小説「僕が、剣道ですか? 4」

五-1
 宿に戻ると、僕の帰りが遅いので、きくが心配していた。
 僕は番所であったことを話した。
「まぁ、そんなことになったんですか」ときくは心配そうに言った。
「やるしかないだろう。相手は私を試しているのかも知れない」と僕は答えた。
「まぁ、そうですの」
「今のところ、訳も分からない流れ者だからな。鏡京介かどうか、盗賊と戦わせてみれば分かると思っているのだろう」
「でも、無理はなさらないでくださいね」ときくは言った。
「無茶を承知で押しつけてきたんだ。やるしかないさ」と僕は言った。
 少し早い時間だったが「銭湯に行ってくる」ときくに言って、手ぬぐいとバスタオルとトランクスを持った。肌着は汗が引いてから、着ることにしていたので、持って行かなかった。
 湯船に半身浸かりながら、明日着て行く物を考えた。
 草履では戦えなかった。ここは安全靴を履いて戦うしかなかった。最初から安全靴を履いていたら、あの下っ端の役人に怪しまれるだろう。だから、安全靴は風呂敷に包んで持って行き、向こうで草履と履き替えようと思った。
 ジーパンは最初から穿いていくことにした。着物を着ていくから、その下に隠れるだろう。上は肌着に長袖シャツを着ることにした。着物は脱いで、草履と一緒に風呂敷に包んでおこうと思った。
 帯は刀を差すのに便利なので、ジーパンの上から巻いて締めようと思った。細紐は風呂敷に包むことにした。
 それから、折たたみナイフをジーパンの尻ポケッとに入れていくことにした。
 これで大体の準備が、頭の中では揃った。
 風呂から出ると、躰を拭いて、新しいトランクスを穿いた。そして、着物を着て、宿に向かった。
 部屋に戻ると、きくとききょうが銭湯に行った。
 僕は、明日着て行く物を出した。そして折たたみナイフも取り出した。それらを部屋の隅に置いた。

 夕餉は明日のこともあるので、多めに食べた。その時、竹水筒に水を入れていくことを思いついた。明日、竹水筒を洗い、中に水を詰めなければと思った。
 夜は早めに眠った。きくとは抱き合わなかった。

 朝は早くに目が覚めた。顔を洗うと、竹水筒を洗い、中に水を入れて栓をした。
 朝餉も多めに食べた。おひつに残ったご飯で、きくに大きなおにぎりを一個作ってもらった。それをビニール袋に入れ、風呂敷に入れた。風呂敷にはシューズがすでに入っていた。長袖のシャツは向こうに着いたら着ることにして、それも風呂敷に入れた。それからタオルも入れた。それらを風呂敷に入れると、風呂敷の四方の内の二方を包んだ。風呂敷が解けないように、細紐で縛った。
 上は肌着だけで、下はジーパンを穿きベルトで締めた。その上から着物を着て、帯を締めた。
 その時、下っ端の役人がやってきた。
 僕は下っ端の役人から研ぎ上がった刀を受け取り、帯に差した。そして、竹水筒も帯から紐で垂らした。
「用意は整いましたか」と訊くので、風呂敷鼓を右肩から斜めになるように腹の所で縛って持った。
「揃った」と答えると「行きましょうか」と言った。
 階下に下りていき、僕は草履を履いた。ききょうを抱いたきくが心配そうに見送りに来た。
「大丈夫だから。行ってくる」ときくに言った。
 きくは泣きそうな顔で「いってらっしゃいませ」と言った。