2026-07-01から1ヶ月間の記事一覧
二十 一週間後、夏美は祐一を連れて、刑務所に午前八時半に着いた。高瀬隆一との面会手続きを取ろうとしたら断られた。 何故断られたのか理由を尋ねると、月二回の面会回数を超えるからだと言われた。誰か他に高瀬隆一に面会に来ている者がいるという事にな…
十九 警察から押収された品物が返却されてきた。 夏美は、それを二階の高瀬の自室となる所に収めた。 八月半ばになって、高瀬と面会できる事になった。弁護士事務所から連絡が来たのだった。 面会室のアクリル板越しに見る高瀬は、少し、いやだいぶ若返った…
十八 六月になった。 判決が申し渡される事になった。 「主文、被告人高瀬隆一を懲役八年の刑に処する。罪状、殺人及び死体遺棄罪、罰条、刑法第**条**項及び、刑法第**条**項。……」 主文が言い渡されると、報道陣は一斉に法廷を出ていった。 弁護側…
十七 傍聴席にいた夏美は、証人としてあけみが現れた時は、心穏やかではなかった。真理子の存在だけでも、いっぱいいっぱいのところにあけみが現れたからである。そして、あけみが「ここでそれを言えと言うの。男と女の事だからわかるでしょ」と言った時は、…
十六 十二月下旬になると、夏美は学校に行き、担任と相談をした結果、とにかく二月早々にある有名私立中学校と国立中学校を受験する事に決めた。 国立某中学校は、来月一月の中旬になってすぐの二日間のみ窓口受付を行い、有名私立中学校の方は、郵送であれ…
十五 第二回公判は十二月の中旬だった。祐一の業者テストが行われる時期と、学期末テストの時期に当たっていた。 しかし、公判を休むわけにはいかず、夏美は前と同じような席に座った。真理子も同じように座っていた。 第二回公判は、まず検察側の証拠の提示…
十四 九月になった。二学期になって、祐一は学校に行くのを嫌がった。大勢いる中で、一人だけなのが堪えられなかったのだ。祐一はせめて一学期だけは頑張って学校に通ったが、夏休みの間も誰も友達は来なかった。学校のプールに行く日も休んだ。 夏美は学校…
十三 夏美の実家から取材陣もいなくなり、ワイドショーにも富岡修の件が報じられなくなった六月のある日の事だった。 富岡修が高瀬隆一として詐欺罪で逮捕されたのである。 詐欺罪の逮捕は、明らかに別件逮捕であった。本丸は、高瀬隆一の富岡修殺しであった…
十二 新学期が始まった。高瀬祐一は、夏美に連れられて報道陣の囲みを破るように、学校に向かった。農道を歩いていて、近くに人がいなくなった時、祐一が「ねえ、お母さん、お父さんは悪い事をしたの」と訊いた。夏美は握っていた祐一の手をより強く握って「…
十一 週刊誌の続報は、「富岡修さんのDNAを追え」だった。やはりフリージャーナリストの近藤の記事だった。 近藤の論旨は単純だった。茅野の自動車事故で顔面がわからなくなるほど損傷を負った男がいて、その男が最新医療の技術で、車の所有者と同じ顔に…
十 「夏美さぁ~ん」 干し物を取り込みに庭先に出てきた夏美に、遠くからマイクが向けられて中年の女性リポーターの声が響いた。 「高瀬隆一さんが生きているかもしれないって知ってましたか」 夏美は答えずに洗濯物を取り込んだ。 居間に入ってテレビを点け…
九 三月、祐一の終業式も終わり、夏美は庭で洗濯物を干していた。 そこに三十代ぐらいのハーフコートを着た男性がやって来た。 頭をちょこんと下げて名刺を差し出してきた。そこには「フリージャーナリスト 近藤昭夫」と書かれていた。 名刺を受け取ってしま…
八 夏美は富岡修と紹介されている写真に見入った。見ていくうちに、何故か鳥肌が立った。記事を読んでいくと、富岡修も昨年、七月に自動車事故を起こして数ヶ月入院していた事が書かれていた。ただ、どこで事故を起こしたのか、そしてそれが七月の何日である…
