二
次の日が来た。僕は起きると、持って行く物を点検した。今度は殺すわけにはいかない人が多数いることに気がついた。その時に縛る縄があればいいが、すぐには手に入らなかったらどうする。僕は考えた末、ビニール紐の塊とガムテープを持って行くことにした。それらをコンビニで買ってきて、ショルダーバッグに何とか詰め込んだ。もういつチャックがはじけ飛んでもおかしくはなかった。
ショルダーバッグの中に入れていたナックルダスターや折たたみナイフは革ジャンのポケットにしまった。
用意ができると、図書館に行った。前に借りた文献を見るためだった。閉架式の書庫から出されたそれには、一七一七年に白鶴藩は改易になっていた。幕府は白鶴藩を潰す気だったのだ。それが分かれば良かった。本を返すと、僕は家に戻った。
午後七時になると、僕は革ジャンにジーパンを穿き、その上からリバーシブルのオーバーコートを着た。そして、玄関に行くとくるぶしまで隠れる丈の長いシューズにしか見えない安全靴を履いた。そして、大小のナップサックにショルダーバッグ、そして簡易のゴルフバッグを背負うと、母と玄関を出た。
玄関には父も見送りに来ていた。
僕らは電車で西日比谷高校の正門まで行った。正門からは校庭が見える。
僕は月が出ていることを確認して、門をよじ登って中に入った。母が校門の門のところに寄ってきて、「京介」と声をかけた。
僕は分かっている、というように頷いた。
空が俄に曇ってきた。
月を包むように雲がかかってきた。そして、そこから雷鳴が聞こえてきた。
僕は校庭の中央に立つと、背負っていた簡易ゴルフバッグの中から、定国の本差を出して、鞘から抜いた。
そして、持ってきた物を背負って、右手を天高く突き上げた。その時、激しい雨が降ってきた。そして、稲光がした。
白い光が定国を目指して落ちてきた。僕はまもなく、その白い光に包まれた。躰から魂が抜け出していくのが分かった。僕は持ってきた物をなくさないようにしっかりと掴んでいた。光は僕を上空に連れて行った。そして渦の中に巻き込んでいった。
意識が薄れていく中で、きくのところへ、と強く念じた。そのうちに僕は気を失った。
母は雷に打たれて校庭に倒れている僕を見ると、一一九番に電話した。