定国とナップサックとショルダーバッグが置かれていた。そして、長袖のシャツと肌着とトランクスとジーパンと安全靴も。
僕は長袖のシャツのポケットを探った。
お守り袋があった。
それを開けて見た。
きくとききょうと京太郎の髪の毛が出て来た。
了