七 一ヶ月ほどして、また島崎と高橋はやってきた。預かっていた物を返しに来たのだった。段ボールに詰められている中身を一つ一つ確認して預かり書の受領欄にサインをすると、島崎が「何も言わないで帰るのも失礼ですから、事情だけは説明します。先月、奥さ…
六 十月の上旬だった。夏美の実家に茅野の警察署の刑事が二人訪れた。 二人は、島崎と高橋と警察手帳を見せて名乗った。 島崎の野太い声から、いつか電話で話をした刑事だと夏美にはわかった。 二人を座敷に通すと、挨拶もそこそこに夏美はすぐに「主人は見…
五-一 十二月の中頃、夏美の元へ高瀬から分厚い封筒で三百万円の現金が送られてきた。 『隆一様 素敵なクリスマスプレゼントありがとう。三百万円、確かに受け取りました。あなたの書かれた住所も電話番号も、名前のようにでたらめでしたね。電話をかけたけ…
四-四 夏美は、高瀬から電話や手紙、メールがあった時から何もしていないわけではなかった。高瀬の手紙には「怪我をして、ある病院に入院している」と書かれていた。 夏美はまず茅野にある病院全てに電話をして、高瀬隆一が入院していないか、確認した。し…
四-一 『隆一様 メモ通りに設定しました。わたしには難しくて、よくわからないところもありましたが、何とか終える事ができました。このメールが無事届くといいですね。 今、わたしたちは埼玉のわたしの実家にいます。祐一は転校してきたばかりで、まだ友達…
三 午後七時頃、電話があった。父が出ると、その電話は切れてしまった。夕食の用意をしていた夏美は、父が出る前に受話器を取ろうとしたが、またも父が出てしまい電話は切れた。父が食卓の方に来たので、夏美は電話機の前で待っていると、三度目の電話が鳴っ…
二 二ヶ月と十日ほど経とうとしていた頃だったろうか、午後四時頃に突然、居間の電話が鳴った。 夏美は庭にいて洗濯物を取り込んでいた。 夏美は洗濯物を縁側に置くと、居間に駆け上がり、受話器を取り上げた。高瀬からの電話だと思ったのだ。 「もしもし、…
真理の微笑 夏美編 麻土翔 一 七月最初の土曜日の午後だった。高瀬は「じゃあ」と笑顔で車に乗って、蓼科に向かって出発した。 夏美は「気をつけて行ってきてね」と言い、高瀬の車が角を曲がるまで手を振っていた。 高瀬は翌日のお昼頃には帰ると言っていた…
六十二 トミーワープロはバージョンも重ねて、さらに売れ続けた。そして、六年後には、新宿区に新社屋を建てた。 落成式は盛大に行われた。 猛は有名な私立小学校に入学した。 その年に二人目の子どもが七月に授かった。女の子だった。絵美と名付けられた。 …
六十一 九月も終わろうとしていたその日、真理子は朝食にパンケーキを焼いていた。 赤ちゃんは高瀬の車椅子の隣で、ゆりかごの中で眠っていた。 高瀬は新聞紙を熱心に読んでいた。 パンケーキが焼けると、真理子は微笑みながら、「あなたぁ、焼けたわよ」と…
六十 三月になった。役員会も済み、真理子の社長代理の職も解かれた。企業決算も無事に終わった。 トミーワープロはその後も順調に売れ続け、昨年のビジネスソフト売行きナンバーワン賞を某出版社から授与された。その授与は、某ホテルの会場で行われること…
五十九 二月になった。 真理子のお腹の子どもは順調に育っていた。 ある日、介護タクシーで早く帰ってきた高瀬に真理子は驚いて、「どうしたの」と訊いた。 「少し疲れているんだ」と高瀬が応えると「それならベッドで休んだら」と真理子は言った。 「いや、…
五十八 真理子は高瀬を会社に送り届けると、そのまま区役所に向かった。母子手帳をもらうためだった。 真理子は母子手帳をもらうと、早く高瀬に見せたくて会社に行った。 しかし、社長室には高瀬はいなかった。高木が来て「新年会の御礼もあり、お得意様回り…