小説「真理の微笑」

五十

 西野と遠藤が病室にいた。カード型データベースソフトのβ版ができたのだ。

 私に動作の最終確認をしてもらいに来ていた。

 私は細かなところまでチェックした。メニューや操作方法には、特に問題はなかった。後は、実際にデータを入力してどうかという事だった。

 西野と遠藤は、ダミーのデータを大量に入力して、検索方法や画面表示の状態なども確認できるようにしていた。二人が操作している限りでは、問題無さそうだった。問題のデータ保存画面を表示させた。ファイル保存画面の保存形式という項目をクリックすると、「CSV形式」という項目の他に「トミーワープロ住所録形式」というのがあった。

「基本的には、CSV形式と同じなんですが、項目の並び順がトミーワープロの住所録と全く同じになっているんですよ。だから、これで保存をすれば、トミーワープロの方で読み込んだとき、全く違和感なく使えるんです」

 西野が得意そうに言った。

「それからですね」

 遠藤がフロッピーを入れ替えて、別のデータを読み込んだ。

「こうして、前のデータを表示したまま、新たにデータを読み込むと、同じデータが複数できてしまうでしょう。でも」と言いながら、画面を操作して、「重複データを削除」というメニューを表示させ、「これで、重複データを一括削除する事も、一つ一つのデータを確認しながら削除もできるんです。それと、削除したデータを復活させる事もできるんです」と言った。

「なるほど」

「来週の会議で、このβ版の製作を提案しますがいいですか。主要な雑誌社や利用者に送って評価を受けなければなりませんからね」

「分かった。承認しよう。企画案を稟議書にまとめて判をもらってきたら、私も判を押すよ。ところで、このカード型データベースソフトの名前はどう付けたんだ」

「『TS-Word』がトミーワープロと呼ばれるようになったでしょう。だから、今のところ『トミーCDB』ってしようと思っているんですけれど」

「カード型データベースソフトだから『トミーCDB』ね。もっとましな名前は付けられないのかね」

「すみません」

「思いつかなくて」

 西野と遠藤が謝った。

「まぁ、いい。私も適当な名前が思いつかないから、取りあえずそれでいってくれ」

「はい」

 二人は出て行った。

 

 これでカード型データベースソフトも世に出るのか。(株)TKシステムズで作ったソフトが二つとも世に出る。おそらく(株)TKシステムズの名前で売り出しても、トミーワープロはこんなにもヒット商品にはならなかっただろう。そしてカード型データベースソフトも、そうだろう。そう思うと、世の中というのは、ただいいものを出せば売れるというものではないんだな、と思い知らされる。しかし、いいものでなければ売れないのも事実だった。(株)TKシステムズで作ったものが良かったから売れたのだ。

 富岡の使った手は卑怯だったが、世の中を勝ち抜いていくには、馬鹿正直なだけでは駄目なのかも知れない。私はそう思った。